アルバム『DEMAGOG』の核心を全解放させた「キタニタツヤ 2nd Oneman Tour 2020 “DEMAGOG”」独占レポート!
キタニタツヤ | 2020.11.12
2020年11月5日、6日、恵比寿LIQUIDROOMにてキタニタツヤのワンマンライブ「キタニタツヤ 2nd Oneman Tour 2020 “DEMAGOG” DAY 1 / DAY 2」が開催された。当日は、8月26日にリリースされたアルバム『DEMAGOG』のレコ発ライブ。当初予定していた全国ツアーは中止となったが、ファイナル予定だった恵比寿LIQUIDROOM公演を、6月に開催予定だった渋谷CLUB QUATTRO公演の振り替えとして1日追加しての公演となった。
最新アルバム『DEMAGOG』は、現代社会の歪みを様々な視点から切り取ったコンセプチュアルなアルバムだ。そもそも“DEMAGOG”とは、“大衆の情熱と偏見に訴えることによって支持を求める政治指導者”を意味する。キタニとしては、そこに彼が理想とするウジェーヌ・ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』という絵画のようなイメージを重ね合わせた。コロナ禍、人々の移動や行動に制限がなされるストレスフルな時代。福岡、札幌、名古屋、大阪、仙台をめぐるはずだった全国ツアーは悔しくも奪われたキタニタツヤであったが、ようやくオーディエンスと対面でのライブの現場となった。文字どおり、聴くものを煽動するステージが現実化した瞬間だ。
会場の恵比寿LIQUIDROOMのフロアは、座席ではなくテープでテリトリーが区切られソーシャルディスタンスを確保。グッズで販売されているタトゥーシールを貼っていたり、久々のリアルライブを堪能したいワクワク感が開演前から熱く伝わってきた。なお、この2日目のステージは配信も行われた。
第一声は「ありがとう、キタニタツヤです。よろしく!!」。オープニングは「ハイドアンドシーク」。2020年代ならではのミクスチャーロックを聴かせてくれるナンバーだ。今日のステージは、キタニは、ボーカルとベース。ギターは秋好ゆうき、キーボードは平畑徹也、ドラムがMattという4人編成。ステージにはアルバム『DEMAGOG』を象徴する旗やオブジェが置かれるなどキタニらしいデストピアな雰囲気。続くメロウなビートが高揚感を高めてくれる「きっとこの命に意味は無かった」。そして、インパクトあるファニーなイントロダクションから「パノプティコン」を披露。歌謡センスをも感じる歌えるメロディがキャッチーなキタニらしいナンバーだ。なお、パノプティコンとは全展望監視システムのこと。18世紀に功利主義のベンサムが提唱した建築プランであり、ITによる監視社会ともつながる世界観をキタニは重ねていく。
ここでMC。MCでは、キタニ自身が直接話し出さずに、自らのスマホにあらかじめ録音していた音声により、「恵比寿いけるか!! ははは(笑)。え~お!(スマホが復唱する) り~ろりろりろ!(スマホが復唱する)」。場内でオーディエンスが話すことが禁じられていることを逆手に取りながら、フレディ・マーキュリーばりのコール&レスポンスで笑いを取るキタニ。そして「……という仕込みを昨日やっていたんですわ。涙ぐましいねえ。昨日さ、MCが意外と大変で。みんな声が出せないでしょ? 反応が難しくて。でね、一切反応が返ってこないからさ。昨日、ライブが終わったあともスタッフから『キタニ君、苦労していたね』みたいな。いや、違うんだよ。俺がMCですべったように見えているが、みんな心の中でね、大ウケの嵐なんだけど、表に出せないじゃない? ルール上。それをわかってもらえなかったのでどうしよう。なので、お前ら困ったら拍手だ!! いえ~い!!!(パチパチパチパチパチパチパチパチ)」。
そして、MCでのユーモラスな姿とは裏腹に、EDMライクにリフがかっこいいダンサブルな「トリガーハッピー」「デッドウェイト」「夢遊病者は此岸にて」ではテンションマックスにアッパーなキタニの姿が垣間見えた。オーディエンスも両手を挙げて答えていく。妖しげな照明に映えるダークヒーロー然とした佇まいがクールだ。うん、MCとは裏腹なかっこよさだ。
ここでSE「Yomi」が会場に流れ、キタニはベースを抱えながらたゆたうようにミドルな「君が夜の海に還るまで」へ。続く「波に名前をつけること、僕らの呼吸に終わりがあること。」での、せつなポップチューンが解き放つ高揚感もたまらない。キタニにとってターニングポイントになったであろうラップを織り交ぜた「Sad Girl」、本質をついた歌詞にエッジーさを感じながらもキャッチーな要素を楽しませてくれる「人間みたいね」をプレイ。
