レビュー

平山雄一 ウィークリーレビュー | 2014.01.30

連載 第10週
青山純


天国に響け!日本語ビート

 先日、武道館にMISIAのライブを観に行った。その際、ドラムの最初のフレーズを聴いたとき、「あ、青純(青山純さんのニックネーム)がいるな」と直感した。青山さんは初期からMISIAを支えてきたドラマーなのだが、体調を崩したこともあって最近はFUYUがMISIAのドラムを担当。この日もFUYUが叩いていたのだが、僕は彼の一瞬のフレーズに“青純”の痕跡を感じた。FUYUはニューヨークで学んだとても優秀なドラマーなのだが、僕は彼のドラミングにずっと“英語”のニュアンスを感じ続けてきた。それが武道館の最初の一打に、日本語を感じ、さらにそれが青純ゆずりのものだと悟ったのだった。

 不思議に思う人がいるかもしれない。が、メロディにも“日本語を呼ぶメロディ”と、“英語を呼ぶメロディ”があるのと同じで、ビートにも英語ビートと日本語ビートがある。青純はもともと山下達郎のリズムセクションで活躍した天才で、今、リスナーがグルーヴィーなJ-POPを聴けるのはこの人のお陰と言ってもいい。FUYUは青純とツインドラムで叩いたりして、青純の生んだ日本語ビートに間近で触れる機会に恵まれていた。その成果が、この日の武道館に表われたのだった。

 僕はその“継承”が嬉しかった。ところがその後、僕はもっと驚かされることになる。うかつにも僕は、青山さんが昨年12月に亡くなったことを知らなかった。なのでMISIAがMCで哀悼の辞を述べたとき、言葉を失った。同時に、FUYUとMISIAに青純のビートが確かに息づいていることに感動した。

 英語の音は“ひとつながり”でビートを形成することができるが、日本語は音のひとつひとつがバラバラに離れている。なので、“日本語ドラマー”は一打にビートを込める。青山さんは一打にビートを宿すことのできる稀有のドラマーだった。そのため、僕が見学させてもらった、あるレコーディングでは、1拍ずれたまま最後まで叩いてしまうという珍事を目撃したことがあった。それでも音楽として成り立っていたのだから、名人芸と言うしかない(笑)。

 そんな青純の最後のプレイは、MISIAの最新シングル『僕はペガサス 君はポラリス』のカップリング「Jewelry」で聴ける。僕のおススメは、山下達郎の82年のアルバム『FOR YOU』の1曲目「SPARKLE」だ。どうか天国でも変わらずに、ばりばり青純ビートで叩いてください。

【文・平山雄一】




<青山純>
ドラマー。
1975年、高校卒業後、杉真理のバンド(杉真理&レッド・ストライプス)のレコーデイングに参加、プロとして活動を開始する。1977年には松任谷由実らのバックバンドも務めた。
1979年にインストルメンタルバンド・THE SQUARE(現在のT-SQUARE)に参加。
1980年頃から2003年にかけて山下達郎のレコーディング、ライブ活動にレギュラードラマーとして参加した活動がよく知られている。
その他、大貫妙子、KAN、吉川晃司、CHAGE&ASKA、徳永英明、中島みゆき、B’z,、福山雅治、MISIA、MY LITTLE LOVER、真心ブラザーズら、100組以上アーティストのレコーディングやライブやツアーのサポートメンバーとして精力的に活動をした。

享年56歳。


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