ロックの聖地にキタニが立った――憧れのSHELTERワンマンをレポート!
キタニタツヤ | 2020.02.19
憧れのステージに立つとき、人は事前に何度もそこに立っている自身の姿を思い描くだろう。そして実際、その通りの光景がそこに広がってくれたとしたら……。キタニタツヤにとって、この日この場所でのライブは、まさにその答え合わせでもあり、それが大正解であり、これを経てさらなる邁進へと向かえる心づもりが改めてできた夜になったように私には映った。
キタニタツヤ初の東名阪ツアー「TOUR 2020 “Seven Girls’ H(e)avens”」が大成功にて幕を閉じた。昨年9月に発売されたミニアルバム『Seven Girls’ H(e)avens』とともに回った同ツアー、その最終地点はロックの聖地・下北沢SHELTERであった。チケットは早々に完売し、立錐の余地もないほどの満場であったこの日。『Seven Girls’ H(e)avens』からの曲を中心に、人気曲たちを交え、ドラマや流れ、ストーリーを多分に擁し、何よりもきちんと楽曲を覚えてきての参加と思しき会場が一緒に歌い、ともに一体感を育んていったのも印象深い。と同時に前回のワンマンが照明や演出、ビジョンもふんだんに使ったビジュアル性も加味されたライブだったのに対し、今回はまさに「ライブハウスでのライブバンドのライブ」。特異な演出と言えばステージ背後のお馴染みのトレードマーク、「一つ目」のサインが楽曲に合わせて色を変えたり明滅や点滅するぐらい。あえてプレイとパフォーマンス、そしてライブハウス然とした照明装置のみの実に「丸腰し感」溢れるライブが終始展開された。
この下北沢SHELTERはキタニにとっても憧れだったステージ。前回の自主企画ライブで本ツアーの開催発表をしたときには「大好きだったASIAN KUNG-FU GENERATIONも立った憧れの場所」と語っていた記憶がある。そんな「憧れのステージ」を舞台に、ある種、その会場の雰囲気や歴史が憑依したかのようにロック然とし、会場を自身が思い描いていた光景としてきっちりと現実化させられた。そんな一夜のようにも思えた。
ライブは登場SEも特になく突如開始された。向かって上手奥にギターの秋好ゆうき、下手奥にドラムの佐藤ユウスケ、そしてフロントセンターにキタニといったトライアングルを描く陣営だ。SE代わりに「悪魔の踊り方」が始まると、歪んだギターとダイナミズムたっぷりな躍動感溢れるグルーヴが場内にバウンスを生み、大合唱を導き出しながら、不乱に歌うキタニ。そしてここからは『Seven Girls’ H(e)avens』からの曲が続いた。マイクスタンドを握りしめるように歌った「Stoned Child」では、独特の酩酊感に会場も酔中へ。ファットな同期ベースとハネる佐藤のビートがフロアを心地よくたゆたわせていく。続くミディアムな「花の香」ではバンドサウンドにDAW性が同期されていき、夏の夜のようなアンニュイさが場内を包んでいった。また、軽いMCを挟み、ここからは歌い崩したラップ混じりのキタニの歌が映えてゆく。「トリガーハッピー」が緊張感のあるオルタナ性とニューウェーヴィーなディスコサウンドを融合させた特異な音楽性で会場を躍らせば、「Sad Girl」では印象的なエレピと、曲間にはあえてボーカル落ちのブレイク部分を作り出し、ライブならではの空気感を味わわせてくれた。対して、これまでの楽曲とは正反対に、会場との距離をぐっと近づけた「記憶の水槽」では、対象が自分から相手へと変わっていき、伴って場内の雰囲気が一変したのを感じた。
「今日のお客さんはウルサくていいね。俺はうれしい。自分のライブはこうであってほしい。みんなも笑顔でうれしい」とキタニ。続けて今回のツアーを「ポケモンと酒に明け暮れたツアーだった」と総括して振り返る。
ライブに戻ると、会場をさらに一体化させるべく「きっとこの命に意味は無かった」が放たれ、《やっと幸福の在り処を見つけたんだ》と歌い締めれば、スモールクローン性のあるギターリフも印象的な「夢遊病者は此岸にて」では、サビで現れる上昇感溢れるグルーヴが会場をぐいぐい惹き込んでいくのを見た。また、ダークサイケ感漂う「夜がこわれる」が場内を支配したときには、荒がって歌ったキタニのアジテーションも想い出深い。そしてそこから光へと手を伸ばすように「I DO NOT LOVE YOU.」が歌われると、《君だけは離れないでいて/青く冷えた僕の手を握っていてほしいんだ》という印象的なフレーズと、ラストの場内交えてのコーラスが楽曲を昇華させていくのを見た。対して「輪郭」ではたゆたうような沈殿感から徐々に上昇していくかのような場面を想起させ、スナップの音色も交えた「君のつづき」では歌われる別れの場面を描き、皆がそこに自身を佇ませた。ラストは刹那感たっぷりにディスコティックな「クラブ・アンリアリティ」で幻想的なミラーボールが回るなか、不思議な幸福感と安堵感を交えた“アンリアリティな世界観”を楽しむが如く、その刹那を懸命に謳歌するように、皆が一緒に歌い踊っていたのも目に焼きついている。
