フジファブリックの7thアルバム『VOYAGER』を引っ提げた、バンドにとって初めてのホールツアー。その実質的なファイナルが5月19日に東京・NHKホールで行われた(その後、追加公演が、金澤ダイスケの地元である茨城・大子町文化福祉会館「まいん」で5月25日に開催!)。まず、客電が消えると、オーディエンスの目に飛び込んできたのは、パイプオルガンを奏でる金澤の姿！　実は取材の時に、「NHKホールにはパイプオルガンがありますよね」なんて会話をしていたものの、まさかオープニングで披露されるとは！　ざわめきの中、華麗に弾き終えて去っていくと、そのまま他のメンバーと共にオン・ステージ。まるで希望のように眩しい「Small World」でスタートを切った。続く「夜明けのBEAT」では、山内総一郎は背中でギターソロを弾き、オーディエンスも椅子席と思えないほどに躍動。本当に、これが初めてのホールツアーなのか!?　と思ってしまう。そして、序盤から『VOYAGER』収録曲ではない「会いに」や「Splash!!」も飛び出す。彼らが、柔軟にセットリストを組み立てていることがわかる。とはいえ、それと共に『VOYAGER』がライヴ向けであることも実感。インタヴューでも、ツアーを廻ったからこそ出来たアルバム、と言っていたが、こうして体感してみると「Magic」などオーディエンスがコーラスをする場面もあり、ライヴで育っていくことが楽しみな曲が揃っていると思う。さらに、今回は山内、加藤慎一(B)、金澤、サポートにお馴染みのBOBO(Dr)だけではなく、名越由貴夫(G)も参加した5人編成で、山内が歌に集中できる状況も功を奏していた。そんな大先輩である名越にマイクを向け「こんなに喋ったことないです」なんて言わしめてしまうところも彼ららしい（笑）。その流れで、「志村くんがPUFFYのプロデュースをして、そのギターを名越さんが弾いていた」という「Bye Bye」も披露。縁を大切に前へ進む、彼らの姿勢を噛み締めることができた。

　また、彼らのライヴではトリップしてしまうようなスペシャル・ヴァージョンで曲が演奏されることが多いが、この日は「Fire」が凄まじかった！　しかもホールなものだから、光と音のショウを見ているかのよう。そんなNHKホールは、メンバーにとっても思い入れがあったようで、山内はデビュー前に東高円寺でギターケースを持って歩いていたら、知らないおばちゃんに話しかけられて「楽器をやっているならN響(NHK交響楽団)を聴きなさい！」と言われたそう（笑）。そんな会場を思い切り利用し、「まばたき」や「春の雪」ではオーディエンスを座らせて演奏していた。そこから一転、終盤は激しく突っ走る。一体感を生み出した「星降る夜になったら」、歌う前に山内が「イェー!」とシャウトした「銀河」……ラストは「Light Flight」をじんわり染み入らせて締め括った。

　アンコールでは、ステージセットは『VOYAGER』の初回限定盤のエンボス加工のジャケットを再現したという逸話を明かす。こういったCDとライヴのシンクロの方法もあるんだ！　とハッとした。良質でありながら実験的である彼らの曲は、ホールだからできる演出にも映えるのだ。近年、リキッドルームやZEPP、様々なハコで彼らのライヴを見てきたが、ハコに合ったライヴをやっており、そのあたりがプロフェッショナルだと思う。さらには、秋のZEPPツアーも発表！　ニコニコとサポートメンバーも交えてアイコンタクトする様子も見られた「虹」、さらに「STAR」で万感のフィナーレを飾った。

「『VOYAGER』は、海を渡る航海って意味があって。旅の途中の人が、生きている上で行き詰まったり……そういう時に聴いて欲しいと思った」と山内は言っていた。今作が、如何に日々に光を与えてくれるのか、日々を躍動させてくれるのか、ライヴで改めてわかった気がする。痛みを知る人の表現は、強く優しい。それを、もっともっと広く届けていって欲しい。

【取材・文：高橋美穂】
【撮影：河本悠貴】