ニューシングル「夏の大三角形」の発売日当日、５月16日に代々木公園野外ステージでリリース記念のフリーライブが行われた。

　初夏の夕方にふさわしい気持ちのよい風が吹き渡る会場に、続々と音楽ファンが集まってくる。ステージを見渡せる歩道橋にも、人がいっぱいだ。たんに自転車で通りがかった人も、何事かと足を止める。ひときわ涼しい風が吹いたとき、NICO Touches the Wallsのメンバーがステージに登場した。

　大きな歓声が上がる。制服姿の女子高校生など、今日、初めてNICO Touches the Wallsを観る人もかなりいるようだ。ボーカル光村龍哉は何も言わず「Diver」を歌い出す。P.A.の音がまだ整わないが、オーディエンスのNICO Touches the Wallsを求める気持ちはストレートで、簡易柵につかまりながら身を乗り出している。と、曲の途中で光村が「一回、止まります」と言って、演奏を中断したのだった。

　購入者特典用にステージ前に設けられた“大三角形エリア”で、オーディエンスが見づらくなるトラブルがあったらしい。「靴が片っぽ、脱げてる人がいるみたい。もう一個、サンダルも出てきた(笑)。助け合って、譲り合ってやっていきましょう」と光村は会場が落ち着いたのを確認して、さっき止まったところからいきなり歌い出したから、ちょっと緊迫していた場内がスムーズにライブ空間に戻っていく。

　ここからは、いつものバンドのペースに。古村大介のギターはスピード感たっぷりに歌を盛り上げる。ドラムス対馬祥太郎のコーラスワークもいい。ベースの坂倉心悟は体全体を使って、グルーヴを伝える。

「平日にも関わらず、メチャクチャすごい人数が集まってくれて、本当にありがとう。今日はシングルのリリース日です。昨日は雨だったけど、今日はライブ日和。今年初の“夏日”を記録しました。最後まで楽しんでいってください」と光村。クールな「夏の雪」に続く、ホットな「ラッパと娘」は「夏の大三角形」のカップリングで、昭和歌謡の名曲のカバー。観客の世代とは無縁な古い曲ながら、エモーショナルな演奏に大きな拍手が沸く。光村はこの曲について、「自分たちのルーツを、これからどんどん紹介していく」と語っていたが、その意図が花開いた瞬間だった。

「突然、発表したフリーライブでしたが、フタを開けてみれば大勢来てくれた。それに今日はこのライブを全世界に生放送してます。早速、やってみちゃおうかな。ぼちぼち星も見えてくるんじゃないかな。代々木でこの曲をやることができて嬉しいです」。

「夏の大三角形」のイントロが始まる。この曲を作るにあたってメンバーは“NICO Touches the Wallsらしい夏のキーワード山手線ゲーム”を行なったという。そして出てきたのが、浜辺でもプールでもなく、“夏の夜空”だった。夕暮れ迫る頃、始まった「夏の大三角形」は、まさにピッタリ。このバンドの持つ青春性とインテリジェンスが、優れたラブソングに昇華されていく。

　僕の隣では、小学生の息子二人を連れた主婦らしい方が♪三分間♪と、サビを一緒に歌っている。普段はなかなかライブに来れない人にとって、このフリーライブは本当に意義のあるものなのだろう。古村の満を持してのギター・ソロは、短いが、とても印象的だった。

　やがてライブは「THE BUNGY」、「手をたたけ」で大団円を迎える。みんなが心地よい夕風を浴びながら、ハンドクラップしたり歌ったり。コール＆レスポンスも交えて50分ほどのライブが終わった。公園の規制のため、音量やダイナミクスに少し不満はあったが、今年注目のNICO Touches the Wallsの今を感じるには充分の野外ライブだった。

【取材・文：平山雄一】