テスラは泣かない。新たな境地へ。『ONE』リリースツアーファイナル
テスラは泣かない。 | 2015.06.29
会場が暗くなる。歓声があがる。鳴り響くSEは、変拍子のリズム。拍手をしながら最初に登場したのは、ベースの吉牟田直和。その後に、ボーカル&ギターの村上学、ドラムの實吉祐一、キーボード&コーラスの飯野桃子が続いた。
ステージのど真ん中に村上。いつも下手(ステージ向かって左手)にいた飯野は、今日は上手に陣取っている。
4人が實吉の方を向き、呼吸を合わせる。飯野がコクリと頷く。吉牟田が咆哮したような表情を見せる。次の刹那、實吉がカウントをとった。
ライヴは、激しい高速ナンバー「Cry Cry Cry」でスタート。昨年春にリリースされた彼らのメジャー1stフルアルバム『TESLA doesn’t know how to cry.』でもオープニングを飾るこの曲は、フレーズの連打、村上のエモーショナルなボーカルと、テスラらしい1曲と言える。拳をあげる観客。その拳の振りに合わせ、ヘッドバンギングする吉牟田。途中のブレイクで、實吉がペロリと舌を出す。飯野はハイトーンなコーラスを響かせた後、観客に笑顔を向ける。
村上は、ギターを弾き歌いながら、両手で客席を煽る。身体だけでなく、その表情でも観客を盛り上げていく。観客の顔を見ながら、荒々しく叫ぶように歌う村上。サビでは、声が裏がえる瞬間もあり気迫が感じられた。
渋いベースラインがクールなグルーヴを作る「cold girl lost fiction」。イントロからリズムに合わせてクラップが起こる。「国境線上で唄う、東京、最後までよろしく!」という村上のツアータイトルを絡めた挨拶に続いたのは「国境はなかった」。3月に発売された最新ミニアルバム『ONE』のリード曲だ。前述した「Cry Cry Cry」の流れを組むメランコリックな激情型ロックは、テスラは泣かない。の得意技でもある。エンディングに、村上のリズムに合わせた台詞があるのが、この曲の特徴のひとつだが、この日は台詞を言う村上に、一瞬、色気を感じた。何度かインタビューをしただけでの印象だが、村上学は頭が良くて生真面目だ。理論的な歌詞には、右脳(感覚)より左脳(理性)が勝っているのが出ているとも思う。しかしその言動から、そういう自分に葛藤している様子も伺えた。私が色気を感じた瞬間は、彼の中で感覚が理性を超えた瞬間なのではないかと思う。観客を見つめるその顔は、笑顔と泣き顔の中間のような、感情が渦巻き何かが溢れ出しそうな、そんな表情をしていた。一瞬だけですぐ消えてしまったが、このバンドの何かが変わり始めていると思った。
MC。「改めてテスラは泣かない。です。どうぞよろしく。ついにツアーファイナルを迎えることができました」と告げた村上。 “言っていいですかね?”と前置きした後、こう続けた。「ただいま! 東京!」フロアから“お帰り”の声がかかる。現在も鹿児島在住ながら、月の半分以上を東京で過ごすようになった彼ら。その環境の変化をあえてネタにした村上に、すかさず吉牟田がつっこんだ。「おしゃれの聖地・代官山で、東京人だと、今、お前は言ったわけだ!」苦笑する村上。東京でファイナルをしたかったんだと切り返したが、墓穴を掘る結果に。飯野が追い打ちをかける。「大阪では、大阪でファイナルやりたかったって言ってたんです。調子いいよね!」この暴露話に会場は爆笑。ドラムの實吉も笑っている。こんな風に、ほぼ全員参加のフリースタイルなMCも、これまでなかったことだ。少なくとも私は初めて観た。
この暴露MCをまとめたのは、村上だった。
「全公演ファイナルぐらいの気持ちでやって仕上げてきました、ぶっとばして行くよ、東京!」
ライヴは中盤へ。フラッシュのように眩い光が明滅した「MOTHER」では、バンドサウンドの迫力を叩き付ける。メジャーデビューシングル「Lie to myself」では、イントロのリズミカルなピアノのフレーズに合わせて、観客の上半身が揃って上下した。バラバラにリズムをとって踊っていた観客が、あるフレーズをきっかけに一緒になっていく。彼らのライヴならではの光景か。
