コラボ作連続リリースがキタニタツヤにもたらしたものとは? その全貌を暴く!
ゆびィンタビュー | 2021.05.17
PROFILE
キタニタツヤ
1996年生まれ。2014年頃からネット上に楽曲を公開し始める。
2017年、高い楽曲センスが買われ作家として楽曲提供をしながらソロ活動も行う。
2018年にはバンド『sajou no hana』を結成。同年9月にはソロ作品「I DO(NOT)LOVE YOU.」を発表。同作はギター、ベース、プログラミングなど、マスタリング以外のすべての作業を一人で完結させた作品で、高い評価を得る。
2019年、渋谷WWWでのワンマンライブを満員御礼の下に開催。同じく2019年9月にリリースされた1st mini AL「Seven Girls’ H(e)avens」はタワレコメンにも選定されているほか、SPACE SHOWERが選ぶ注目新人“RETSUDEN NEW FORCE”にも選出。
2020年リリースの最新作『DEMAGOG』は全国各地のラジオ局パワープレイに数多く指定されたほか、タワーレコード『NE(X)T BREAKERS』に選定。
『ヨルシカ』のサポートメンバーとしての参加や、『sajou no hana』での、“とある科学の一方通行”などの有名アニメーションのタイアップ曲などをリリース、作家としても数々のアーティストに楽曲提供を行うなど、シーンを選ばずその才能を発揮し続けている。
- コンセプトアルバム『DEMAGOG』(8月26日リリース)から約半年が経ちました。オンラインや有観客ライブ、そして12月からの4ヵ月連続配信リリースなどいろんなことがあったと思いますが、いかがですか?
キタニ
『DEMAGOG』は、メジャーレーベルからの初リリースというタイミングでのアルバムだったんですけど、曲のタネはわりとストックしていたんですよ。なので、『DEMAGOG』後からがメジャーのテンポ感になったというか。とはいえ、アルバムリリースした直後からも、ライフワークとしてリリースに関わらず曲を作っていました。たとえば、いつタイアップがきても対応できるように。いいメロディーをストックしていくことに損はないので常に創作していますね。『DEMAGOG』リリース前には『THE FIRST TAKE』(7月17日公開)にも出演されていました。そうやって考えると、この1,2年、音楽シーンが猛スピードで変わってきていますよね?
キタニ
まったく想像してなかった現実ですよね。たとえばTikTokで急にバズるアーティストが増えたり、変化は常に起きています。そこに合わせて何かをしようとは思っていないですけど、カオスでおもしろい状況だと思っています。そんな意味では、YouTube生配信番組『キタニタツヤを解放せよ』からは、気鋭のシンガーソングライター・小林私やユーザーとの交流もあって、「サッポロ黒ラベルの歌」が生まれました。キタニ
コロナ禍になって人前に出る機会が減ったことでスタートしたYouTube配信でした。おもしろいコミュニケーションが取れたのは怪我の功名というか。よかったですね。しかも、元となる楽曲のメロウさやせつなさを残しながら、 キタニタツヤ流のクリスマスソングとして生まれ変わった「白無垢」(12月29日リリース)となりました。どんな思いで形にされたのでしょうか?
キタニ
メロディーが良かったので、あとビート感も残して新しい曲にリファインして出しました。『DEMAGOG』以降、いろんなタイプの曲作りにチャレンジされたり、YouTube配信での経緯をリファインしたり、いろいろなチャレンジをされているんですね。キタニ
そうですね。チャレンジというか手探りというか。「白無垢」は、元々のメロウさや切なさを残しながらも、聴き心地の良さやミュージックビデオにおける、10代?20代にとって特にエモいインパクトを与えた映像に仕上がりましたね。キタニ
元々が、ビールから発展したふざけた歌詞だったんです。ちなみに、歌詞に関してはリファレンスがあって、中原中也の『在りし日の歌』をきっかけに作り始めました。雪に対する感じ方の変化を描いた詞なんですよね。そこから、連想ゲームというか想像を膨らましてまったく違う別の現代的なテーマの曲になったかなと。そんな意味では、インスピレーションの力を借りた感じはあります。これまでやったことなかった試みでした。いい意味で肩の力の抜けた感じが伝わってきて。それは主にトラックの雰囲気なのかな。キタニ
トラックは、クリス・デイブじゃないですけど、聴き慣れていない人だと、もたっているように聴こえるハイハットが遅れて鳴っているドラムのパターンで。それが気持ちいいんですよね。キタニ
ヒップホップのビートというか、やってみたいなと思っていたんです。宣教師というか、そんなリズムの楽しみ方をリスナーに伝えたいとも思ったんですね。僕のリスナーは10代が多いので慣れていないと思うんですよ。この曲は、ベースもドラムもピアノもおっさんくさいんですよ。でも、客観的にはミックス含め今の音として鳴っていますからね。キタニ
