安藤裕子、日本を代表する女性指揮者・西本智実、日本フィルによるスペシャルな一夜をレポ
安藤裕子 | 2013.03.13
かねてよりストリングスを用いた楽曲も多く披露していた安藤裕子と、日本を代表する女性指揮者である西本智実がコラボし、日本フィルハーモニー交響楽団をバックに迎えたスペシャルな一夜が実現した。会場はクラシックコンサートにおいて、国内有数のホールとして知られた「Bunkamuraオーチャードホール」。格調ある場内の雰囲気、約20mの高い天井、そしてステージに並ぶオーケストラセットが開演前から期待をふくらませる。
約70名にもおよぶ楽団員、続いて西本がステージへ現れると、まずは安藤抜きでオーケストラの定番曲である「ファランドール」が演奏される。ゆったりと壮大な出だしから、軽快な管弦楽の調べを経て、終盤で一気に盛り上がっていくと、早くも場内は拍手喝采。オーケストラに馴染みがなく、緊張して客席に座っていた人も多くいたに違いないが、たった1曲で緊張は感動へと姿を変えた。
長い拍手が鳴り止むと、上品な赤の衣装をスラリと着こなした安藤と、彼女のライブではお馴染みの山本隆二(ピアノ)がステージへ。共演の1曲目に選ばれたのは「ニラカイナリィリヒ」。ピアノとオーケストラから生まれる清らかな音色が、西本のタクトに合わせてゆっくりと空気を振動させ、心地良い揺らぎの中を泳ぐように体をくねらせて安藤が歌を乗せる。その響きは神秘的ですらあり、まるで雲の中を漂っているかのような感覚に落ちていく。続けて「私は雨の日の夕暮れみたいだ」、「Green Bird Finger.」で徐々にペースアップ。オーケストラの音量が増すにつれ、安藤の声も伸びやかで力強くなり、安藤?西本?日フィルの微妙なせめぎあいが音の表情を豊かにしていく。
MCでは、安藤がバンドとの音の響きの違いに驚きを見せれば、作曲出身という西本は安藤の作曲過程について質問。慣れない共演にぎくしゃくしていた感は否めなかったが、舞台上の本人たちにとっても、この夜がいかに貴重な機会であるかが伝わってきた。この後、オーケストラによる「亡き王女のためのパヴァーヌ」を挟み、「エルロイ」、「Lost child,」、「海原の月」を立て続けに披露。特に温かい管楽器と優雅な弦楽器、そして気高い母性あふれる安藤の歌声が絡み合った「Lost child,」から「海原の月」への流れは、感極まって目が潤んでしまうほど素晴らしかった。
15分ほどの休憩を挟んでの後半戦が始まると、ピアノと歌のみで2曲、オーケストラのみで2曲と、それぞれのコーナーへ。“♪先人たちが命をつないでくれたから今の私たちがいる。これからの未来を担う人たちのために♪”と歌った「グッド・バイ」では、民謡のようなメロディとともに安藤の慈愛に満ちた声を堪能させてくれ、対する西本も「ゴリウォーグのケークウォーク」で踊るようなタクトさばきを見せ、目にも楽しいステージを演出してくれた。
それぞれが持ち味を発揮して、両者が再び同じステージへ立った終盤戦では、壮大なスロウナンバーをこれでもかと畳み掛ける。やさしい音の海にどっぷりと浸からせてくれた「地平線まで」、最後は安藤がしゃがみこんで歌うほど渾身の想いが詰まっていた「隣人に光が差すとき」、安藤の激しい感情の昂ぶりをオーケストラが絶妙の強弱で支え、これ以上ないほどドラマティックに聴かせてくれた新曲「タイトル未定」。ステージも、客席も、その世界観にどんどん没入していく至福の時間だった。
そして“デビューして10年、いい思い出になりました”と安藤が手短な挨拶を告げると、あっという間に最後の曲「歩く」が始まる。全体的にMCが少なめだったこともあり、もうちょっとゆっくり余韻を楽しませてほしいとも思ったが(1曲1曲が素晴らしかっただけに!)、感慨深げな表情で噛み締めるように歌い、最後の最後に後ろから鳴るオーケストラの音を背中で受け止めるような仕草をした安藤の姿を見たら、ちょっと野暮な考えだったかなと反省した。きっと、曲を追うごとに増していたオーケストラとの一体感を維持するために、余計な間を挟みたくなかったのだと思う。その証拠と言うと、こじつけっぽくなってしまうが、1分と経たずに始まったアンコール「聖者の行進」は群を抜く出来だった。あくまでゆったりとしたテンポを維持しながら、西本のタクトに従って熱量をグングン上げていくオーケストラ。残った力すべてを振り絞るように、体を激しく動かしながら歌う安藤。お互いがお互いを高め合って盛り上がったクライマックスは、全身に鳥肌が立つほどの感動を与え、絶頂に達して締めくくった。鳴り止まぬ拍手のなか、がっちりと握手を交わした安藤と西本。壁から反射した音が豊かな響きを生み出すオーチャードホールでは、オーケストラが奏でる生の音が贅沢に体を包んでくれたが、最後に奏でられた盛大な拍手もまた、素晴らしい音色となって反射していたと思う。
【取材・文:タナカヒロシ】
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どんな曲を歌っても、決してその強烈な個性が失われることはない。2015年のクリスマスイブは、安藤裕子のヴォーカリストとしての魅力が解き放たれる前夜でもあった。
リリース情報
セットリスト
Billboard Classics「安藤裕子×西本智実スペシャルプレミア・シンフォニック・コンサート」
2013. 2.28@Bunkamuraオーチャードホール
- 1. ビゼー:アルルの女より「ファランドール」
- 2. ニラカイナリィリヒ
- 3. 私は雨の日の夕暮れみたいだ
- 4. Green Bird Finger.
- 5. ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
- 6. エルロイ
- 7. Lost child,
- 8. 海原の月
- 9. グッド・バイ(新曲)
- 10. たとえば君に嘘をついた
- 11. マスカーニ:「カヴァレリア・ルスツィカーナ」間奏曲
- 12. ドビュッシー:ゴリウォーグのケークウォーク
- 13. 地平線まで
- 14. 隣人に光が差すとき
- 15. タイトル未定(新曲)
- 16. 歩く
- En-1. 聖者の行進
お知らせ
2013 Acoustic Live
2013/05/03(祝)渋谷公会堂
2013/05/06(祝)仙台 宮城野区文化センター パトナホール
2013/05/11(土)札幌 道新ホール
2013/05/18(土)浜松市福祉交流センター
2013/05/24(金)大阪市中央公会堂
2013/06/08(土)活水女子大学 東山手キャンパス 大チャペル
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。