「Fumiya Fujii Concert Tour 2012“Life is Beautiful”」は、メッセージ性の強いツアーである。時代の風と匂いを独自の感覚でキャッチして、ポップソングとして歌う藤井フミヤにとって、この１?２年の世界はどう映っていたのだろう。多くの悲劇と、その後の困難は、フミヤの心のフィルターを通してアルバム『Life is Beautiful』として表現された。このアルバム・タイトルは、皮肉でも逆説でもない。フミヤがソロを通じてずっと掲げてきたポップ観、宇宙観、無常観が、この時代に出会って生まれた言葉なのだ。
　今回のツアーの中心となるのは、もちろんアルバム・タイトル曲「Life is Beautiful」だ。この曲に向かって、ライブは進む。前回のツアー「FUMIYA FUJII CONCERT TOUR 2010-2011“Sweet Groove”」は、リズムを中心としたバラエティに富んだ内容だったが、今回はひとつのフレーズに集約される非常にコンセプチュアルなツアーだ。そのフレーズとは、「Life is Beautiful」で歌われる　♪ありがとう　さよなら　同じ虹に逢う事はできない　♪　だと、僕は思う。

　“虹”はフミヤのポップ観を、“同じ虹に逢う事はできない”は宇宙観を、“ありがとう　さよなら”は無常観をそれぞれ表わしている。七色に輝く虹＝ポップは、時代の雰囲気によって二つと同じものはなく、人を楽しませるために現われては、すぐに消える。おそらくフミヤはこの時代に、そんなことを思ったのだろう。そして彼は、“Life is Beautiful”とつぶやいた。

　ツアー５本目の渋谷公会堂で、フミヤは「今回、子供が入れるようになりました」と嬉しそうに叫んだ。そう、この日は託児サービスが設けられ、“ママ・ファン”たちは安心してライブを楽しめるようになった。子供が入れるコンサートは珍しくはないが、ずっと「一緒に遊ぼうぜ」と言ってきたフミヤは、ある意味、ライブを“日常とはかけ離れた遊びの時空間”と位置付けてきた。普段の生活のこまごましたことを、ライブの間だけでも忘れてほしいと願ってきた。だから託児サービスを設置したのは、今回のツアーのテーマに沿った特別なものだと言えるだろう。

　そんなコンセプトを反映して、ステージはシアトリカル(演劇的)に進行する。セリフやボディ・アクションを駆使して、人生のいろいろな場面がステージに現われ、アルバム『Life is Beautiful』の歌と歌をつないでいく。それはフミヤの優れたフィジカルと、起伏に富んだキャリアがあるからこそ可能なステージングだ。

　一方で、「TRUE LOVE」や「女神(エロス)」などの人気曲は、ある種、ストイックなライブの流れの中で強烈なアクセントとしてまぶしい光を放つ。このバランスもまた、フミヤのエンターテイナーとしての資質のなせる業だ。重要なコンセプトを伝えるときに、オーディエンスの心を開くことの大事さを、彼はよく知っている。特にツアー15本目の大宮ソニックシティでの「TRUE LOVE」のパフォーマンスは、いつになく美しく、観客のリラックスした表情を見て、フミヤのラブソングのパワーを痛感したものだ。

　そしてライブの流れがピークに達したところで、「Life is Beautiful」が歌われる。優しくて広がりのあるこのバラードを、サウンド面で支えているのは、ペダル・スティール・ギターという楽器だ。これはアメリカのカントリー・ミュージックで使われる楽器で、伸びのある音で豊かな和音を奏でることができる。大きな平原を見渡しているようなイメージのサウンドは、まさに「Life is Beautiful」にぴったり。演奏しているのは、今回のツアーから参加しているギタリスト石成正人で、スキマスイッチや平井堅のバックも務める名人。石成は、ドラムの屋敷豪太やベースの有賀啓雄と並んで、このツアーの鍵を握るプレーヤーとして注目したい。

　そんなイマジネーション豊かなバックに乗って、藤井フミヤは歌に集中する。穏やかで、非常に深みのあるツアーは、50才を迎えたフミヤにとって、新しいスタートの第一歩となるだろう。そんな穏やかさの向こうに秘められた、パフォーマー“フミヤ”の一瞬の切れ味も含めて、若い世代の音楽好きにもぜひ体験して欲しいツアーだ。

【取材・文：平山雄一】