そうですね。ミュージックビデオのエモさもあって。最後、振り返って、花束が、みたいな。キタニ
面白いですよね。同じところでループし続けたり。そして、連続リリース第2弾「Cinnamon」(1月27日リリース)は、ポルカドットスティングレイのギタリスト・エジマハルシさんとのコラボレーション。軸となるベースライン、ギターカッティングが気持ちいいナンバーで。
キタニ
友達なんですよ。酒飲んだり、ゲームしたりしていて。4ヵ月連続リリースでコラボやるんだったらハルシにギターを弾いてもらいたいなって。フレーズとか、ほぼほぼ丸投げなんです。ギターは2本入っていて、リズムは僕が弾いていて。あとはどんどん提案してくれて、ネット上でやり取りし続けたんで会わずにアレンジを詰めた感じで。軸となるベースラインもいいんですよね。めっちゃメロウで引っ張ってくれるし。90年代のブラックミュージックのセンスもあって。キタニ
そうかもしれないですね。ベースに耳がいきつつ、ギターの気持ちのいいカッティングやリフが入ってきて。キタニ
いつも僕は曲をコードとメロで書いちゃうんですけど、ベースをはじめから決めて引っ張っていく方向性から上物をのせていったので、たしかにベースが大事な曲かもしれないですね。ライブで聴いたら気持ち良さそう。歌詞では日常感あるフレーズがありつつ、広げていっている感じで。キタニ
なんか、小洒落た、いけ好かないフランス映画というか(笑)。匂わせたいなとなんとなく思っていました。ただ僕、フランス映画の引き出しがあるかといえばあまりないんですよ。歌詞は、生放送とかでも話しているんですけど、ボードレールの『悪の華』という詩集の中に、女性の髪をテーマに、恋人の髪を偏執的に語るマニアックな詩があって。それがめちゃくちゃ美しいんですよ。髪の中にあらゆる世界がある、みたいな。いわゆるフェチな。キタニ
そんな詞がきっかけにはあるんですけど、引用とかではなく、何かひとつのオブジェクトに対して、ここまで想いを広げることができるんだなあということに影響を受けましたね。そんな意味でのインスパイアがあって。そこで自分は匂いをテーマにしたくて。それで先に「Cinnamon」ってタイトルが決まってから、じゃあどういうサビにしようかと。メロは決まっていたんですけどね。リファレンスがあって、キタニさんならではのフィルターがあって、そしてオリジナルとして再構築されていく様はエキサイティングですよね。キタニ
『DEMAGOG』のときとは違って、アルバムを作る前提で曲を作っていないので、そこはある種健康的な働きになっているかもしれないですね。でも、全体の方向性としてはテーマが実はちょびっとあって。『DEMAGOG』は、大きな目線から社会や世界の動きを見て、それに対して僕が思ったことから生み出していったんですけど、今回の、その後の曲は逆で。私的な世界というか、狭い視野での出来事。自分にまつわる誰かとの関係みたいな。私小説風かな。距離の近い話。なんとなくそんなテーマで曲を作っていきました。そういった距離感は、コロナ以降の今の時代にも通じるような気がします。そして、「逃走劇」(2月24日リリース)は、漫画界の“鬼っ子”カネコアツシの作品『EVOL(イーヴォー)』とコラボ。作品から受けたインスピレーションを楽曲に生み出されています。キタニさんのダークヒーロー的な側面が現れていますよね。
キタニ
この曲はそうですね。そもそも、僕がカネコアツシという漫画家が好きだという話をスタッフにしていて。そうしたら、こんなコラボに結びついて。僕が曲を作ったときは5話までしかなかった状態なんですけど、その時点で曲にしてみたという感じで。オケやメロは元々あったんですけど、その中から言葉をはめていきました。『EVOL(イーヴォー)』って作品は、意外にも少年漫画的なんですよ。題材やキャラクターは、まっすぐな王道感が強くって。そんなセンスがいいなと思って。それもあって、アニメのオープニングというか王道っぽい曲にしてみたかったんです。オルタナティブでありカウンターであり、王道もひっくり返す側からの返答というか。逆に、王道感あるというのが面白いですね。キタニ
ありがとうございます。インスピレーションをいただけたことがいい結果に結びつくんだなと思っています。誰かと一緒に物を作るって大事だなと思っていますね。そもそも4ヵ月連続リリースってすごいことですよね。キタニ
新鮮なコラボが続くことで、ネタが出がらしにならないというか。それこそ『DEMAGOG』を作った直後は出がらしだったんで。自分と向き合いまくった結果ですよね。なるほどね。キタニ
「白無垢」を作ったあたりから。小林私ともふざけて曲を作ったんですけど、おもしろかったし。誰かと物作りをするのは活力になりますよね。ビルボードチャートで海外シーンを見ていても、タグを増やすコラボ必須な時代な感じがしますね。共作というコライト文化含め。ストリーミング時代、常にフレッシュな多作さが求められているような気もします。キタニ