ここで長めのMC。「ライブって楽しいねえ。配信ライブを6月26日にやったんですけど、今はそれのリベンジで。あと、アルバム『DEMAGOG』出したあとも1回限りの配信ライブをやったんだけど、やっぱりお客さんがいないとね。演奏しているだけだったらレコーディングと一緒じゃん? ライブというからには聴く人が目の前にいて、演奏する人が目の前にいるのがいいなってしみじみと思いました。さっき『トリガーハッピー』聴いた? 俺の生放送を見てくれている人はわかると思うんだけど、『お~お~』のコーラスの声をみんなから募集して重ねたんだよ。まだあと2曲ほど、そう言ったコーラスを重ねる試みをやっているんだけど。まあ、なんだろうな。不幸中の幸い? こういった新しいことができました。これから来年再来年、コロナがなかった頃の世界へと戻ることはないと思っていて。いろいろライブのやり方も音楽のあり方も変わるとは思うんだけど、進んではいるわけじゃない? 悪いことばかりではないというか。だから、俺がサンプラーで声を出したようにみんなもサンプラーで『キタニ頑張って~!』ってさ。誰か持ってない? 聞きたいわ。(※オーディエンスがサンプラーを鳴らす!) ははは(笑)。皆さんの力を借りて、なんとかライブができるようになりました。たぶん、これから少しずつ、新しい形態ではあると思うけど不自由でないライブをやれるようになると思うし。そんなことに希望を持ってやっていきたいね。」と、温かくファンに語りかける。
後半戦は、ファンキーな酔いどれナンバー「Stoned Child」からスタート。ダンサブルにオーディエンスみんなで盛り上がる「クラブ・アンリアリティ」。ヒップホップやR&Bなどアーバンな嗜好性を取り入れた最旬ブラックミュージックへの傾倒。からのオルタナティブロックなスタイルへの深化。プロフェッショナルなソングライティングのセンスはもちろんのこと、ライブでキタニによる自由な表現を堪能できる瞬間は至福だ。
そして、アルバム『DEMAGOG』において、今の時代における自分なりの解決策、姿勢を見せてくれた重要曲が「デマゴーグ」だ。救いを感じたナンバー。UKロック感、シンガロングで優しく包み込んでくれるナンバー。続く「泥中の蓮」では、オルタナティブにダークなテイストを聴かせてくれた。「デマゴーグ」で大団円を迎えてもいいところ、あえて「泥中の蓮」を鳴らすのがキタニタツヤらしさなのかもしれない。
アンコールでは跳ねるビートが心をざわめかせる「悪魔の踊り方」ではじけるフロア。 声は出せない環境だがオーディエンスの熱狂が伝わるワンシーンだ。ここでオーディエンスとの写真撮影に続いてMC。「次、いつライブで会えるかわからないんだけど、きっといつか会える日まで力を蓄えておこう! じゃあな!!!」。ラストは文学作品をテーマに繰り広げる「芥の部屋は錆色に沈む」。ベースを片手にファンキーな踊れるロックビートを楽しませてくれた。
テレビやSNSなどのニュースから、悲しくも悪意が見え隠れするせつない時代。しかし、キタニタツヤはアルバム作品『DEMAGOG』にて、悪夢や地獄といったキーワードを重ねながらも健やかに生きるための決意表明を込めてくれたように思う。作品に込めた意味に、新たな真意がより明確に伝わってきたライブとなった。
【取材・文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】
【撮影:後藤壮太郎】
<アーカイブはこちらから>
キタニタツヤ 2nd Oneman Tour 2020 "DEMAGOG" DAY 2
https://stagecrowd.live/s/live072/?ima=5155
見逃し配信 絶賛販売中
販売期間:~2020年11月13日(金)18:00
・問い合わせ先
キタニタツヤオフィシャルサイト info@tatsuyakitani.com
リリース情報
DEMAGOG
2020年08月26日
ソニー・ミュージックレーベルズ
02.パノプティコン
03.デッドウェイト
04.人間みたいね
05.悪夢
06.デマゴーグ
07.泥中の蓮
セットリスト
キタニタツヤ 2nd Oneman Tour 2020
“DEMAGOG” DAY 2
2020.11.06@恵比寿LIQUIDROOM
- 01.ハイドアンドシーク
- 02.きっとこの命に意味は無かった
- 03.パノプティコン
- 04.トリガーハッピー
- 05.夜がこわれる
- 06.デッドウェイト
- 07.夢遊病者は此岸にて
- (SE.Yomi)
- 08.君が夜の海に還るまで
- 09.波に名前をつけること、僕らの呼吸に終わりがあること。
- 10.Sad Girl
- 11.人間みたいね
- 12.Stoned Child
- 13.クラブ・アンリアリティ
- 14.悪夢
- 15.デマゴーグ
- 16.泥中の蓮 【ENCORE】
- EN1.悪魔の踊り方
- EN2.芥の部屋は錆色に沈む