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渋谷公会堂で行われた黒木渚、初のワンマンツアーファイナルをレポ

黒木渚 | 2014.06.12

 遠くで風が吹いていた。否。正確には風の音が流れていた。木枯らしを思わす強い風が、荒野を駆け抜けていく――自分のイマジネーションの中で。
 渋谷公会堂。何度も足を運んだ会場だ。日本の音楽史上に残る、幾多の名場面を作り出してきた場所でもある。
 そのステージの様子が、いつもと違っていた。
 ステージが広い。通常よりステージ奥まで解放しているせいだろう。奥行きがある。セットは平らな踏み台が中心。重ねて段差をつけている箇所もある。客席から向かって右には、ボロボロになった旗が立てかけられている。全国で“革命がえし”を繰り広げてきた証か。ステージ中央に真っ赤なギター。これからステージを彩り、ストーリーを作っていく今宵の主役のものだろう。
 真紅のギターは、ステージ天井からの幾つものピンスポの光を集め、輝いていた。

 6月1日。日曜日。黒木渚、初のワンマンツアー「革命がえし」。全国で6公演を行ったツアーのファイナルライヴが、渋谷公会堂で開催された。

 風が遠くに消えていく。暗転したステージに、ゆっくり出てくる黒木渚。ギターをかけると、弾き語りで歌い始めた。オープニングを飾ったのは「はさみ」。オリジナルは、アレンジを変えてきた。原曲は、ピアノとストリングスの旋律をメインに据えたものだったが、この日はギター&バンドアンサンブルが中心。繊細、憂い、優しい……という印象のあった楽曲だったが、この日、いちばん強く感じたのは、激しさ。黒木の声が、静寂という緞帳を鮮やかに切り裂いていく。露わになる黒木渚という生体。その生々しさが、観客の視線と意識を引き寄せていく。
 3曲終えた後のMCでは「ちょっと鑑賞させてね」と、ステージから客席を眺め「いい眺めです」と破顔。「盛り上がる覚悟はできているか?」と、「クマリ」、ジャジーなアップチューン「あしながおじさん」や解放感のあるメロディーが秀逸なアップチューン「赤紙」では、セットの台と長い手足をうまく使いながら、滑らかな踊りを見せ、楽曲に華を添えた。
 中盤。バラードの「うすはりの少女」や「あしかせ」では、ステージに腰かけ、抒情的に歌い上げる。歌詞に“だめ だめ”というフレーズが何度も登場する「プラナリア」では、観客と“だめ だめ”のコール&レスポンス。会場の声を聴いた彼女が、薄く笑いながら「もっと強く否定して!」とシャウトし、観客をあおった。
 続くアップチューン「マトリョーシカ」のエンディングでは、ステージ後ろからスタッフが登場。いきなり、黒木の髪をスプレーで染めていった。赤のボブになった黒木が、ステージの上でワンピースを脱ぎ捨てる。ギターを持ち、荒々しくかきならす。「カルデラ」へ。ライブは後半へ向け、徐々にエネルギーを解放していった。

 昨年春、バンド“黒木渚”のボーカルとしてミニアルバムをリリースした彼女。根岸孝旨、會田茂一、田渕ひさ子、斉藤祐樹ら、豪華なミュージシャン達をプロデューサーに迎えたサウンドと、戦後のデカダンスを彷彿させるような歌詞の世界観で、注目を集めた。バンドは、彼女の「もっといいものを作る」という決心から同年年末に解散。黒木渚は、ソロ活動をスタートさせた。この1年の黒木渚は、センセーショナルだったと思う。それは彼女の存在を印象付けることになったが、若干話題が先行した感も否めない。そんな中での初ワンマンは、本物の黒木渚を目撃するには絶好のチャンスだった。渋谷公会堂に集った観客もそんな気持ちだったのではあるまいか。ゆえに、会場には独特のムードがあった。言葉が悪いが“なんか今年になって噂になってるし、1度観ておこう”みたいな。期待の手前のシビアな視線があったように思う。このシビアな視線を跳ね飛ばすのではなく、自分の中に徐々に取り込むようにして、観客を魅了していった彼女。そこには、想像以上にしなやかでたおやかな、黒木渚のキャラクターがあった。

