私の中に怪物が住んでいる──小南泰葉、1stフルアルバム『キメラ』をリリース。
小南泰葉 | 2013.05.29
- EMTG:1stフルアルバム『キメラ』がいよいよリリースされますね。
- 小南:インディーズの頃に今のディレクターと出逢って、そこからアルバムを作りきろう!っていう目標だけを掲げてここまで走ってたんですよ。だから、私にとってはこれがひとつのゴールなんです。これを作りきって、その後のことはアルバムが出てから考えればいいやって思っていたので。
- EMTG:そのアルバムのタイトルを、なぜ「キメラ」に?
- 小南:私は常に“自分の中に怪物が住んでる”って言っていて。何かが居るっていうか、皮膚の下でうごめいている感情とか衝動とか止められないものがあって、それが出てこないように必死になって手綱を持ってる感覚があるんですけど。私は身体に触角があって──。
- EMTG:触角?
- 小南:はい。自分が感動したり共鳴したときにズキズキ痛む触角があって。それが痛いなっていうときにキメラが出てきてるなと思うんですけど。そもそも小南泰葉は人前に出るのが大嫌いなんです。目立ちたがり屋ではなく、クラスに居ても当ててほしくないタイプで、学級委員と対極的にいる生徒だったので。そういう人間がステージの上で歌うことを決めたときに、何かにすがりたかったと思うんですけど、その方法がキメラに歌ってもらうっていう。ステージの上で歌っていても、さっき3秒居なかったんだけど、私はどこに居たんだろうっていうときに、“あ、キメラが歌ってたんだな”っていう感じがしていて。それで、インディーズからやってきた小南泰葉の集大成を出すときに、もうこれしかタイトルないなって。常にキメラと二人三脚で曲作りをしたり、生活を送っていたので。ニアリーイコールの関係ですね。
- EMTG:自分のキメラが書いた曲を見てゾっとしたりします?
- 小南:曲によってはします。
- EMTG:今回の収録曲の中で言うと?
- 小南:「パロディス」と「怪物の唄」ですね。「パロディス」は、私がメジャーデビューしてから、見たくないものとか聞かなくてもいいものにいつも光を当てて、そこにどんなものがあるのかな?って手を突っ込むような生活を送っていたんですけど、やっぱりすごいしんどくて。でも、もっと強く心を持たなきゃいけないと思って、心を守るために要塞を作ったんですよ。機械仕掛けの部屋なんですけど、ピアノ線が張り巡らされていて、足を踏み入れたらトゲが出てきたり、酸が落ちてきてたりするんですけど、その部屋の真ん中には毒入りのケーキがあって。食べたい人は食べにきてください、でも首が飛んでも知りませんよっていうことを、自分と人に対して置いてしまったというか。私はホラー映画が好きでよく見るんですけど、そういう自分が出てしまってすごく怖かったんですね。だからすごい陽気な曲にしようと思ったんですよ。ホーンを入れたり、ガヤを入れたり、カラスの首がグエって絞まる声を入れたりとか。初めて聴いた人が、小南ってこういう曲調もあるんだね、この曲楽しそうだねって勘違いしてもらえるようなアレンジにしました。
- EMTG:「怪物の唄」の方はどうですか? こちらは弾き語りの曲ですけど。
- 小南:この歌詞は2004年におきたイラクの日本人青年のお話なんですけど、あの動画が世界に配信されたときに、私はトラウマになってしまって。でも、なぜかその動画を自分が死にたくなったときに見ていたんですね。悪いこととはわかっていてもそういう方法でしか逆説的に、生きている幸せを得られなかったんです。でも、命って重いのか軽いのかも分からなくなって。猫はペットショップで高いお金を出して買うけど、その猫を調理して食べる人もいれば、皮を剥ぐ人もいるし、保健所に連れて行く人がいれば、保健所から拾う人もいるし。どれも間違っていないんだけど、矛盾だらけなんですよね。八方塞がりで、天井を見てもどこにも出口がない。それで、<どこへ行こう>っていう歌詞で終わるんですけど……。この曲は、世界中にある曲の中で一番好きな曲なんですよ。大好きなんですけど、すごいショックで。
- EMTG:この曲を書いてしまったことが?
