小南泰葉のワンマンツアー、“覚醒”と“覚悟”を見せた最終公演!!
小南泰葉 | 2013.10.22
「覚醒」というのは、こういうことを言うんだろうなと思わされるライヴだった。
小南泰葉が全国7カ所で行なった1stフルアルバム『キメラ』のレコ発ツアー、その最終公演。アルバムインタビューのときに、“インディーズの頃に今のディレクターと出会って、アルバムの完成をひとつのゴールと思って走ってきた”と話していた彼女。この日のセットリストは、そんな作品を掲げたツアーにふさわしいもの──『キメラ』を始めとしたメジャーデビュー以降の楽曲はもちろん、インディーズ時代に発表されたものを含めた、言わば、現時点での小南泰葉の集大成と言えるものだった。ちなみに「キメラ」はギリシャ神話に出てくる山羊、ライオン、蛇から成り立つ怪物のこと。そんな様々な身体を持つキメラのように、ライヴは各パートごとに分かれた構成になっていた。
前半は、ギターとピアノよるアコースティックパート。「09電車」では、時折絶唱を交えながら、不穏と平穏を行ったり来たりし、「12月12日」では、絶望の淵で泣き叫ぶような独特なファルセットが胸を打つ。また、「パロディス」では、バードコールやウィンドチャイム、カズーといった楽器達が、“世界をスープに!”の掛け声から始まった「Soupy World」では、観客のクラップが楽曲に彩りを与えていた。
そこから中盤のバンドパートへ突入していったのが、ここからがすごかった。「善悪の彼岸」「嘘憑きとサルヴァドール」「世界同時多発ラブ仮病捏造バラード不法投棄」というライヴでお馴染みの曲達が披露されたのだが、これまでとはもう別物。いや、別物というか、別人だ。“歌え!”“暴れろ!”“腹から声出せ!”と、徹底的にオーディエンスを煽り倒す彼女の姿に圧倒された。と言うのも、これまでの小南のライヴは、独特なMCを交えながらも、前述の「アコースティックスタイル」や、この日の後半で披露された「HOME」や「3355411」のような「弾き語り」で露になる、彼女の歌そのものを味わうような印象が強かった。もちろんその部分も磨き上げられていたのだが、バンドスタイルのときに、ステージから放たれる気迫や熱量が格段に上がっていた。“いいね!すごくいいね!”と何度も興奮気味に言う小南。彼女が今まで持っていた武器が、ついに覚醒されたような感覚を覚え、嬉しくなった。
また、過去に行なった「藁人形奉納の儀」など、一風変わった演出が盛り込まれるのも彼女のライヴの醍醐味。今回のツアーでは“ライオンをステージに呼びたい”ということで「キメラの羽根募金詐欺」という募金活動をしてきたとのこと。その募金を基にブッキングし、“緊張するなぁ”と言いながら呼び込んだのは、芸人の大西ライオン!(笑)……だったのだが、ライヴ当日は小南の誕生日ということで、本人にはサプライズで大きなバースデイ・ケーキを持っての登場! 観客も、入場時に「絶対にTwitterなどに書き込まないでください」という指示書と共に渡されたクラッカーで祝福する。そして、“せっかくですから……”と、大西ライオンが「ハッピー・バースデイ」をアカペラで熱唱(テレビで拝見してた通り、かなりの美声でした・笑)。そのまま「オトコノコノコトオ」へとなだれ込み、フロアを盛り上げた。
“私の夢を聞いてもらってもいいですか?”と話し始めたのは、本編最後の曲に入る直前のこと。“私の夢は「秘密結社Y人Y」をもっと大きくして、その教祖になることです”。──教祖、ですか……(苦笑)。しかしまぁ、なんとも小南らしい発言だと思う。ちなみに「秘密結社Y人Y」とは、彼女のライヴでアンケートに答えると入会出来る、小南と関係が噂される秘密組織のことである。
「私が“右を向け”って言ったら右を向いてほしいです。私が“叫べ”って言ったら叫ぶんですよ? 私が“死ね”と言ったら、死んでください。私が自殺したら、後追い自殺してください。でも、私は“生きろ”って言うから、最後の瞬間まで一緒に生きてください。みんなと一緒にバカなことをして、笑っていたいです」
そして歌い始めたのは「やさしい嘘」。『キメラ』のリード曲であり、彼女がインディーズ時代からずっと歌い続けてきた曲だ。胸に去来する想いの全てを込めて、歌う。途中、感極まって止まりそうになりながらも最後まで歌い終えると、感動に包まれた客席から、大きな拍手と歓声が起こった。
「この世界には善も悪もなくて、正解も不正解もない。じゃあ、どこへ行ったらいいんだろうと思って、ずっと考えてました。『キメラ』を出すまではそうでした。でも、私にはちゃんと帰る場所がありました。私はここに帰りたいです。私の帰る場所とみんなの帰る場所が同じでありますように……」
“私の中には怪物がいる”と言い続けている小南。と言ってもその怪物は、普段は表に姿を現わすことのない、小南泰葉自身である。その怪物があまりにも凶暴なゆえに、ときには“なんでこんなことを書いてしまったうのだろうか”と思いながらも、自分の中から沸き上がってくる想いを曲にすることを止めることが出来ない。でも、そんな怪物と一緒に作り上げた音楽を、支持してくれる人達が居る。そんな人達に対して「自分が歌うことで救われてほしい」と想う気持ちが、より一層強くなっているのだろう。そんな想いの強さが彼女を覚醒させ、演奏力や言葉を更に力強いものにさせた。「教祖」という言葉は、表現者としての小南泰葉の覚悟の表われなのだろう。弾き語りで届けられた「怪物の歌」を聴きながら、そんなことを思った。
小南泰葉は現在、次回作へ向けて鋭意制作中とのこと。覚醒した彼女が次に見せる一手は、はたしてどんなものだろうか。楽しみに待ちたい。
【取材・文:山口哲生】
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リリース情報
セットリスト
LIVE TOUR2013“キメラ”final
2013.10.11@渋谷CLUB QUATTRO
- 絶望に棲むキダルト達へ
- 09 電車
- 脳内フラクション
- 12月12日
- パロディス
- Soupy World
- 視聴覚教室
- ルポタージュ精神病棟
- 「善悪の彼岸」
- Trash
- 足伽
- パンを齧った美少女
- 嘘憑きとサルヴァドール
- 世界同時多発ラブ仮病捏造バラード不法投棄
- やさしい嘘
- オトコノコノコトオ
- 極刑
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- 怪物の唄
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