アンコール。BGM「Yomi」が流れるなか、再びメンバーがステージへと現れた。ここからは、これからやってくる春へと思いを馳せる曲が続いた。と、その前にキタニは本編で一切持たなかったベースをここでようやく持ち、弾きながら歌っていく。まずは雅やかな「君が夜の海に還るまで」が悲しい歌物語とともにゆるやかなダイナミズムを場内に広げていけば、同じ桜つながりな「波に名前をつけること、僕らの呼吸に終わりがあること。」ではドライブ感と適度な疾走性が会場を並走させていく。最後の転調が会場をもう一度ガシッと抱きしめるように引き連れて、さらなる加速を見せ、アウトロも思い返すが如くあえて長くたっぷりとられた。
ここでうれしい報告が。キタニから「Oneman Live “Hug myself”」開催決定の知らせが満場に伝えられる。日付は6月26日、場所は渋谷CLUB QUATTRO。タイトルは主催対バンイベントが「Hugs」なことに起因し、「今度は自分たちだけで戦うから!」という力強い宣誓が告げられる。と同時に満場からは大きな歓喜のリアクションが。また、このタイミングでは曲名こそ明かさなかったが、この日の晩より『Seven Girls’ H(e)avens』収録の「花の香」のMVもYouTubeで公開された。
「今日は本当にいい夜でした」とキタニ。最後も皆を引き連れていくが如く、これまで以上にアッパー気味に響いた「芥の部屋は錆色に沈む」が会場全体をさらうように放たれ、場内からも非常に頼もしいリアクションが返った。後半はバンドメンバーそれぞれの怒涛のソロプレイを挟み、すごかった……という印象と清々しさを残し、彼らはステージを去った。
正直この環境柄、彼のバックボーンのひとつでもあるグランジ性や、もっとベースの技巧的な面を打ち出したり映えさせたりするライブを予想していた。しかし彼は今の自身のモードや音楽性に沿い、その中できっちりとロック的な部分をフックアップさせて勝負に挑んだ。そこにもキタニの底知れぬすごさを感じた。
あえて一度、このような場所でやってみた感も窺えたこの日。そしてこれを糧に、次からはまたこれまで通りキャパを倍々にしていくことだろう。次は渋谷クアトロ。この日の3倍近くの動員が必要だ。同会場でのライブを発表した際には「不安だ~」的な言葉を場内に告げてはいたが、ニヤリと笑いながら零したその言葉からは「また満場にして理想通りのライブをやってやる!」、そんな密かな気概も窺えた。
とにもかくにも、ライブハウスでも映える自身のロック観をここに残したキタニ。今後はどんどんキャパを広げ、そこで自分の思うロックを展開し、お客さんたちもフレキシブルにそれに呼応するように並走していくことだろう。キタニタツヤ、バンド、そしてお客さん、それぞれの夢はさらに大きく膨らんでいく。
【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:川崎龍弥】
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リリース情報
Seven Girls’ H(e)avens
2019年09月25日
Emo,Alternative&Cool.
02.花の香
03.トリガーハッピー
04.Sad Girl
05.君のつづき
06.穴の空いた生活
07.クラブ・アンリアリティ
セットリスト
TOUR 2020 “Seven Girls’ H(e)avens”
2020.1.19@下北沢SHELTER
- 1.悪魔の踊り方
- 2.Stoned Child
- 3.花の香
- 4.トリガーハッピー
- 5.Sad Girl
- 6.記憶の水槽
- 7.きっとこの命に意味は無かった
- 8.夢遊病者は此岸にて
- 9.夜がこわれる
- 10.I DO NOT LOVE YOU.
- 11.輪郭
- 12.君のつづき
- 13.クラブ・アンリアリティ 【ENCORE】
- 1.君が夜の海に還るまで
- 2.波に名前をつけること、僕らの呼吸に終わりがあること。
- 3.芥の部屋は錆色に沈む
お知らせ
Oneman Live “Hug myself”
6/26(金)東京 渋谷CLUB QUATTRO
※SOLD OUT
österreich presents 「幾度目かの最期」
3/13(金)東京 新代田FEVER
※SOLD OUT
「FM NORTH WAVE & WESS PRESENTS IMPACT! XV supported by アルキタ」
4/11(土)北海道 札幌ライブハウス6会場
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。