ぶっ飛んでいて、カオスで、痛快!! ツアー最終公演で魅せたThe SALOVERSの才能
The SALOVERS | 2014.01.07
歌詞に森鴎外や三島由紀夫、太宰治の作品名が出てくることについて、「ロックンロールって叫ぶのはピンとこない。今で言うロック的な生き方をしていた人がやっていたことが文学」(大意)と、とあるインタビューで古舘佑太郎は言っていた。冴えたセンスと反射神経から生まれた2013年第3弾シングル「文学のススメ」は、もちろん聴くだけで古舘のぶっ飛んだ感覚とポップなカオスに変換された曲そのもので、彼らが新たなフェイズに突入したことが体感できるが、やはりこの“文学”の捕まえ方は他の同世代のバンドにない感覚だ。自ずとライブにも期待が募る。
11月の大阪公演から10本目にあたるツアーファイナルの代官山UNITは、’13年最後のワンマンを待ち構える男女半々ぐらいに見受けられるファンが、今や遅しと4人を待つ。ダンスクラシックス「ザッツ・ザ・ウェイ」の音量が若干上がり、途切れた瞬間、おなじみブルース・リーの「燃えよドラゴン」のテーマとともにメンバー登場。背中を丸めて手を振る古舘の佇まいはバンカラというか無頼という形容が似合う。1曲目はおまちかねの「文学のススメ」。眼光鋭くフロアを見据える古舘をはじめ、冒頭から120%の出力で、早くも<文学 文学 純文学>のシングアロングというか叫びが起こる。全身でグルーヴを放出するような小林亮平のベースに目を奪われる「チンギスハンとヘップバーン」、<HOT! HOT! HOT!>の掛け声が熱いけど、ちょっとシュールな「HOT HOT HOT!」では、この曲の肝である<恋をしている 無理をしている>が音源よりカラッとして聴こえたのは気のせいだろうか。セントメントが入り込む余地のない暴走っぷりのせいかもしれない。それでいて4人のフレーズと音像はかなりクリア。飛ばしていても演奏は丁寧なのだ。そして古舘の歌がダイレクトに突き刺さる「ディタラトゥエンティ」、演奏の音圧が一気に増した印象の「SAD GIRL」では、フロアも熱い反応で応戦する。ここまで息もつかせぬ展開で駆け抜け、ようやく「ありがとう」と古舘が一言。そしてMCともセリフとも受け取れるニュアンスで「青春っていうのはすべてが終わってしまったときに感じるものだと思うんですけど、サラバーズの青春はこんなでした。『China』」と曲紹介。音源より前のめり気味に進む演奏は、ニューシングルのカップリングである「カレー三昧」にも波及。ピアノのシークエンスは控えめに、その分、曲作りをピアノで行った古舘はギターを持たずハンドマイクで、よりオーディエンスの近くで歌い、小林のメロディアスなベースが演奏を牽引していた。これまでも少年や男子的な世界観を独特の言語感覚で表現してきた古舘だが、文学もカレーもまさに“ザ・男の子”的なワードである。しかもド直球じゃない、比喩として炙りだされる感じが、ファンにも面白がられ、共感されていることがわかった。
中盤にはニューシングルのもう1曲でフジファブリックの「茜色の夕日」のカバーを披露。原曲とは違い、ギターアンサンブルでシンプルに表現したアレンジとまっすぐはまっすぐでも朴訥な印象すらある古舘のボーカルは、<東京の空の星は見えないと聞かされていたけど 見えないこともないんだな>という歌詞に、オリジナルで伺える儚いけれど少しの救いとはまた違う、本物の夕暮れに見え始めた一番星を想起させた。センチメンタルというよりリアルな情景が浮かんだというか。その具体的な情景に比べると古舘がアコギの弾き語りで聴かせた「こんな夜は」は、さすがに歌詞とは言え、古舘本人の言葉だけに刺さる。自分を生かすも殺すもその人次第というぐらい思いは暴走し、どうせなら無視してほしい、なのに自分に痛みがほしいだけの自己満足な行動に出てしまうという、面倒くさいヤツの一言では絶対済まされない歌がその場に響くこと、それは血の滲むようなリアルな場面だった。こんな一幕をさらりと中盤に置けるのが、リズム的な盛り上がりや勢いだけで突っ走るバンドと大きく水を開けるサラバーズの魅力でもある。
