まるでミュージカル!最高の演奏家たちと作り上げた椎名林檎の15周年ライブ
椎名林檎 | 2013.12.10
自信に満ちた、すがすがしいライブだった。
15周年を迎えた椎名林檎に、迷いはない。いつもライブの度に高い企画性を発揮する彼女だが、「椎名林檎十五周年 党大会」は3幕仕立てのゴージャスなミュージカルを観るようだった。最高の演奏家たちによる優雅な楽器編成、磨き抜かれたアレンジ、もちろんセンターの林檎はボーカリゼーションからコスチュームまでにわたって、精妙な美意識を発揮。15年の歴史を振り返るのではなく、15年間の蓄積と未来への展望で構成されたステージ は、Bunkamuraオーチャードホールに集まったオーディエンスを、心底うっとりさせたのだった。
第1幕は、ピアノの林正樹、アコーディオンの佐藤芳明、そして椎名林檎の3人でスタート。ブラック&ゴールドの総スパンコールのロングドレス、頭に黄金のクラウン(王冠)をのせた林檎は、まるで往年のハリウッド・ミュージカル・スターのよう。真っ赤な背景には、ルネッサンス期の名画「ビーナスの誕生」を思わせる真っ白な貝殻のデザインがあしらわれている。あまりの“完璧な調和”に、観客は完全に呑まれている。1曲目の「都合のいい身体」が終わって、林檎が話し始めたとき、ようやくみんな我に還ったのだった。
「ようこそ、党大会へ。いつもはビリビリして欲しくてエレキ楽器を使ってライブをやっていますが、本日は首席奏者たちに集まっていただいて生楽器でお届けします。いつもよりもっと深いところでビリビリしてください」と、バイオリン2名、ビオラ1名、チェロ1名の斎藤ネコカルテットを紹介。演奏家の衣装は全員、黒の燕尾服で統一されている。林に代わって、自らピアノの前に座り、「IT WAS YOU」が始まった。
まず、ストリングスの音がいいのにビックリ。しかも4人の弦楽器奏者たちは大きなビブラートでハーモニーを奏で、ヨーロッパの古いストリングス・サウンドを再現する。その曲が呼ぶビジュアル、音を徹底的に追求する林檎の姿勢は、妥協が一切なくて小気味がいい。英語詞を唄う際にはバックスクリーンに日本語の字幕が映し出されていて、隙がない。
その後も、ウッドベースの鳥越啓介やハープの朝川朋之らが加わったり、去ったりしながら、林檎ワールドがめくるめく展開される。中でも「カリソメ乙女」は、タンゴのリズムがエキゾティックで印象に残った。それもそのはず、林と鳥越はアバンギャルドなタンゴバンド“菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール”のメンバーなのだ。
5年前にさいたまスーパーアリーナで行なわれた「椎名林檎(生)林檎博’08?10周年記念祭?」は、フルオーケストラを従えた“リサイタル”形式で行なわれたが、今回はピアノトリオや弦楽四重奏、ハープやドラム、ベースが自由に組み合わされた、小編成のアンサンブルが主題のようだ。そんな雰囲気を、観客たちは静かに座って楽しんでいる。
第2幕への幕間は、椎名が自らナレーションを担当するコーナーで、最近、女の子を授かったことを報告。「お得意様には直接、お伝えしたくて」。会場から温かい拍手が起こる。
第2幕は、ヌードベージュのシルクシフォンのワンピースをまとった林檎が、コケティッシュなラブアフェアの歌を立て続けに。よくスィングする4ビートを叩いているのは、SOIL&“PIMP”SESSIONSのドラマーのみどりんだ。力強くてポップなリズムが、これも椎名の声とコスチュームにぴったり合っている。特にキュートなボイスを連発した「いろはにほへと」は、林檎の独壇場だった。
そして第3幕は、遊び心満載のスリル&サスペンス篇。真っ赤な膝丈の赤いタイトスカートに、白と赤の切り替えカットソー、頭にはやはり赤と白のビンテージのスカーフを巻いている。女スパイか、富豪の未亡人か。女性にしかできない“お芝居”を楽しむ林檎は、男から見ると少し怖いが、女から見れば憧れのキャラクターを次々に演じる。 今回のセットリストは英語詞が多いが、それだけに「罪と罰」で日本語詞が聴こえてくると、本当にドキドキしてしまった。どこまでも心憎い演出だ。ラストはミラーボールが場内を染め上げる中、「茎」。歌い終わると、鳥が羽ばたくように両手を上下させながら去った。
アンコールは「丸ノ内サディスティック」から。恒例の“林檎フラッグ”を振りながら、英語で歌い出す。と、途中で日本語が交じる。それは15周年を祝いに来てくれたオーディエンスに、林檎が思わず差し出した“お礼”のようにも聴こえて感動的だった。
「今日はこのへんで、お開きとさせていただきます」と林檎が言って、最後は林のピアノだけを伴奏に「幸先坂」。その歌は見事で、歌い終わる瞬間まで集中力を切らさない彼女の“アーティストとしての 礼儀”に貫かれていた。最近、リリースされたライブ・ベスト・アルバム『蜜月抄』とはまったくニュアンスの異なる“ベスト・ライブ”だっ た。
【取材・文:平山雄一】
【撮影:荒井俊哉】
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リリース情報
浮き名 (初回限定仕様盤)
2013年11月13日
EMI Records Japan
2.CRAZY DAYS CRAZY FEELING/ZAZEN BOYS
3.ロッキンルーラ/MO’SOME TONEBENDER
4.IT WAS YOU/椎名林檎と斎藤ネコカルテット
5.Rock & Hammer/谷口 崇
6.You make me feel so bad/ZAZEN BOYS
7.熱愛発覚中/椎名林檎と中田ヤスタカ(CAPSULE)
8.MY FOOLISH HEART 〜crazy on earth〜/SOIL&"PIMP"SESSIONS×椎名林檎
9.あまいやまい feat.椎名林檎/マボロシ
10.危険すぎる/浅井健一
11.becoming/谷口 崇
12.きらきら武士 feat.Deyonna/レキシ
13.殺し屋危機一髪/SOIL&"PIMP"SESSIONSと椎名林檎
14.APPLE/TOWA TEI with Ringo Sheena
15.Between Today and Tomorrow/椎名林檎と斎藤ネコカルテット
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リリース情報
セットリスト
椎名林檎十五周年 党大会 平成二十五年神山町大会
2013.11.26@Bunkamuraオーチャードホール
- 都合のいい身体
- IT WAS YOU
- カーネーション
- カリソメ乙女
- MY FOOLISH HEART
- 浴室
- 熱愛発覚中
- 二人ぼっち時間
- 色恋沙汰
- いろはにほへと
- おいしい季節
- 旬
- 女の子は誰でも
- 孤独のあかつき
- 都会のマナー
- 今(Present)※新曲
- 月夜の肖像
- 罪と罰
- 密偵物語
- 殺し屋危機一髪
- 茎
- 丸ノ内サディスティック
- 幸先坂