 客席が、彼女の一挙手一投足を見守り、歌声をつかもうとする。本能が解放され、感覚が研ぎ澄まされていく観客たち。その興奮をばねに、ライヴはエンディングへ飛び立っていく。
 彼女は自らの人生の物語を朗読劇のように言葉にしていく。抜群の台詞回しに、これから何が起こるのか、観客たちの期待が募る。黒木が続ける。

 「私はもう繊細で傷つきやすい思春期の娘じゃありません。あなたに逢って、ここまでたくましくなれました。だからいけるところまで、一緒にいきませんか」
 息を吸い込み、思いっきり声を張り上げる。
 「もっと大勢の人間を巻き込んでいこう、退屈な日々を蹴散らしていこう。私たちはどこまでも愉快に、どこまでも勇ましく進む!」
 放たれたのは「革命」だった。黒木渚の代表曲になりつつあるこの曲では、表現者としてのスケール感を存分に発揮し、清々しい表情でステージを闊歩。客席をまっすぐに見つめながら歌う黒木の姿に、観客は拳を振り上げレスポンス。最後には♪ オーオオオオオー♪ の大合唱になった。
 アンコールではバンド時代の楽曲も披露。全部で18曲、黒木渚は堂々と渋谷公会堂をやり切った。その努力と意志の強さ、そしてタフな精神に、心から大きな拍手を送りたい。

 「革命」は、決して誰にも媚びない尊い決意表明を表現した歌だ。この日の渋谷公会堂のライヴは、開催することを決めたところから、彼女の決意表明の集大成だったと思う。

 そして、彼女はこの日、新たな決意表明を言葉にした。
 それが、2年以内に日本武道館でライヴを行うこと。
 黒木渚の決意表明は、次の黒木渚へのスタートラインであることを、私はこの日、初めて知った。

【取材・文:伊藤亜希】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル 黒木渚

リリース情報

標本箱

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2014年04月02日

ラストラム・ミュージックエンタテインメント

1. 革命
2. 金魚姫
3. フラフープ
4. あしながおじさん
5. はさみ
6. ウエット
7. マトリョーシカ
8. うすはりの少女
9. 窓
10. テーマ

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[DVD]「革命がえし」ツアーファイナル 渋谷公会堂 2014

[DVD]「革命がえし」ツアーファイナル 渋谷公会堂 2014

2014年08月20日

ラストラム・ミュージックエンタテインメント

1.はさみ
2.骨
3.フラフープ
4.クマリ
5.あしながおじさん
6.赤紙
7.うすはりの少女
8.あしかせ
9.窓
10.ウエット
11.プラナリア
12.マトリョーシカ
13.カルデラ
14.革命
15.金魚姫
16.テーマ

EN 1.エスパー
EN 2.あたしの心臓あげる

お知らせ

■ライブ情報

YATSUI FESTIVAL! 2014
2014/06/21(土)TSUTAYA O-EAST/TSUTAYA O-WEST/TSUTAYA O-nest/TSUTAYA O-Crest/duo MUSIC EXCHANGE/7th FLOOR/club asia/VUENOS/Glad/SOUND MUSEUM VISION

関ヶ原 LIVE WARS 2014 ROCK onna ROCK
2014/07/20(日)岐阜県 桃配運動公園 野球場野外特設ステージ

TREASURE05X
2014/08/10(日)愛知県 ダイアモンドホール

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2014 in EZO
2014/08/16(土)北海道 石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ

音霊 OTODAMA SEA STUDIO 2014
2014/08/27(水)音霊 OTODAMA SEA STUDIO

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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