- 小南:そうです。遺族の方が聴いてしまったらどうしようって。でも、生んでしまったからには、この曲をレコーディングして次に進みたいと思ったんです。だから、すごく覚悟が要りました。誰かを傷つける覚悟がないと出せなかったので。人を傷つけたいとは全く思ってないんです。でも、間違った解釈をする人もたくさんいるだろうなと思っていて。レコーディングする前もそうでしたけど、今でも覚悟してますね。毎日覚悟してます。
- EMTG:確かに印象的な歌詞ですよね。怪物が想いを訥々と話しているようなイメージもあって。
- 小南:そうですね。私生活で考えていることとか、検索したワードとかをそのまま出したら、本当にこのことしか考えてないなと思いましたね。世界は矛盾だらけだし、私もあなたも誰も間違っていないっていう。
- EMTG:ただ、矛盾を否定するというよりは、共存していこうっていう意志がありますよね。
- 小南:はい。共存したいです。なんか、人間はそういうものだって認めたいだけなんですよ。人間って非道なことをやってのける生き物だし……。逆に「やさしい嘘」はキメラが全く出ていなくて、小南泰葉が書いたっていうのがよく分かりますね。
- EMTG:「やさしい嘘」は祈りだったり、それこそ優しさに溢れた曲ですよね。インディーズの頃からずっと歌っている曲ですけど、なぜこの曲をリード曲に?
- 小南:2年半前ぐらいに書いた曲なんですけど、なんか、今まで私が出してきたものを聴いて、この子ってダークなのかな、何を考えてる子なんだろうって、いろんなイメージがあるかなと思っていて。そこからの「やさしい嘘」なので、いきなり丸くなったの?って感じるかもしれないんですけど、やっぱり最初に書いたっていうのがよく分かるんですよね。何か題材があったり、辞書を片手にパスルみたいにして書いたような曲もあるんですけど、この曲を書いたときに、すごい優しい曲を書いたなって思ったんです。それで、ほぼ全てのライブの最後で歌うようになったんですね。私がどんだけクソライブをしても、この曲だけは歌いきるんやっていう想いがあったし、この曲に頼り切ってライブをしていた感もあって。一番涙を含んだ曲なんですよ。自分もそうだし、お客さんの涙をステージ上で見たし、歌っていくことでどんどん変わっていったし。やっぱり「やさしい嘘」を伝えたくて、ずっとやってきたんですよ。その曲をどのタイミングで、どういう形で出すのがベストかなって思ったのが、1stフルアルバムのリード曲だったんですよね。
- EMTG:なるほど。
- 小南:一番広がるタイミングで、起爆剤として活きてくれるんじゃないだろうかと思って。ライブでやっても、“最後の曲すごく良かったです”っていう反応が8、9割だったし、作品を出すたびに“まだ出ないんですか?”って言ってもらっていて。ライブに来てくれている人達からしたら、一番待望してくれていた曲だと思うんですけど、私もこの曲をずっと出したかったから、今回やっと出せるんだなって思ったら……なんか、たまらないですね。
- EMTG:アルバムはバラエティ豊かな仕上がりになってますが、バラードだったりミディアムな曲が生まれることの方が多いですか?
- 小南:めちゃくちゃ多いです(笑)。多分、アコースティックギターに寄り添って歌うのが好きなんだろうなと思います。
- EMTG:聴く音楽もそういうものが多かったり?
- 小南:そういうわけでもないです。人の曲を聴くときは、めっちゃ激しくて速い曲ばっかりですね。でも、一度音楽を辞めたことがあったんですけど、そのときに聴いたハナレグミの「サヨナラCOLOR」はすごく大きかったです。無の状態に染みるものって、シンプルな言葉なんだなと思って。痛々しい映像をばっかり見ていたら、きっと命がすり減っちゃって、私みたいに歪んだ考え方しか出来ない人間が生まれちゃうんだと思うんですけど……でも、優しい歌ばっかり聴いてたら、優しくなれるんですかね? 元気な曲ばかり聴いてたら元気出るんですかね?
