高橋優初の全国ツアーファイナルをレポート!!
高橋優 | 2011.07.21
あの日以来、僕たちが“言葉”―安心できたり、ほっとできたり、元気になったり、笑えたり、生きていくための勇気を持つための―を求めているのは明らかで、それはもちろん音楽も例外ではない。テレビやラジオから流れてきた「上を向いて歩こう」(それにしても、本当に良い曲だ)に多くの人が何かを感じたように、この先の音楽にとって言葉(歌詞、そして、それを伝える声)の比重はさらに高まることになる。そういう意味において高橋優は、まちがいなく、これからの音楽シーンのフロントラインに立つ才能なのだと思う。1stフルアルバム『リアルタイム・シンガーソングライター』のリリースに伴う初めての全国ツアー「高橋優初の全国ライブツアー~唄う門にも福来たる2011」の追加公演、恵比寿LIQUIDROOM。チケットは完全ソールド・アウト、超満員のオーディエンスの前で高橋は、自らの言葉の力、歌の力をしっかりと示したのだった。
開演時間を10分ほど過ぎたころ、バンドメンバーに続いて高橋優が登場。深々とお辞儀をした後、アコースティックギターを持ち、ジャキーンという鋭い音色を放ちはじめる。オープニングナンバーは「希望の歌」。疾走感に満ちたサウンドのなかで、「願いは叶う 時代は変わる 今がどれほど苦しくても」「唄おう 希望の歌を」というフレーズがずっしりとした手ごたえとともに伝わってくる。さらに「僕らの明日が待ってる きっと世界は素晴らしい」という歌詞を持つ「素晴らしき日常」へ。まっすぐにオーディエンスを見つめながら、ひとつひとつの言葉を響かせていく高橋。その歌は圧倒的なリアリティを伴いながら、ひとりひとりの身体へとダイレクトに届けられていく。
ニューシングル「誰がために鐘は鳴る」からは、まさに“リアルタイム・シンガーソングライター”と呼ぶにふさわしい、生々しい手触りを持った歌が続けられる。これから起こることをすべて受け止めようと決意する瞬間を歌った「靴紐」。大好きな彼女への思いを日記形式で綴った「8月6日」。世の中のことも他人のことも、正確なところはわからない。でも、“君が好き”というこの気持ちだけは本当だと確信できる―そんな思いを描いた「ほんとのきもち」。すべては高橋自身の生活のなかから紡ぎ出された歌ばかりだが、全身全霊で表現する彼の姿を見ているうちに、それがまるで“自分の歌”のように思えてくる。ストリート・ライブのなかで培われた“伝える力”はこのツアーによって、さらに鍛えられ、磨き上げられたようだ。
ライブ中盤で特に印象に残ったのは、ギターを弾かず、ボーカルだけに専念した「少年であれ」だった。「抱えきれない痛みは 抱えなくて別にいい」。諦めではなく、なげやりでもなく、しっかりと現実に目を向けているからこそ生まれる切実なメッセージが目の前に迫ってきて、思わずグッと来てしまう(僕が確認しただけでも、泣いてる人が5人くらいいた)。これほどまでに強い説得力をたたえた歌には、なかなか出会えるものではない。
「ここからはアッパーなタイプの曲が続きます!」という高橋のMCに導かれ、ライブはクライマックスに向かって走り始める。ポジティブなパワーが炸裂する「花のように」、アコギをエレキに持ち替え、パンキッシュな音像によってオーディエンスを熱狂させた「終焉のディープキス」、性的な衝動を包み隠すことなく歌った「頭ん中そればっかり」(こういうテーマを歌えるところが、高橋の凄さだと思う)、そして、高橋優というシンガーソングライターの本質―結局のところ人は、他者とのつながりの中にしか希望を見出せない―を射抜いた「現実という名の怪物と戦う者たち」。ヒリヒリとした感触をたたえた歌によって、大勢のオーディエンスがひとつになっていく。彼の歌はいま、こんなにもたくさんの人たちに強く求められている。そのことを改めて実感する瞬間だった。
本編ラストの「福笑い」の前に高橋はこんなふうに話した。ライブが終わっても、明日とか明後日とか、心から笑える瞬間だったり、楽しい、幸せだなって思える瞬間が少しでも増えていけばいいと思います―その後に歌われた「きっとこの世界の共通言語は 英語じゃなく笑顔だと思う」というフレーズはきっと、観客の心をずっと照らし続けることになるはずだ。
ライブ終了後、フロアからは「福笑い」の大合唱が生まれた。11月からは2度目のツアー「高橋優2011秋の全国ツアー~誰がために唄う優」の開催も決定。言葉を信頼し、人を信頼することで生まれる高橋の歌はここから、さらに多くのリスナーを魅了していくことになるだろう。聞く人の心に寄り添い、励ます“歌の力”はこれからの世界にとって、絶対に必要不可欠なのだから。
【 取材・文:森 朋之 】
リリース情報
セットリスト
- 希望の歌
- 素晴らしき日常
- 誰がために鐘は鳴る
- 靴紐
- 8月6日
- ほんとのきもち
- サンドイッチ
- メロディー
- 少年であれ
- 花のように
- 終焉のディープキス
- 頭ん中そればっかり
- 現実という名の怪物と戦う者たち
- こどものうた
- 福笑い Encore
- 駱駝
- シーユーアゲイン
INFORMATION
♪高橋優2011秋の全国ツアー~誰がために唄う優
◆開始日:2011年11月6日(日)~
※ツアーの詳細はオフィシャルサイトをご確認下さい