黒木渚、東京初独演会の模様をレポート
黒木渚 | 2013.06.24
現在、じわじわとその名前を広げ始めている黒木渚。ギター・ボーカルの黒木 渚が描く、グロテスクで退廃的でありながら、どこか凛とした強さを持つ不思議な世界観が注目を集め、iTunesの今年ブレイクが期待できる新人アーティストにも選出された3人編成のバンドである。そんな彼女達が今年3月にミニアルバム「黒キ渚」をリリースし、レコ発ツアーを敢行。その最終公演となる「黒木渚 東京独演会「黒キ渚」?x∩X≠Φ?」が下北沢Club Queにて開催された。バンドにとって、東京では初となる独演会(ワンマンライブ)は、チケットがソールドアウト。多くのオーディエンスが会場につめかけた。
会場が暗転すると、黒木は真っ赤なドレスで、サトシ(Ba)、本川賢治(Dr)とサポートメンバーは黒いスーツ姿でステージに登場。心臓の鼓動をフィーチャーしたBGMがフロアに鳴り響く中、ライブは「あたしの心臓あげる」からスタートした。<あたしの心臓あげる 毎晩抱いて眠ってね>──そんな衝撃的な言葉が綴られたこの曲は、真っ赤な液体がぶちまけられ、まるで血まみれになっているようなミュージックビデオが印象的で、ホラーというか、それこそグロテスクなイメージがあった。しかし、生で聴くと、なんだかとても暖かい。パワフルな歌声と、強くしなやかなバンドサウンドに、固唾をのんでステージを見守っていた観客の身体も徐々に揺れ始める。“ようこそ、私達の夜へ”と一言挟んだ後、「プラナリア」へ。黒木はギターを置き、マイクを持ってステージを右へ左へ歩き回り、サトシと本川は、何度もアイコンタクトを交わしている。
「初めての東京独演会ということで、私達も喜び勇んでステージに立っています。ありがたくもソールドアウト。ちょっと苦しいかもしれませんけど、最後まで楽しんで帰ってください」
ひしめき合うフロアを気にかけながら、「エスパー」へ。“超能力者”というタイトル通り、スプーン曲げをするパフォーマンスに歓声が上がる。そして、<天真爛漫ってことは時に 邪悪なのかも知れないね>と皮肉まじりな歌詞が印象深い「安藤麻衣子」の後、バスルームで出しっぱなしにされているシャワーの音が聴こえてきた。続く曲は「ウェット」。個人的なハイライトはこの曲だった。黒木は学生の頃、厳格な校風の進学校で寮住まいをしていて、そこでは音楽やテレビや漫画といった娯楽は全て禁止。唯一許されていたのは“読書”のみだったそうだ。「ウェット」を始める前に歌詞について話したのだが、それはまるで一冊の本を朗読しているかのような語り口。読書に救いを求めた過去を持つ彼女ならではのパフォーマンスは、楽曲の世界観に深みを与えていた。ちなみに、この曲の歌詞は「地縛霊」について書かれたもの。恋人の命を殺め、自らの命も断った者の無念と後悔、そして生きなければ何も出来ないという切実な想いを、ほのぐらい明かりの中で説く姿に魅了された。
そして、“初めて誰かのために書いた曲”という「砂金」では、大切に歌いたいという強い想いから、黒木の歌とピアノのみで披露。<あなたの瞳に望みは無くとも救い出してあげよう><広く広大なこの場所では 誰もが自由だ>──聴いた者の心に、そっと明かりが灯るような優しい曲である。
「バンドを始めてから人間として大きく変わりました。感情の表現もだいぶ上手になったと思うし、生きることに対して貪欲になった。昔は“人間なんて全員死ねばいい”と思っていたけど、今は自分の曲を聴いてくれる人達が、愛おしくてしょうがないんです」
MCの後、本編の最後に届けられたのは「骨」。<死んだ後でも 楽しめるように 墓石に点数を彫ろう>──そう歌うこの曲は、言葉こそセンセーショナルなものの、バンドの中でも陽の部分をフィーチャーした曲である。また、アンコールでは「テーマ」と名付けられた新曲を披露したのだが、<最高過ぎて苦しいね>とアップテンポに歌うこの曲も、とても暖かい手触りがあった。
「タイトルを「黒キ渚」にしたのは、「キ」は≠(ノットイーコール)に見えることからで。私達は暗そう、怖そうって思われがちだけど、そうじゃなくて、ポジティブで貪欲な生き方をしているっていうことを表わしたくて、このタイトルにしました。人間の世界って本当に混沌としてるけど、それはそれで面白い。これからもカオスな世界を率直に書き続けていきます」
黒木はアンコールのMCでそう話していた。一聴するとダークな言葉に引っ張られてしまいそうな黒木渚の歌世界だが、その鮮烈な言葉の裏に潜む優しさ──「あたしの心臓あげる」で感じた、あの“暖かさ”こそが、このバンドが持つ本当の姿であり、メッセージなのだと思う。そして、そんな暖かさを持つ黒木渚の歌は、これから多くの人達の心に響き渡って行くだろう。終演後も観客の声が鳴り止まず、急遽ダブルアンコールまで飛び出すほどの盛り上がりを見せたこの日のライブが、その始まりの日になりそうな気がした。
「恐ろしい世界で勇気を持って生きている人達のために、たくましい姿でステージに立っていることを約束するから、また会いたくなったらいつでも来てください」
【取材・文:山口哲生】
リリース情報
セットリスト
1st mini album「黒キ渚」RELEASE TOUR
「複合人格」東京独演会
「黒キ渚」〜x∩X≠Φ〜
2013.6.1@下北沢Club Que
- あたしの心臓あげる
- プラナリア
- クマリ
- エスパー
- 安藤麻衣子
- ウェット
- 砂金
- マトリョーシカ
- 赤紙
- 骨
- テーマ
- はさみ
- カルデラ
- ノーリーズン
お知らせ
音・感・色vol.1〜supported by MID-FM〜
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2013/07/06(土)大阪・ 大阪アメリカ村周辺14会場
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2013/07/13(土)茨城県つくば市豊里ゆかりの森野外ステージ
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2013/07/18(木)下北沢 CLUB Que
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2013/08/10(土)QVCマリンフィールド&幕張メッセ
TREASURE05X 2013 10th Anniversary
2013/08/23(金)名古屋・DIAMOND HALL
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。