- EMTG:どうなんですかね? 気分的に明るい曲を聴くと鬱陶しく感じちゃうときはありますけど。
- 小南:私も鬱陶しいと思って聴いてこなかったんですけど、以前、オリンピックのときだったかな。“日本ガンバレみたいな曲、書けるか?”って言われたんですけど、無理です!って3秒で答えたことがあって(苦笑)。
- EMTG:はははは(笑)。
- 小南:私が元気な曲を歌ったところで、聴いてくれてた人達が離れて行くんじゃないかなって思って。私と同じようなことは考えてないんですけど、闇を抱えてたり、命について考えてたりする人がすごく多いので。その人を助けようとか、こういう人達に響くだろうなと思って曲を作ってるわけでは全然ないんですけど、「鏡」だなって思うんですよ。周りに集まってる人達を見たときに、私ってこういう見られ方をしてるんだとか、こういう人に響いたんだっていうのを、みんなからの手紙を読んで分かるというか。そうやって支えてもらっている人達が、自分でも信じられないぐらい増えたから、メジャーでやろうって思えたので。
- EMTG:分かりました。ひとつのゴールだと思いながら作ってきたアルバムが完成してみていかがですか?
- 小南:私は本当に何も続かないんですよ。学校も通ってなかったし、習い事も全然続かないし、自分が大切だった音楽すらも辞めてしまったことがあったし。自分のことが大嫌いで、人に心配ばかりかけて生きていて。よくインタビューで「もうゴキブリでもいいんです!小南だけはイヤなんです!」って言ってたんですけど、そんなのお母さんが聞いたらどんだけ悲しむんだろう?って思うんですけど(苦笑)。
- EMTG:確かに(苦笑)。
- 小南:でも、本当にそんな気持ちで生きてきたんですよ。自分が自分であることが本当に耐えれなかったので。でも、初めて成し得ることが出来たんですよね。走り続けてフルアルバムをみんなで出せるっていう。だから、やっと自分を褒めてあげれるなって思いました。誇りですね。私がおばあちゃんになったら“昔おばあちゃんはアルバムを作り切ったんだよ”って言えるなと思って。でも、みんなからしたらね、“いやいや、もうちょっと歌えや!”って話なんですけど(笑)。
- EMTG:そうですよ。ひとつのゴールが切れたことで、また新しい一面が出てきそうな気がしますね。
- 小南:そうですね、はい。
- EMTG:そちらも楽しみにしています。
小南泰葉が5月29日に1stフルアルバム『キメラ』をリリースする。
インディーズ時代の楽曲も含め、全12曲。自分の心情を吐露するようなバラードナンバーから、攻撃的なアッパーチューンまで、バラエティ豊かな作品になっている。
ちなみに「キメラ」とは、ギリシャ神話に登場するライオン、山羊、毒蛇が合成された怪物のこと。インタビューやライブのMCで「自分の中に怪物が住んでいる」と話していた小南。人間の本能が隠し持っている衝動や、二面性を描き続けた彼女の現時点での集大成的作品として、これ以上ふさわしいタイトルも、なかなかないと思う。
今回は、彼女の中にいるキメラについて、そして、インディーズ時代から歌い続け、“キメラが全く出ていない”と語ったリード曲「やさしい嘘」など、幅広く訊いた。
【取材・文:山口哲生】
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ワンマンライブ「キメリカルパビリオン」
2013/07/19(金)渋谷WWW
全国ワンマンライブツアー「キメラ」
2013/09/20(金)仙台HooK
2013/09/22(日)札幌cube garden
2013/09/27(金)名古屋クラブクアトロ
2013/09/29(日)梅田クラブクアトロ
2013/10/04(金)福岡DRUM SON
2013/10/06(日)広島ナミキジャンクション
2013/10/11(金)渋谷CLUB QUATTRO
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