クレイジーケンバンド、映画『つやのよる』を、独特の歌世界で描く!
CRAZY KEN BAND | 2013.01.28
クレイジーケンバンド(以下:CKB)のニュー・シングル「ま、いいや」は、阿部寛主演、行定勲監督の映画『つやのよる』の主題歌。横山剣の口癖でもあるという“ま、いいや”をタイトルにした、フィリー・ソウルの世界感も感じさせる、メロウなソウル・ミュージックだ。愛する女性に去られたけど、“ま、いいや”と言ってしまえるという、クレイジーケンバンドにしかできないような、艶っぽく、深い、大人の世界観だ。そこで横山剣に、この楽曲について、話を聞いてみた。
- EMTG:新曲「ま、いいや」は映画の主題歌ですね。
- 横山:行定監督が映画の構想を練っている時に、常にバックで流れていたのが、CKBの「ガールフレンド」と「横顔」の2曲だったそうです。その時点から、主題歌をCKBに、という考えはあったそうで、それでお話しをいただきました。
- EMTG:それまで、行定監督とは交流はあったのですか?
- 横山:まったくなかったんです。
- EMTG:では、突然お話しが来た、という感じだったんですね。
- 横山:そうです。それで脚本と映画のパイロット版を見せていただいたんですけど、日本にはあまりないような、いい意味で直球じゃない作品だったので、最初は、"敷居が高いかな"と迷ったんですけど、映画の後半で、主演の阿部寛さんが、なんともいい顔をするんですね。それに背中を押されるように、堰を切ったように曲が出てきました。
- EMTG:監督からは、「こういう曲にしてほしい」といったリクエストはあったんですか?
- 横山:艶のあるというか、「セクシーな曲にしてください」というお話しはありました。あと、映画は直球じゃないのに、「主題歌は直球にしてほしい」というリクエストもあって、最初“エーッ?”と思ったんですけど、セクシーで直球だったら、やっぱりソウル・ミュージック、それもフィリー・ソウルだろうと。
- EMTG:イントロのエレクトリック・シタールの音なんかは、まさにフィリー・ソウルのスタイリスティックスの世界ですね。
- 横山:(スタイリスティックスの)「ユー・アー・エブリシング」をそのまま主題歌にしてもいいくらいですよね(笑)。「横顔」でもエレクトリック・シタールを使っているんですけど、あの音がピッタリくるなと思って。シタールの音って、強烈な孤独感とか、喪失感があるんです。ぼくは10代の頃よく女の子に振られていたんで、それでスタイリスティックスの曲が、喪失感につながっているのかも知れませんけど(笑)。
- EMTG:歌詞も、振られた男のことを歌ってますよね。
- 横山:振られるだけならまだいいんだけど、映画の主人公は、女性に振り回されて、何もかも失ってしまうんです。でも、損得考えないでやりきって、MAXまでいってしまう男って、カッコいいなと思いました。それで、やり抜いたので、最後ホッとした、いい顔になったと思うし、そこで浮かんできた言葉が“ま、いいや”なんです。イージーな“ま、いいか”とは違って、ここまでやりきったから“ま、いいや”と。次に一歩踏み出すための“ま、いいや”なんですね。
- EMTG:歌詞が、剣さんと、行定監督の共作という形になっていますが。
- 横山:ぼくの場合、歌詞とメロディが同時に出てくる場合が多くて、意味よりも、メロディと一緒に出てきた言葉を、どうやって歌詞として意味を持たせようかというところから始まるんです。最初はトンチンカンなんですけど、それを微調整していって、意味のある歌詞にしていくんですね。今回もある程度まではできたんですけど、その先、どうにもこうにも歌詞が埋まらないというか、スパイスに欠けると思ったので、自分のボキャブラリーにはない言葉をスパイスとして入れたいなと思って、それで行定監督の注文の中にヒントがあったりしたので、だったらここはご本人にお願いしようと。歌詞の中にハナモゲラ語(メチャクチャ語の意味)になっているところがあるので、そこに自由に言葉を入れてください、と(笑)。結果的に、すごくいいものになりましたね。
- EMTG:できあがった曲に関して、監督からはどんな感想がありましたか?
- 横山:阿部さんの表情にインスパイアされたというお話をしたら、“最高の観客です”って言ってくださいました。
- EMTG:CKBとして、この曲を通じてリスナーに伝えたいメッセージなどはありますか?
- 横山:きっかけは映画なんですけど、艶感と、セクシーさと、愛し抜くタフな男のありかたを出したいなと思ったので、わりとウェットな楽曲になっています。今は乾いている時代ですから、そういうウェット感みたいなものを感じていただけたらいいなと思います。若い女性はもちろん、ぜひ40代くらいの女性にも聴いていただきたいですね。男にとってみたら、頭の痛い女性ですけど(笑)。“ま、いいや”(笑)。
- EMTG:一方、カップリング曲「SOUL BROTHER」は、アップテンポのソウル・ミュージックですね。
- 横山:『花の慶次』というコミックのイメージ・ソングで、「生き残れ!!!」という曲を作ったんですけど、そのパターンBというか、昭和40-50年代の、ヤンチャな、バイクに乗ってる不良少年感と、ちょんまげ感のミックスって感じかな。人間がココ一番、何かに挑もうとする時、心に去来するものを楽曲化してみようと。覚悟を決めた人、極限にいる人間って、いちばん美しいなと思うんです。もちろん戦争は反対だけど、闘う人間の表情を描いてみたかったんです。ぼくはモータースポーツが好きなんですけど、スタート前のレーサーって、めちゃくちゃ孤独だし、命懸けだし、真剣な故の悲壮感がある。でも、こうした状況に置かれてる人間ってカッコいいし、セクシーだと思う。その辺り表現してみたかった。
- EMTG:昭和40年代の不良映画の世界観ですね。
- 横山:梶芽衣子さんとかが出てた(笑)。洒落が通じないような世界ですね(笑)。ああいう、ざらついた質感です。そうなると、間奏は灼熱のトランペットだな、と(笑)。意味もなくダイナミックという(笑)。
- EMTG:今回のシングルを通じて、ファンの方に伝えたい思いのようなものはありますか?
- 横山:CKBのメニューがまた増えましたというか、“かき氷始めました”みたいな感じで(笑)、CKBの本質は変わらないですけど「今回はこんなん出てきました!」という楽曲たちです。CKBにはこういう側面もあるんだということを感じていただけたら嬉しいですね。
【取材・文:熊谷美広】
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