年末でもあり「いやー、今年はいろいろあったね、世界もサラバーズも。ケバ(小林)が体調崩したり、(藤川)雄太が骨折したり」と、困難に直面した1年を今となっては笑いに転化する古舘。そこからインストバンド的な「ビオトープ-生物生育空間-」でソロをまわしていくのだが、清也は「ジングル・ベル」のフレーズを弾き、すかさず古舘が「終わってるよ」と突っ込み、小林は手放しでエフェクトが醸すベース音で対抗。極めつけは視線が集中する中、マラカスを降りフロアを脱力させたドラムの藤川、最強の外しが決まって、会場大爆笑。全力でバカバカしいことをわかりやすくできるようになったのもバンドの状況の良さを象徴しているのかも。こうなるともう激しさも楽しさも、さらに振り切るしかないとばかりにキラーチューン「サリンジャー」が投下される。ライブ序盤から中盤はどうしても古舘に目が行きがちなのだが、実は4人が4人とも曲に貢献しながら個性を前面に出している。強い。誰も引かない。ライブも終盤に入ったにも関わらず「こっからが本番です!」と古舘が叫んだと同時になだれこんだ「仏教ソング」では男性ファンの絶叫が上がり、「みんな台湾行きたいですか?行くぜ!台湾!」と歓喜と狂騒まみれの「オールド台湾」ではファンの<台湾!>コールが弾ける。これがデフォルトの光景になってるサラバーズのライブってなんなんだ?と笑いながら痛快な気持ちがマックスに。クライマックスはポップなメロディとリズムを持ちながら、ライブではパンク的なアプローチで放った「床には君のカーディガン」、そして少し息を整えてラストを飾ったのはじっくり聴かせる「愛しておくれ」。<あ、あ、あ、愛しておくれよ>のメロディに沿う転調が、この素直じゃないことを素直に認めるラブソングをさらに印象深いものにしている。ツボを押す展開がライブでも細部まで伝わるこの快感。そして潔いほどばっさり終わる演奏もまた、いちいち粋だ。アンコールもサクッとナンバーガールの「鉄風鋭くなって」を何の説明もなく、ただただソリッドに演奏し切って「また来年会いましょう、さようなら」と古舘が一言残して、藤井、小林もステージを後にしたが、藤川が最後に’14年も恒例の対バンツアー「LOVER MATCH」を開催する旨を告げ、歓声が上がる中、全編終了。体感としては45分ぐらいに凝縮されていた気がしたが、実際は1時間半を越えていた。演奏以外で場を盛り上げたりしないサラバーズは、だからこそまだ大勢とはいえないけれど圧倒的な信頼を得ていることをこの日のライブで確信した。<文学>というパンチラインに反応した新たなリスナーも巻き込んで、もっと誰もやってない境地を見せてくれ!と切に願う。
【取材・文:石角友香】
【撮影:後藤壮太郎】
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リリース情報
セットリスト
秋冬行脚ツアー2013〜ギャアーンと鳴るギター〜
2013.12.26@代官山UNIT
- 文学のススメ
- チンギスハンとヘップバーン
- HOT HOT HOT!
- ディタラトゥエンティ
- SAD GIRL
- China
- City Girl
- カレー三昧
- フランシスコサンセット
- アンデスの街で
- 茜色の夕日
- こんな夜は
- 夏の夜
- ビオトープ - 生物生育空間 -
- サリンジャー
- 曇り空
- 狭斜の街
- 仏教ソング
- オールド台湾
- 床には君のカーディガン
- 愛しておくれ
- 鉄風鋭くなって
お知らせ
The SALOVERS~VS企画~LOVER MATCHシリーズVol.7
2014/05/10(土)大阪・福島LIVE SQUARE 2nd LINE
The SALOVERS~VS企画~LOVER MATCHシリーズVol.8
2014/05/11(日)大阪・福島LIVE SQUARE 2nd LINE
The SALOVERS~VS企画~LOVER MATCHシリーズVol.9
2014/05/21(水)東京・下北沢SHELTER
The SALOVERS~VS企画~LOVER MATCHシリーズVol.10
2014/05/22(木)東京・下北沢SHELTER
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