ツアー連載5回目! 男があこがれる男、藤井フミヤの磨き抜かれたパフォーマンス
藤井フミヤ | 2013.12.25
会場に着いて見回すと、男性オーディエンスがほとんどいない。意外な気がした。藤井フミヤはデビュー以来、ずっと“男が憧れる存在”だ。彼の仕草には、ある意味、男なら一度はしてみたいカッコよさがある。たとえばオイルライターを付けたり、ナイフを素早く扱ったり、コームで髪を整えたりといった、男ならではのアクションに、フミヤは秀でている。トランプをシャッフルしたり、ショットグラスを口に運んだりするのでもいい。男ならティーンエイジャーになると必ず真似したくなる “ちょっとした仕草”というものがある。そういうことに、フミヤは非常に長けている。それは彼の過ごした青春時代の痕跡でもある。おそらく彼は周囲にいたカッコいい先輩の何気ない動きや、熱中していたミュージシャンの写真などを眺めながら、手に持った缶コーヒーや車のキーを手のひらでくるくる回していたはずだ。僕はほとんど男性のいない客席にいて、今日のライブはそこにポイントを置いて楽しんでみようと思った。もちろん「そういうことは、フミヤがやるからいいんだよ」という突っ込みを承知の上で(笑)。
ツアーも中盤。オープニングからして、いい落ち着きがある。ミュージシャンたちは一通りライブの構成や力加減を体得しているから、演奏を楽しむ余裕がある。フミヤ自身も、自分がそこで何をするべきかを熟知しているから、ステージに登場してくる歩き方もリラックスしていて、いい雰囲気だ。「1,2,3」とカウントを出したフミヤは、くるりと2回、体を回す。このロックボーカルの基本とも言えるアクションが、とても自然に見える。フミヤ自身も、自分の身体の切れをここで最初に確認するのだろう。だから「I Love you, SAYONARA」は歌い出しから完璧だった。
続く「Jim&Janeの伝説」では、ワンコーラス歌った後、今度は両脚を180度開いて、股をぴったり床に着けて、そのまま元の位置に戻す。このアクロバティックなアクションは、誰にでもできるものではない。それを軽々とやってのけるフミヤを前に、曲が終わると隣の女子オーディエンスが「カッコいい!」とため息をもらした。
もちろん彼女はそんなフミヤのパフォーマンスを初めて見たわけではないだろう。だが、何度見てもため息が出てしまう。フミヤは決して背が大きい方ではないが、人間の身体の動きの美しさを追求する姿はとても大きく見える。
「ようこそ、青春ツアーへ。音楽はタイムマシン。その音楽を聴いただけで、それを聴いていた頃に戻れる。心はどんどん時空を飛んでください」。そういえば、フミヤの動きは以前と同じなのだろうか。「Room」まで歌ったところで話し出す。
「ま、 お座りください。休憩その1! 6曲で足腰に来るでしょう(笑)? 今、歌ったのは25年前の歌です。昭和から平成にかけて歌われていた。でも、そんなに古く感じられない」。
古く感じられないのは、フミヤの動きだ。正確に言えば、古く感じないのは、フミヤがブラッシュアップし続けているからだ。「ふれてごらん」では、マイク片手にひざまずき、「素直にI’m Sorry」ではそのマイクをお尻のポケットに突っこんで茶目っ気たっぷりに会場を沸かす。
そして「ONE NIGHT GIGOLO」でついにダンスが全開になる。マイクスタンドをパンチして倒し、足でそれを引き起こす。フミヤを見慣れている人には当たり前の光景だが、僕はこれを男友達と一緒に見たいと思った。脱いだジャケットを、回して肩に掛ける。これは一度失敗してやり直したが、それもご愛嬌だ。「NANA」ではマイクをくるくる回し、最後はピストルに見立てて会場に狙いを定める。
「Another Orion」 は、ひとりアコースティック・ギターを抱えての弾き語り。ギターを弾きながら歌うのも、男子の憧れのひとつだ。
「若い頃は、いろいろコレクションしてた。でも今は何もいらない。もし天国に何か一個だけ持ってっていいよって言われたら、どうするかな…恥ずかしくて言えない(笑)」 と言って歌ったのは「時のK-City」だった。ギターを弾きながら、ホルダーにつけたマウスハープ(ハーモニカ)を吹き鳴らす。フォークスタイルの定番だ。ズルいくらいに、何でもやってのける。
極めつけは終盤の盛り上がり曲の「TOY BOX」だった。今度はハープを手に持って、バンドのメンバーとセッションする。ブルース/ロックンロール・スタイルの奏法だ。今、ロックシーンでもハープをここまで吹きこなすアーティストはそれほどいない。佐野元春、The Birthdayのチバユウスケ、The MODSの森山達也などと並んで、フミヤのハープはカッコいい。フミヤが天国に持っていきたいのは、もしかするとこのハープなのかもしれないと思った。それほどフミヤは楽しそうにこの楽器を演奏していたのだった。
