先日、幕を閉じたツアー「LOVE LIKE POP vol.14」でaikoは内容のまったく異なる２つのセットリストを用意して全国を巡っていた。それは、ひとつのツアー内でアーティストとしての表情の幅を明確に見せつける斬新なトライであり、同時に何度も観に来てくれるファンを驚かせたいという自身の強い気持ちもこめられていた。10年を超えるキャリアを経てもなおステキなサプライズを届け続けることを忘れないのは、実にいたずら好きなaikoらしい。

　ツアー終盤となる7月16日・NHKホール公演は、“その１”タイプのセットリスト。壮大なオープニング映像で一気に夢の世界へと引き込まれた瞬間、１曲目となる「れんげ畑」が。ホーンをフィーチャーした大人っぽい雰囲気での幕開けは意表をつかれたが、こんなaikoもありだなぁと心地良い気分に。続く２曲目からは「花火」「beat」「Smooch!」と気持ちが跳ね上がるキラーチューンを連発。軽快に飛び跳ねながら歌い、最前列のファンと嬉しそうにハイタッチを交わす光景も見られた。観客はもちろんだが、aiko自身も心底、楽しんでライブに向き合っていることが伝わってくる。

　名バラード「気付かれないように」で会場を感動で包み込んだ後は、aikoライブではおなじみの弾き語りコーナーへ。まずは観客から募った７つのキーワードすべてを盛り込み即興で曲を作ってくれた。到底１曲にまとまるはずのない脈絡のない言葉たちを使って、見事に共感を呼ぶストーリーが目の前で生まれていく様に大歓声が巻き起こった。ちなみにこの日、作られた曲のタイトルは「あたしの口内炎」（笑）。確実に音源化されることはないであろう名曲、その内容を想像してみて欲しい。その他、aiko自らが弾くキーボードと歌のみで「ラジオ」と「恋道」も披露された。音数の少ない中で響き渡る、ふくよかで感情に満ちた歌声を堪能できた瞬間だった。

　ステージ上にキラめく星空が浮かび上がった「アンドロメダ」から後半戦がスタート。衣装チェンジをしたaikoがハイテンションで最高の盛り上がりを作り上げていく。翌日の13周年記念日を前に歌われたデビュー曲「あした」や、超高速のピアノロックでアグレッシブなパフォーマンスを見せてくれた「猫」など、息つく暇を与えない選曲が気持ちいい。そしてラストは、ライブでの超重要キラーチューン「ジェット」。今年２月にリリースされた初のベストアルバムにはライブを意識したロック色強めのリアレンジバージョンが収録されていたが、もはやそこからもさらに進化している印象。猛烈なサウンドでみんなを汗だくにし、大興奮のままに本編は終了した。

　当然、観客の興奮は収まるわけもなく、鳴り止まない歓声をきっかけにアンコールへと突入。柔らかな歌声で「ホーム」を届けた後、aikoは静かにしゃべりはじめた。
「ライブできる喜びを１本１本かみ締めています。これからもいろんなことがあるかもしれへんけど、この会場のみんなとまた逢いたいです。みんなと歳を重ねていきたいです」。

　震災の最中にリハーサルを行っていたという今回のツアーは、開催すらもどうなるかわからない状態にあったという。だからこそ、ツアーが実現できたこと、それぞれの会場でファンと楽しい時間を共有できたことが本当に嬉しかったのだろう。感極まりながら思いを吐き出すaikoの姿に、観客も涙を浮かべながら大きな拍手を送っていた。その後、「シアワセ」と「約束」という、今のaikoの気持ちを代弁する２曲を歌い、約３時間のライブは終了した。

　そして。＜いつかまた逢える日が来るでしょう＞という「約束」の歌詞が、はやくも現実のものとなることが発表された。10月22日から、次なる全国ツアー「LOVE LIKE ROCK vol.5」がスタートする。ライブハウスを巡るこのツアーでは、またaikoの異なる表情が堪能できることになる。同じく「約束」の＜その日まで必ず元気でいてね＞というフレーズをかみ締めて、来るべき日を待ち焦がれることにしよう。

【 取材・文：もりひでゆき 】