現実と格闘する内面の実況中継を見ているような高橋優のデビュー・アルバム

高橋優 | 2011.04.21

 初の全国流通盤『僕らの平成ロックンロール』で世に出て以来、スリリングな変貌を続ける高橋優は、作品を発表するたびに音楽シーンにナイフを突きつける。その刃は、もちろん彼自身にも向けられている。まさに“リアルタイム・シンガーソングライター”と呼ばれるにふさわしい存在だ。

 その高橋が、ついにデビュー・アルバムを完成させた。恐ろしい量のリリックを超速の4ビートに乗せた「終焉のディープキス」から始まって、ラストの「少年であれ」まで一気に聴かせるアルバムは、現実と格闘する高橋の内面の実況中継を見るようなドキドキ感がある。

 シャープに切り込むアマチュアから、真面目にもがくプロフェッショナルへの脱皮をそのまま記録したともいえる『リアルタイム・シンガーソングライター』は、血の出るような生々しさの中に、高橋の熱い資質を見事に浮き上がらせている。


EMTG:ファーストフルアルバムを仕上げてみて、どうですか?
高橋:レコーディングしたのはここ1年ですけど、曲によってはかなり前に作ったものもあって。いちばん古いのは「メロディ」で、10年前に路上で歌い始めた頃にできた曲です。「靴紐」も元の形は4年前に北海道でできたんですが、完成したのは去年。あとの曲はこの2年間で作ったものですね。
EMTG:アルバムを出そうって意識したのは?
高橋:アルバムを作るっていう思いよりは、「この曲で初めて高橋優を知る人がいる」と思って、どの曲も丹精込めて作りました。だから今回は、この2年間のベストになっていると思います。
EMTG:聴かせてもらって、このアルバムの焦点はオープニングの「終焉のディープキス」と、最後の曲「少年であれ」にあると思った。まず「終焉のディープキス」の話から聞きたいな。
高橋:これは去年の12月に作って、今年に入ってレコーディングしたんですけど、モチーフは“映画館”です。いろんな映画がありますが、ヒットしているのは、世界の終わりを描いているのが多い。人間って、よほど終わりが好きなのかな。その反面、危険がすぐそこまで来ているのに、映画に登場する男女がチューしてたり(笑)。だとすると、観ている人は“世界の終わり”と、“愛し合っている姿”と、どっちを観に来てるのか僕は聞きたかったんです。
EMTG:確かにヒット映画はそういう設定が多いよね。それで♪無理のあるハッピーエンドが 寂しさを募らせた♪って歌ってるんだね。
高橋:ただ、どっちがいいとか悪いとか、押し付けたくはないんですね。そこは、この歌を聴いてる人に委ねたい。もし何も考えないで映画を観ている人がいたら、この歌を聴いて「へー、こんなことを考えながらこの映画を観てる人もいるんだ」って思ってもらうだけでもいい。その後はご想像にまかせます、みたいに、映画の最後でエンドロールが流れてる間に自分でその先のストーリーを考える余白が生まれればいいと思って作りました。
EMTG:♪明日世界が終わるなら今夜何食べる?♪っていう歌詞は痛烈だね。
高橋:それでも、押し付けたくはないんですよ。これまで僕は聴き手に「こう聴いてほしい」と思って歌を作ってきたんですけど、「ほんとのきもち」っていう歌を作ったあたりから、ちょっとずつでもいいから、もっと余白のある歌を歌いたいなと思うようになった。この1年でそういう感じになってきましたね。
EMTG:リスナーにもっと想像してもらったり、歌を聴いてどんな結論を出すかを委ねるっていうことだね。
高橋:そうです。っていうか、「終焉のディープキス」を作ったとき、一方では自分も愛を確かめたいのか、愛が引き裂かれるのを見たいのか、自問しました。
EMTG:あはは、自分にも返ってくる歌なんだ。
高橋:そう。僕はすごく映画が好きなんですけど、『タイタニック』も『SAW』も好き。つまり、愛の物語も好きなんだけど、切り裂いたり、ぶっ壊したりする映画も両方好きなんです。
EMTG:「メロディ」っていう曲で♪色とりどりの気持ちたちを 傷だらけのギターにのせて♪って歌ってるのは、そういうこと?
高橋:これは知識も技術も経験もゼロの10年前ゆえのフレーズなんですけど、変なものが混ざってない。これを今、歌いたかったんです。今、聴いてほしかったんです。
EMTG:今はもう、これと同じフレーズは書けないけど、同じ気持ちが残ってるんだね。一方で、変化のキッカケになった「ほんとのきもち」は今、自分の中でどんな位置にある歌なの?
高橋:この曲で、♪君が好き♪って歌えたことが大きかった。前は、あんまり人が好きじゃなかったんで。
EMTG:えっ、どういうこと?
高橋:路上をやってて、立ち止まって聴いてくれる人は好きだけど、本当にいろんな人がいて。ある日、歌ってたら、警察とヤンキーの両方が止めにきた。僕の声が大きかったから、ヤンキーは「うるさい」っていうし、警察は規則違反だって。僕は正義からも悪からも求められてないって思って。そういう中で歌うには、ちゃんと自分を持ってないと流される。だから、誰でも好きってわけじゃなかったんですよ。疑ってかからないと、邪魔されたりする。もっというと、その人に興味を持ったら、それが好きってことだと思った。それを歌えるようになって、大きく変わりました。
EMTG:同じように、人が自分のことをすべて分かってくれるわけはないし。そこで“余白”が生まれたんだ。
高橋:そうかもしれないです。
EMTG:そして最後の「少年であれ」は?
高橋:メロディは札幌の頃からあって、半分は自分に向かって歌ってる歌ですね。
EMTG:半分?
高橋:完全に自分に向かってる歌だったら、もっと別のことを歌ってますよ。♪抱えきれない痛みは 抱えなくて別にいい♪っていうフレーズですけど、自分だけだったら抱えこんじゃいますから(笑)。
EMTG:そうかそうか(笑)。だったら♪誰よりも自由に 愛する少年であれ♪って歌ってるけど、なぜ“自由を愛する”じゃないの?
高橋:“自由を”だったら、自分のことだけですよね。“自由に”だと、母さんとか父さんとか恋人とか、対象があるでしょ。なるべく具体的な他者が浮かぶようにしたかったんです。
EMTG:何を歌うのか、誰に歌うのか、はっきりしていていいね。
高橋:ありがとうございます。でも、その分、作るのは大変でした。路上やってるときは、自分でCD焼いて、手売りしてたから大変でしたけど、そのときよりも今回、すべてにおいて100倍頑張った。手作業は減ったけど、表現に集中して頑張りました。
EMTG:うん。
高橋:今、歌いたいものを最優先させたアルバムになったと思います。

