レビュー
長澤知之 | 2016.12.06
今年前半はバンド“AL”としてアルバム『心の中の色紙』をリリース、春にワンマンツアーを開催し、音楽シーンの話題を集めた長澤知之が、新しいミニアルバムを完成させた。贈り物、贈与、才能などを意味する“GIFT”をタイトルに冠した本作は、アナログのフィルムのようなザラついた音像、そして、ポップとサイケデリア、震えるような繊細さと爆発的なダイナミズムをごく自然に融合させたサウンドメイクなど、長澤らしさがストレートに発揮された素晴らしい作品となった。本作の成功のもっとも大きな要因はおそらく、長澤自身が自らの音楽性を客観的に捉えたことではないだろうか。バンドの活動を通し、彼が“ソロのシンガーソングライターとしてやるべきことは?”という問いかけを自らに課したことは想像に難くない。自分の作風、ボーカルスタイルなどを改めて見つめ、それをできるだけ高い純度で表現する――その最初の成果が、本作『GIFT』なのだと思う。共同サウンドプロデューサーとして益子 樹(ROVO)を迎え入れたことも、自身の音楽を俯瞰するうえで非常に重要だったはずだ。
彼の視座の高まりは、ソングライティング自体からも感じる取ることができる。そのことを端的に示しているのが“人はみなアーテイスト、生きること自体がアートなんだ”という意志を込めた「アーティスト」、飲み過ぎた次の朝の気分を♪とっくにボトラーなんだから/これは俺の映画なんだから♪という表現に結び付けた「ボトラー」だろう。まるでカメラを回すかのように自らの姿を描く、叙情詩と叙事詩が重なるような彼の作風は、本作においてさらなる高みに達していると言っていい。
そして、個人的にもっとも強く心を揺さぶられたのは、最後に収録されている「無題」だった。鋭利なアコギのアルペジオ、穏やかさと狂気が溶け合うようなボーカルとともに響く♪新しい故郷を探そう♪というフレーズは、孤独と混乱に向き合わざるを得ない現代人にとって、ひとつの福音のように聴こえるはずだ。
「風鈴の音色」でメインボーカルを務めている村上紗由里、ゲストコーラスの一色德保(つばき)など、長澤以外の声が聴こえてくるのも本作の開放感に繋がっている。自らの作風を突き詰め、そこで生まれた楽曲を誰にも媚びることなく、シンプルに伝える術を手に入れつつある長澤知之。デビュー10周年の節目にリリースされる『GIFT』は、彼自身にとっても大きな意味を持つことになりそうだ。
【文・森 朋之】
リリース情報
GIFT
発売日: 2016年12月07日
価格: ¥ 2,100(本体)+税
レーベル: ATSUGUA RECORDS
収録曲
01. 時雨
02. 舌
03. アーティスト
04. 君だけだ Acoustic Ver.
05. ボトラー
06. 風鈴の音色
07. 無題