UNISON SQUARE GARDENの『誰かが忘れているかもしれない僕らに大事な001のツアー』のファイナルが、渋谷公会堂で行われた。この時代において稀有なほど堅実に階段を昇ってきた彼らが、遂に数々のロックバンドが伝説を作り上げてきた聖地に降り立ったのだ。

「流星のスコール」と「フルカラープログラム」という、新旧キラーチューンを交互に放つオープニング。斎藤宏介(Vo&G)のMCの第一声は「すげえな、これが渋公か!」だったけれど、その感動を体現するように、メンバーは3人とものっけからテンションが高い。田淵智也(B)も短距離走の如くステージを疾走している。そして、その思いはオーディエンスにも伝播していった。未発売の新曲「シャンデリアワルツ」も、すぐに浸透。続く「きみのもとへ」では、客席から自然とハンドクラップが起こる。さらに、斎藤が「いろんなことがありました」と神妙な顔をして語り出したかと思ったら、福岡に行ってラーメンを食べ、熊本に行ってラーメンを食べ、札幌に行ってラーメンを食べ、京都で鍋を食べた時の締めもラーメンだったというエピソード(笑)。「一回りも二回りも体格が大きくなってステージに立っている」という言葉に笑いながらも、ウィットに富んだMCまで披露する彼の余裕に、体格じゃない成長を感じた。

　鈴木貴雄(Dr)の華麗なドラムソロから「三日月の夜の真ん中」へ突入。ミドルテンポでも、楽曲の良さと気持ちいいグルーヴで空気をダレさせない。オーディエンスが、ライヴハウスではなくホールでも何ら抵抗なく楽しめる理由が、こういうところに赤裸々に表れていた。さらに、ダイナミックな「WINDOW開ける」は、天井の高い会場によく映える。強い志を持っているだけではなく、実際に様々な音楽を自分たちのモノにしていることがわかる楽曲が続く。その才能と努力に惚れ惚れとしていた意識を、パチーンと振り切るようにはじまった、ユニゾン的王道ソング「場違いハミングバード」が、また印象的だった。

　フロントマンの斎藤だけではなく、田淵と鈴木を呼ぶ声も多い状況に、斎藤は「斎藤ファンが少ないな」なんて冗談交じりにボヤきながら、「毎回(ライヴで)言ってきたんだけど」と口を開いた。「周りが手を挙げていると、自分もやんなきゃいけないと思うかもしれないけれど、僕らはそれを望んでいなくて。自分とステージの3人だけの世界で、自分が一番やりたい方法で楽しんでほしい」――この思いは、きっと既にオーディエンスには伝わっていたはず。とにかく彼らのライヴは、みんな自由に平等に見えるのだ。客席には、彼らはアニメのタイアップもやっているだけに、アニメ好きもいれば、フェスっ子もいれば、文学少年少女もいる。多種多様なオーディエンスが、最前列だろうが2階だろうが関係なく楽しめるライヴをやれるバンドは、そうそう多くない。こういうバンドが、大舞台へ向かう切符を持っているんだと思う。

　ワクワクにトドメを刺すような最新シングル「リニアブルーを聴きながら」、そしてツアータイトルの由来にもなった「誰かが忘れているかもしれない僕らに大事な001のこと」で本編は終了。斎藤は「ずっと俺らが見たかった景色」と感慨深げに客席を見つめ、ステージを降りた。

　アンコールは、いきなり未発売の新曲「光のどけき春の日に」からスタート。歌も音も優しく、コーラスはそよ風のよう。新たな一歩に相応しい楽曲だ。そんな絶好のタイミングで、2月から4月に至るまでのツアーを発表!　そして東京の会場はNHKホール!　「ウワー!」というオーディエンスの歓声に、私だけじゃない、ここにいる誰もが彼らが大舞台に似合うことを確信しているんだと思った。ラストナンバーは、客席もキラッキラに照らされた「オリオンをなぞる」。田淵がベースを置いてダッシュする場面もありつつ、最後は鈴木がポーンとスティックを投げ、それをキャッチして、ジャーンと音を合わせるというカッコよ過ぎる締め括りとなった。

　去り際に田淵は言った。「どうだ、ロックバンドは楽しいだろ!?」――ロックの価値観は、それぞれにとって違うだろう。しかも、彼らのライヴには多種多様なオーディエンスが揃っている。しかし、その場にいる全員が、田淵の言葉に痺れたはずだ。広く、且つ深く突き刺さる、夢のような存在だったロックを、彼らは今の時代に響かせようとしている。

【取材・文：高橋美穂】