「ファイナルだといろいろ思い出して気持ちがすげぇ入る。楽しいです。ありがとう」と村上。この後、4月中旬からスタートした全国ツアー「『ONE』release tour“国境線上で唄う”」を振り返り、笑える思い出話等を披露。途中の観客からのつっこみや反応に、普通に答える姿も微笑ましかった。
ミディアムバラード「Arc」の後「後半戦、まだまだいけますか! 皆さんのダンス見せてもらっていいですか!」とダンサブルなナンバー「イムソン」へ。4人のスキルが炸裂するトリッキー・チューン「Imagination Gap Ground」が終わると、村上が言葉をはさむ。「今の曲は変拍子で大変だったけど、次は全員で踊れるパーティーチューンを」と「Tuesday」へ。最新作『ONE』の中でも異色の1曲。ポップでストレートなアッパーチューンだ。ホンキートンクなピアノのフレーズなど、カントリー&ロックンロールの要素をフィーチャーした新境地。わかりやすい1曲に、観客の笑顔もはじけた。「メロル」と続けた後、本編最後のMC。
「今日は代官山UNITに来てくれてありがとうございます。ファイナルだけど、新しい旅の初日だと思っています。またみんなと新しい景色を見たいと思います」 この村上の言葉を受け「めんどくせぇ」へ。イントロから“Oi! Oi!”の掛け声がかかる。村上の「一緒に歌ってください」というシャウトに“♪めんどくせぇな”と、観客は歌で応えた。最後に代表曲「アンダーソン」を決めて、4人はステージを後にした。
アンコールに応え、3曲を披露したテスラは泣かない。そこには、1曲、新曲が含まれていた。村上は、この新曲をこう紹介した。
「メジャーセカンドフルアルバムが完成しました。タイトルは『ジョハリの窓』と言います」
この後、このアルバムのレコーディング中に、飯野が2回泣いたというエピソードをカミングアウト。暴露返しか。飯野が笑っている。これまで泣いたことなど無かったねと、言いながら。
「新しいアルバムの中から1曲やります」
演奏されたのは「サラバ」。この曲を含み、全11曲が収録された彼らのセカンドフルアルバム『ジョハリの窓』は、8月26日に発売となる。
この日のライヴで、テスラは泣かない。は、確実に変わったと思った。どこが変わっていたか――バンドと観客(=聴き手)の距離が近くなったのだ。これまでも、決して距離をとっていたわけではない。しかし、デビュー以降、全国でライヴを重ねていく中で、自分たちの楽曲が聴き手にどう伝わっているのか、届いているのかが確認できたのだろう。
そして、彼らは思ったのだ。
聴き手と、もっと近づきたい、と。
そのためには、自分達が変わらなければいけないと。
この意識の変化が、体現できるようになってきた。MCも、曲の紹介も、演奏も、パフォーマンスも。そして、4人の視線の先も。約2時間のすべてを使って、彼らは自分達の気持ちを伝えようとしていた。そんなライヴだった。
テスラは泣かない。へ通ずる扉を開けるのは、誰でもない、自分自身であることを彼らは知ったのだ。
さあ、村上学、次は『ジョハリの窓』を開けてくれ。
【取材・文:伊藤亜希】
リリース情報
セットリスト
『ONE』release tour“国境線上で唄う”
2015.06.14@ 代官山UNIT
- Cry Cry Cry
- cold girl lost fiction
- 国境はなかった
- fuga
- my world is not yours
- Calico
- MOTHER
- サイドセクション
- Lie to myself
- Arc
- イムソン
- Imagination Gap Ground
- Tuseday
- メロル
- めんどくせえ
- アンダーソン
- one
- サラバ (新曲)
- Shake your hands saying goodbye
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