ハープと並んでカッコよかったのは、「夜明けのブレス」のエンディングだった。上から照らすライトの中で、両手をいっぱいに広げて浮かび上がるフミヤ。“立ち尽くす”という言葉が、こんなに似合う人は滅多にいない。そして、その姿を美しく見せる技術をフミヤは持っているのだが、すでにそれは技術を超えたものになっていた。
ところが最後に演奏が盛り上がって終わる時、フミヤはいきなり両手を斜め上に挙げて、グリコのポーズをしたから、会場中が大笑い。まったく油断も隙もないパフォーマーだ。
アンコールを終えて、最後にいつものキメ台詞を言う。
「また遊ぼうぜ!」。
これは男同士が別れ際に言う、最高のフレーズだ。それをしっかり受け止める女性ファンとフミヤの関係が、素敵だと思った。そうして、やはりこのセリフを、僕はもっと世の男どもに聞かせてやりたいと思った。そう、フミヤは、男が惚れるアーティストなのだ。
【取材・文:平山雄一】
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セットリスト
藤井フミヤ 30TH ANNIVERSARY TOUR
vol.1 青春
2013.12.7@千葉 市川市文化会館
- I love you, SAYONARA
- Jim & Janeの伝説
- WANDERER
- Cherie
- さよならをもう一度
- Room
- ふれてごらん ~Please touch your heart ~
- 素直に l’m Sorry
- 夜明けの街
- ONE NIGHT GIGOLO
- ミセスマーメイド
- NANA
- Another Orion
- 時の K-City
- Friends & Dream
- NEXT GENERATION
- 青春
- 100Vのペンギン
- 孤独のDreamer
- TOY BOX
- GO BACK HOME
- REVOLUTION 2007
- 夜明けのブレス
- Long Road
- TRUE LOVE
お知らせ
藤井フミヤ 30TH ANNIVERSARY TOUR
vol.1 青春
2013/09/21(土)神奈川 パシフィコ横浜 国立大ホール
2013/09/22(日)神奈川 パシフィコ横浜 国立大ホール
2013/09/26(木)大阪 岸和田市立浪切ホール
2013/09/28(土)香川 サンポートホール高松
2013/09/29(日)広島 広島アステールプラザ
2013/10/04(金)福岡 石橋文化ホール
2013/10/06(日)埼玉 狭山市市民会館
2013/10/11(金)秋田 大仙市大曲市民会館
2013/10/12(土)宮城 東京エレクトロンホール宮城
2013/10/14(月・祝)栃木 佐野市文化会館
2013/10/19(土)滋賀 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
2013/10/20(日)兵庫 神戸国際会館 こくさいホール
2013/10/23(水)埼玉 三郷市文化会館
2013/10/26(土)長野 塩尻市レザンホール
2013/10/27(日)静岡 静岡市清水文化会館 マリナート・大ホール
2013/10/31(木)東京 渋谷公会堂
2013/11/01(金)三重 三県総合文化センター
2013/11/03(日・祝)新潟 柏崎市文化会館アルフォーレ
2013/11/04(月・休)石川 本多の森ホール
2013/11/09(土)神奈川 伊勢原市民文化会館
2013/11/10(日)東京 中野サンプラザ
2013/11/16(土)兵庫 姫路市文化センター
2013/11/17(日)熊本 市民会館崇城大学ホール(熊本市民会館)
2013/11/23(土・祝)大阪 オリックス劇場
2013/11/24(日)大阪 オリックス劇場
2013/11/30(土)奈良 なら100年会館
2013/12/01(日)愛知 名古屋国際会議場 センチュリーホール
2013/12/05(木)山梨 コラニー文化ホール
2013/12/07(土)千葉 市川市文化会館
2013/12/08(日)千葉 市川市文化会館
2013/12/14(土)大阪 フェスティバルホール
2013/12/15(日)大阪 フェスティバルホール
2013/12/19(木)大阪 堺市民会館
2013/12/21(土)鹿児島 宝山ホール(県文化センター)
2013/12/22(日)福岡 福岡サンパレス
藤井フミヤ 30周年
スペシャルカウントダウンライブ
2013/12/31(火)日本武道館
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。