その時その時の自身の精神状態が、より反映された安藤裕子のニューアルバム
安藤裕子 | 2012.03.26
極度の体調不良から震災、出産という激動の時期を経て作られた安藤裕子の最新アルバム『勘違い』は、どことなく「終わり」と「生命力」を感じさせる作品だ。終焉を歌うような曲もあれば、未来を見つめた曲もある。かつてない攻撃的な曲もあれば、どこまでも穏やかな曲もある。ひとたびアルバムを通して聴けば、「自分の終わりを思ってた」と言うどん底の状態から、終盤で聴かせる生命力に満ちた曲が生まれるまでの間に、安藤裕子が、このアルバム制作期間中に超越した、さまざまなことをうっすらと感じさせてくれるのだ。
自分でも「いろんなことがありすぎて、まだ完全に理解し切れていない(笑)」という本作について、身の周りで起きた出来事とともに振り返ってもらった。
- EMTG:今作をリリースされるまでの間に、震災があったり、出産されたり、いろいろあったと思うんですが、アルバム制作に対して、何かその辺りの影響はありましたか?
- 安藤:どっぷり時代の変化の中に浸かった作品になったかな。「エルロイ」や「永すぎた日向で」を作り始めたのが2010年の夏くらいだったんですけど、その頃は体調がボロボロで、精神的にもすごい落ちていて…。
- EMTG:それは過労的な?
- 安藤:そういう感じではないんですが、ちょっとずつ溜まっていたのかな…。年が明けても体が動かない状態が続いて、そうしているうちに地震があって、今度は妊娠が分かって。体を壊して婦人科系の具合も悪かった時もあったので、その時は、”よかった、お母さんになれる!!”と思って、すごくうれしかったんですよ。でも、それと同じ頃に、私を育ててくれた祖母の具合が悪くなっちゃって。地震が怖かったみたいで、癌が余震のたびに広がって、そのまま亡くなってしまったんです。そのショックもあったけど、それに加え、毎日のように家族を失った人や潰れた街が映るなかで、純粋に子どもを喜ぶこともできなくて。(去年5?6月に予定していた)ツアーもどうにかやり遂げたいと思ったけど、そういう状態で体調が悪くなってしまって、途中でやめなければならなかったり。でも、精神的にはキツかったんですけど、音楽を作る作業自体は楽しかったんですよね。もともとみんなで何かをやることが好きなので、その作業が励ましてくれた部分はあったかな。だから実は、まだ自分でもよく掴み切れてないんですよね、このアルバムが(笑)。
- EMTG:僕は後半のやさしい曲が続くところが好きで、特に「永すぎた日向で」は<人間とは?><命とは?>みたいなことを感じさせる曲で、すごく感動したんです。
- 安藤:(精神的に心も)体も動かない時期だったから、自分の終わりを思ってたところがあって。当たり前なんですけど、日向って夜が来ると消えちゃうじゃないですか。ぬくもりも含めて。人もいずれ死んじゃいますよね。みんな産まれてがんばって生きてるんだけど、いずれはしぼんで、また産まれるっていうのを繰り返してて。そういうサイクルを妙におだやかな気持ちで、その時期は思っていたのかなって。
- EMTG:何かを超越したような空気があって、歌詞も、歌も、本当にグッときました。
- 安藤:あ、よかったです(笑)。最初はこの曲がアルバムの表題曲かなと思ってたんです。だけど、これを一般に対して顔として出してしまうと、終わりを宣言するみたいな感じになっちゃうというか。重いものを背負い過ぎちゃうところがあるかなと思ったんですよね。それで、最後の2曲(「お誕生日の夜に」と「鬼」)は出産後にレコーディングしたんですけど、子どもを産み終えた自分っていうのは、もうちょっと明るく開けてたんですね。そこで、「永すぎた日向で」を表題曲にするべきではないなと思って。
- EMTG:その結果、「勘違い」が表題曲に。
- 安藤:私、アルバムのなかで「勘違い」が一番好きなんです。音楽を作る作業もすごく楽しかったし、言葉の響きも好きだし、だからこの曲をアルバムのタイトルにしようと。
- EMTG:「勘違い」って意味深なタイトルですよね。