もちろんひとりで完結させるのも面白いんですけど、今はそれはいいやっていうタームかも。『DEMAGOG』後のモノ作り期間ですからね。というか、両面あるのがキタニタツヤのすごさですよね。「逃走劇」のミュージックビデオがまた良くって。何者かに囚われているキタニタツヤさんの姿って、似合いますよね(笑)。キタニ
ははは(笑)。ありがとうございます。「ハイドアンドシーク」もそうでしたね(笑)。「逃走劇」でのミュージックビデオ監督の谷口(猛)さんは、これまでずっと一緒にやってみたかった方なんです。話し合いながら、少年のための映像ってイメージになりました。なるほどねえ。今、まさにダークヒーロー全盛の時代となりました。血が出て、悩んで葛藤して。キタニ
今みんな暗いですよね。時代感ありますね。「逃走劇」が完成したことは大きいですよね。そこから「Ghost!?」(3月31日リリース)はジャズファンクで新境地なサウンドで。すごいな、4ヵ月やり抜けたという。
キタニ
やりました。大変だった。でも、全部ひとりで作るというわけではないので、そういう意味では助かる部分は多かったです。そして「Ghost!?」では、演奏とアレンジにALIが参加していて。キタニさんがほかのアーティストに編曲を委ねるのは初めてですよね?キタニ
やってよかったなと思いました。話も通じますし。やりたいことを完全に理解してくれたんですね。音楽的なリファレンスを出しまくってお願いするのは違うなって思って。だったら、メロディーとコードでざっくりしたデモを作って託したんです。ひとつあるとすれば、映画のイメージはあって。視覚表現だったらお互いの共通認識になって共感覚的というか。具体的ではなく、抽象的だけど映画だったらわかりやすいかなって。そうしたら、ALIのボーカルのLEOさんが「俺もその映画好きだよ!」って言ってくれて、そこから話が進んだんです。ああ、じゃあ見事にハマったんだ。キタニ
『ラスベガスをやっつけろ』って映画で。打ち合わせも30分ぐらいで。そこを共有しておまかせした感じで。この曲の歌詞で、<世界がアニメーションになっていく>と言うフレーズがパワーワードで。キタニ
映画もあるし、ぶっ飛んだ世界観、人がダメになっちゃうサイケデリックな歌詞がかけたらいいなって。最初は2分半ぐらいで駆け抜ける高速スウィングを意識していたんですけど、でもLEOさんに話をしたらサイケなんだからビートルズみたいにしようよってアドバイスをもらって、なるほどって。でも、ぐちゃぐちゃって感じではなく、最後に悟りを開くみたいな感じで。急にメジャーになってBPMが下がってトロ~ンとするというか。まさにコラボならではの相乗効果が生まれたという。キタニ
自分だけでは表現できなかった作品ですね。やってみたらめちゃくちゃ面白かったという。こうやって4作品を毎月リリースしてきて、『DEMAGOG』以降のキタニタツヤによるポップミュージック像の進化を感じられたのかな。成長というか。キタニ
そうですね。人の力を借りるという、コミュニケーションによる相乗効果なパワーは勉強になりましたね。と、同時に、逆に自分がこういうこと得意なんだなということも見えてきましたし。未来に希望が持てました。この後、夏にはフェス状況となるし、キタニさんとしても待望の東名阪ツアーも控えていて。キタニ
やれるはず。4ヵ月連続リリース曲も織り交ぜながらね。どんな感じでライブで演奏できるかってことを楽しみにしていてほしいです。楽曲を聴いて待機していてください。リリース情報
白無垢
2020年12月23日
ソニー・ミュージックレーベルズ
01.白無垢リリース情報
Cinnamon
2021年01月27日
ソニー・ミュージックレーベルズ
01.Cinna01.リリース情報
逃走劇
2021年02月24日
ソニー・ミュージックレーベルズ
01.逃走劇リリース情報
Ghost!?
2021年03月31日
ソニー・ミュージックレーベルズ
01.Ghost!?お知らせ
■マイ検索ワード
HYUKOH 配信ライブ
HYUKOH(ヒョゴ)っていう韓国のバンドが3月末に世界中で観れるブロードキャスティングをやっていたんですけど、去年2月に来日したときに観に行けなくて、「どうしても観たい!」と思って検索しました。あと、そこから派生して、韓国と日本の時差を調べてたら、時差はないみたいで、ライブの配信時間を調べるときに役に立ちました。HYUKOHとコラボしたいっすね、大好きなんで(笑)。
■ライブ情報
One Man Tour “BOUNDARIES”
06/24(木)愛知 名古屋QUATTRO
06/25(金)大阪 梅田QUATTRO
07/10(土)東京 渋谷TSUTAYA O-EAST
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。