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熊木杏里、3月31日のツアーファイナルをレポート

熊木杏里 | 2013.04.15

 おや? なんだか雰囲気が変わっている。春だから? それともファッションのせい? メンバーからひと足遅れてステージに現れた彼女を見て、ハッとするほど軽やかになった空気感に驚いた。ピアノ、バイオリン、ギターの柔らかな音色に包まれ、優しい笑顔で歌い出した「心のまま」、「春隣」。どちらかというと彼女のライブのオープニングは固唾をのんで音と言葉に集中するような緊張感があったと思うが、この日は、なんだかとてもリラックスしたムードに包まれていた。

 長野から始まったツアーもいよいよファイナル。3月最後の日、明日から始まる新しい生活のためにもいい時間にしたいという挨拶を挟み、ツアータイトルに込めた思いを語り始めた。昨年リリースしたアルバム『白い足あと』はシンプルな編成で作ったからこそ、そこにあるぬくもりや思いがライブでもダイレクトにみんなに伝わるといいなと思い、「Close to you」=“あなたの心の側に”というタイトルを選んだそうだ。Zeppのような会場でライブが出来るとは思ってなかったと言っていたが、楽しそうにステップを踏みながら歌う「流星」なんかを聴いていると、今日のライブはまさにこのツアータイトルどおりの距離感。かっちりしたホールではなく、ライブハウスという自由度の高い場所もピッタリだ。この日は手拍子、コーラスなどみんなが参加出来る曲がたくさん用意されていたのだが、7曲目の「羽」では、あらかじめ用意されていた歌詞カードを見ながらの大合唱。昨年のクリスマス・コンサートで急遽みんなで歌ってみたら楽しかったからということらしいが(笑)、こうしてみんなの声が重なると、その曲がもともと持っている力やあたたかさがより際立って聴こえた。彼女はその「羽」が生まれたきっかけのエピソードとして「弱さは誰の中にもある。自分の中にポッカリ空いたその弱さの中には、これから、自分しか持ってない“ステキなもの”が入るんだと思う」と言っていたが、そういう彼女の考え方や物事の捉え方に心の底から共感するからこそのハーモニーが、この曲にさらなる生命力を与えてくれたのかもしれないなと感じた場面だった。

 「扉」からの4曲は、昨年の10周年記念コンサートから生まれた「名物・朗読コーナー(笑)」。その曲にまつわる思いをしたためたストーリーの朗読が、イントロ部分にプラスされたものだ。新垣結衣に提供した「扉」はグロッケンが可愛く響き、「ゆみはりづき」はTiaraへ提供した楽曲。「翼をください」、そして「贈る言葉」はこの季節にもぴったりの名曲だ。おなじみの曲であっても、彼女の言葉を入り口にするとまた違った景色の中へと導かれているような新鮮な気分を味わうことが出来た。

 この日はフロアにパイプ椅子が並べられていたのだが、ライブの後半、「モウイチド」から「Flag」の2曲はみんな立ち上がって、体を揺らしながらの手拍子を。ステージを左右に行き来しながらその光景を見渡し、みんなのコーラスに耳を澄ます彼女の表情は本当に嬉しそうだ。

「レコーディングではいつもひとりなので孤独感とか緊張感もあるけど、みんなの声が聞こえると嬉しい! みんなで歌う素晴らしさってあるね。なんだか心のそばに行けたような気がします」

 きっと同じ思いを感じていたであろう客席からの大きな拍手を受けた後は、「恋のあとがき」「ひみつ」と恋の歌を2曲。切なさも艶っぽさも一段と増したようなこの表現力は、やはり10周年という大きな節目を越え、シンガーとして次の一歩を踏み出したからなのだろうか…? 可憐な桜色の照明の中で歌われた本編ラストの「Love letter ?桜?」もまた、優しいメロディーと言葉が胸にはらりと舞い降りてくるような素晴らしい1曲となった。

 そしていよいよアンコール。未発表曲の「掌」と「春の風」が披露されメンバーを送り出すと、少し緊張した様子で彼女は静かに語り始めた。このたび新しい命を授かったことーー。たくさんの「おめでとう!」と鳴り止まない祝福の拍手! ……この日の彼女に感じていた“変化”は、こんなにも幸せなことが起きていたからだったのか!

「嬉しい気持ちもあるけど、不安もたくさんあります。これからも私は変わりなくシンガーソングライターとして、いつも“その時のこと”を一生歌っていきたいと思っています。これからも皆さんの力を貸して下さい。これからも支えて下さい」

 ありのままの気持ちを丁寧に伝えた彼女の言葉に、さらなる拍手が寄せられる。涙を拭いながら長い長いお辞儀をしたあとは、「やっぱりシンガーソングライターなので、最後は歌でみんなに伝えたいと思います。今の気持ちを歌った曲です」と、弾き語りによる「言葉を届けて」を披露。熊木杏里はこれまでも、これからも、“その時の思い”を歌い続けるシンガーソングライターであることをあらためて思うとともに、ひとりの女性として新たな一歩を踏み出した彼女が、この先どんな景色を歌っていくのかがますます楽しみになった。充実のツアー・ファイナルであり、記念すべき始まりの日。ちょっと安心したような、でも、ここからなんだと言い聞かせるような笑顔で去っていく彼女の姿が印象的だった。

【取材・文:山田邦子】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル 熊木杏里

リリース情報

白い足あと(初回盤)

白い足あと(初回盤)

2012年12月12日

ワーナーミュージック・ジャパン

ディスク:1
1. 恋のあとがき
2. 誕生日
3. 春の風
4. ふるさと
5. 新しい私になって
6. ひみつ
7. 真夜中の扉
ディスク:2
1. 恋のあとがき [Music Video]

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セットリスト

LIVE TOUR 2013 Close to you 〜白い足あと〜
2013.03.31@Zepp DiverCity Tokyo

  1. 心のまま
  2. 春隣
  3. 流星
  4. シグナル
  5. 誕生日
  6. 新しい私になって
  7. ゆみはりづき
  8. 翼をください
  9. 贈る言葉
  10. モウイチド
  11. Flag
  12. 恋のあとがき
  13. ひみつ
  14. Love letter ~桜~
ENCORE1
  1. 春の風
  2. 言葉を届けて
ENCORE2
  1. 今日になるから

お知らせ

■ライブ情報

little snow&sunny spot
2013/04/29(月祝)赤坂BLITZ

Daikanyama Sunny Sunday ~Rie fu × 熊木杏里~
2013/05/19(日)代官山LOOP

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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