レビュー
須田景凪 | 2019.01.16
須田景凪(すだ・けいな)、新しい才能の誕生だ。ボカロ文化から新たなカルチャーは息吹き、様々なジャンルへと派生していく。バルーン名義や須田景凪名義でのインディーズ時代から気になっていた耳を惹くイントロダクション、疾走するビートセンスに絡み合う歌えるメロディー。片時も心を離すことない、中毒性の高い研ぎ澄まされたサウンド・プロダクション。そして、胸を突き刺す抒情的なコトバのチカラ。
こういったレビューを書く際、ルーツとなるコミュニティーについて書くかどうか悩む時がある。しかし、もはや平成ではなくなる2019年。改めて、次世代クリエイターをインキュベーションするニコニコ動画やYouTubeなど、動画共有サービスの機能性の高さに注目したい。かつてライブハウスが生み出していた熱狂が、今や時と場所を超えてファンと共に成長できるメディア機能も複合する“音楽コミュニティー”となっているのだ。
先陣をきった、国民的ポップスター米津玄師や、ヨルシカのTikTokヒットで知られるn-bunaの成功もあってか、もはやボカロP出身アーティストへの偏見は無くなった。特に10代から20代前半への影響力は大きい。『2018年JOYSOUNDカラオケ年間ランキング 10代』において、バルーン(須田景凪、ボカロPの際の名前)は総合で1位を獲得した影響力を持つ。
そんな彼が、満を持して須田景凪として、ボカロPではなく自身による歌唱でワーナーミュージック・ジャパン内のレーベルであるunBORDEよりメジャー・デビューをする。昨年、あいみょんの国民的ヒットを生み出したレーベルだ。しかも、所属事務所はONE OK ROCKやフレデリックらが所属するA-Sketchだという。だが、須田景凪はバルーン時代から、セルフカバーで歌唱していたこともあり、ファンにとって環境の進化はなんら違和感はない。須田景凪として魅了するライブ公演も、昨年春から即完公演が続くレベルで浸透中なのだ。
1st EP『teeter』(ティーター)に先行して公開されたMV「パレイドリア」はすでに76万再生を突破。跳ねるポップビートに、メロディアスで切なさいっぱいのフレーズが美しいポップアンセムだ(2曲目収録)。
さらに、1曲目「mock」における、高揚感あるリフで煽りまくるギターポップチューン。3曲目「farce」では、軽やかに跳ねるビートがキュートなポップチューンに心を奪われる。4曲目「Dolly」は、メロディアスに熱く歌い上げていく激情ナンバーだ。5曲目「レソロジカ」で展開される、優しくも心へスッと入ってくる傷ついた心を癒してくれるポップバラードにも耳を奪われる。そして、6曲目「浮花」は手紙のように語りかけてくれる一人語りナンバーだ。メインストリームに語りかける“名刺”として、申し分ないデビュー作品の完成だ。
Mr.Children、BUMP OF CHICKEN、米津玄師など、J-POPを進化させてターニングポイントとなってきた日本的ロックの系譜。2019年の音楽シーンは、生まれながらにして“デジタル・ネイティヴ”のマーケットへと繋がる“SNS以降のネット文化”というキーワードがプラスされ、ストリーミング以降の音楽シーンを開拓していくこととなる。こだわりのメロディーでティーンを魅了する、須田景凪の才能に注目したい。大人はまだ知らない存在だが、大人をも魅了してくれるサウンドだ。
【文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】
リリース情報
teeter
発売日: 2019年01月16日
価格: ¥ 1,800(本体)+税
レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン unBORDE
収録曲
1. mock
2. パレイドリア
3. farce
4. Dolly
5. レソロジカ
6. 浮花