【 取材・文:平山雄一 】

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ビデオコメント

リリース情報

リアルタイム・シンガーソングライター

リアルタイム・シンガーソングライター

2011年04月20日

ワーナーミュージック・ジャパン

1. 終焉のディープキス
2. 素晴らしき日常
3. 福笑い
4. メロディ
5. 希望の歌
6. 靴紐
7. サンドイッチ
8. ほんとのきもち
9. 虹と記念日
10. 現実という名の怪物と戦う者たち
11. 少年であれ

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INFORMATION

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高橋優
funny=変なもの


Youtubeで“funny=変なもの”って検索すると、面白い動画がたくさん出てくる。中で、僕の曲「福笑 い」にかけて、笑いが連鎖していくヤツが面白かった。赤ちゃんを見て笑う人の映像を別の人に見せると、その人も笑う。その映像をさらに次 の人に見せると、またその人も笑う。それが延々、続いてく。
人種も年齢も性別も関係なく、笑いが伝染していく映像が楽しかったです。

■ライブ情報

♪高橋優初の全国ライブツアー
~唄う門にも福来たる2011

◆5月28日(土)
名古屋CLUB QUATTRO
[問]サンデーフォークプロモーション
052-320-9100

◆5月29日(日)
心斎橋CLUB QUATTRO
[問]夢番地 大阪
06-6341-3525

◆6月10日(金)
渋谷CLUB QUATTRO
[問]ディスクガレージ
03-5436-9600

◆6月18日(土)
仙台CLUB JUNK BOX
[問]キョードー東北
022-217-7788

◆6月19日(日)
秋田LIVESPOT2000
[問]キョードー東北
022-217-7788

◆6月25日(土)
広島Cave-Be
[問]夢番地 広島
082-249-3571

◆6月26日(日)
福岡BEAT STATION
[問]BEA
092-712-4221

◆7月2日(土)
札幌cube garden
[問]マウントアライブ
011-211-5600

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