ライブバンドとして定評のあるCRAZY KEN BAND (以下CKB)は、昨年のツアーあたりからそのグレードをぐんぐんアップさせて、横山剣独自の世界観を存分に楽しめるように進化してきた。それはライブというより、“ショー”と呼ぶべきバラエティであり、観客を徹底的に楽しませたいという意気込みにあふれている。

　今年２月にリリースしたアルバム『TALIAN GARDEN』は、古きよき昭和の時代の横浜・本牧で、妖しい光を放った伝説のスポット“ITALIAN GARDEN”がテーマ。ITALIAN GARDENはCKBが結成された1997年に閉店したという因縁がある。そんな無国籍な地下クラブの熱狂を受け継いだショーが、今回のツアー“CRAZY KEN BAND SHOW ITALIAN GARDEN 2012”というわけだ。

　ツアー初日の赤坂ブリッツは、そんなCKBのエンターテイメントに期待するオーディエンスでいっぱいだ。ロックはもちろん、ラテンやＲ＆Ｂ、昭和テイストの歌謡曲まで、CKBの 音楽性は実に幅広い。そして、それ以上に歌詞のテーマは、恋愛や友情から主婦の抱くファンタジーに至るまで、驚くほど多彩だ。

　CKBのショーはそうした歌詞を大事にして様々な“コーナー”を形成し、そのブロックの集合体としてライブが成り立っている。今回も、公演地にちなんだ曲を歌う“ご当地リクエスト・コーナー”、なぜか会場に来ている人妻の名前を連呼する“奥さんコーナー”、あまり知られていない曲を演奏する“珍しいコーナー”など盛りだくさん。ブリッツのある赤坂は、お父さんの仕事の関係で剣さんが幼少の頃によく訪れた場所とのことで、突然、ムード歌謡の名曲「コモエスタ赤坂」を歌うなど、奇想天外な展開が楽しい。かと思うと、「ディナー・ショーじゃなきゃやっちゃいけない契約なんで、別途料金をいただきます」と特別サービスとしてフランク・シナトラのナンバーを歌うと、オーディエンスは大喜び。そのスタイルは、シナトラよりも、日本の誇るダーク・ヒーロー勝新太郎ばりだったりして(笑)。

「なじみのある曲、ない曲をゴッチャにやってます。でもそういう曲同士がどっかでリンクしてる。それに気が付いたとき、いいショックを与えられるかなと」。横山剣のボーダーレスな音楽性は、彼が歌うことで互いにリンクし始める。あらゆる音楽性に対応するギタリスト小野瀬雅生をはじめとして、音楽愛に満ちたメンバーが揃うCKBならではの発言だ。この言葉に、今回のツアーに賭けるバンドの意気込みを強く感じて、深く印象に残った。

　着うたフル限定配信の新曲「SOUL BROTHER」を披露したり、♪ィヨコワケ・ハンサム・ボーイ♪と歌いながら オーディエンスと一緒に決めポーズをしたり。

「ありがとうございます。残りのツアー、自信が出てまいりました。来年までこのツアーは続くんですが、途中でいろんなものがサンドイッチされてマンネリにならないように」。が、その口が乾かないうちに、「いやー、音楽ってイイネ！　まだツアーは始まったばかりです。よろしく！・・・最後って、どういう段取りだっけ？」と剣さんがメンバーに聞いたから、会場は大爆笑。

「正直言って、今日は疲れた」とボヤキながら最後の挨拶をする横山は、12人という大所帯バンドを率いるリーダーとして、あるいはライブの演出を考えるディレクターとしての自信の笑みを浮かべていた。

　彼が伝説の店“ITALIAN GARDEN”で受け取ったヴィヴィッドなメッセージを、この時代にどう伝えるのか。おそらくライブの内容は、ツアーを通じて自由奔放な変化を遂げていくに違いない。一筋縄ではいかないデンジャラスなツアーになりそうだ。

【取材・文：平山雄一】