- 安藤:そうなのかな。なんか私、落ち込んだりすると、ある程度泣いてから、”なんか浸っちゃって、勘違いしてんじゃねーよ”とか、”恥ずかしい、私ったら”みたいな、自分で自分にいじわるなことを言って叱咤激励するタイプなんですよね。この「勘違い」っていうのは、そのセンチメンタルなところとか、ちょっと黒いような気持ちとかを笑われて、”あ、勘違いだったんだ”と思って、ケロッと立ち上がった瞬間だったりもするんです。
- EMTG:「何度何度 求めて諦めたらいい?」とか、無力感みたいなものを歌ってたのかなと思ったんですけど、そのわりには曲も幻想的で、不思議な曲だなと気になってたんです。
- 安藤:そう。それをきれいに表現できているのが、聴いてて気持ちいいし、歌ってても気持ちいいんですよね。
- EMTG:あと、「エルロイ」はビックリしました。今までのイメージを覆すような攻撃的な曲というか、言葉使いも激しいですし。
- 安藤:今まではわりといい人っぽい感じの作品が多かったんですけど、人間はいろんな面があって、そんな一片のなかでは生きてないじゃないですか。音楽は突出した一部分を語ってるに過ぎないから、「私」じゃないんですよね。今まで白を基調としたジャケットが多かったのも、イメージをつけてほしくないという意味もあったし。
- EMTG:「エルロイ」で見せる面は、自分そのものというよりは、尖った部分の一面?
- 安藤:そうですね。たまにイラッとしたときに出てきそうな感じというか。普段の私はヘラヘラしてて、けっこう能天気なんですけどね(笑)。
- EMTG:いろんな突出した部分が出た作品ではあると思うんですけど、今回はその時期にしか録れない歌というのが、いつも以上に強い作品のような気がするんです。
- 安藤:それは本当にそうだと思います。ボイトレの先生にも言われたんですよね。「いつもはこういう声色で歌いたいっていうのがありすぎて、聴くに重いところがあるけど、今回はどっか一歩引いてるというか、アクの強い曲でも歌がサラッとしてるから聴きやすい」って。
- EMTG:実際お子さんができて、音楽に対する向き合い方は変わりました?
- 安藤:変わりましたよ。前は24時間自分と対峙することにストイックすぎたというか。そこが自分を追いつめていたと思うんですけど、赤ちゃんが自分の時間を、ある程度奪い去ってくれたことによって、自分に対峙する時間が今は以前の1?2割に減ったんですね。曲が出てくるペースは落ちたけど、逆にちょっと人間らしくなったかなって。以前よりも気も楽になったかもしれない。
- EMTG:トータルとしては、今作はどういうアルバムになったと思います?
- 安藤:まだわからないんですよね。いつもはもうちょっと冷静な距離でアルバムを捉えているんですけど、今回はほんとにいろんなことがありすぎて。だから、取材の度に、「この曲はこういう意味に捉えた」とか、逆に感想を聞いて、だんだん固めていっているんです(笑)。
- EMTG:でも、話を聞いていると、ダウンして地下に潜っていたところから、やっと這い上がって来た過程を描いた作品なのかなと。
- 安藤:そういう感じはしますよね。私も最初そこまで考えてなかったんですけど、別の取材のときに、「最後の2曲だけ、歌詞に“未来”って言葉が入ってますね」って言われたんです。自分でも気付いてなかったんですけど、それは出産後に録った2曲で。それが終わりの2曲だから、これから新しい何かが始まるんですねって。それを聞いて”そうに違いない!”と(笑)。あとはやっぱり、ライブで歌うと、もっとはっきりしてくるんでしょうね。
- EMTG:そのライブに向けての意気込みをお聞かせ下さい。
- 安藤:意気込みはとってもあるんだけど、怖いですよね、すごく。今回は東京と大阪の2本しかないので、このアルバムをライブで体感するチャンスは2回しかないんです。だから、アルバムという意味では、いままでやってきた作品と同じにもかかわらず、すごく集約しなければいけなくて。いろんなこともあった後だから、お客さんに言葉で伝えなければいけないこともたくさんあるし。すごく濃いものになるとは思うんです。プレッシャーはかなりありますね。
- EMTG:普通にこのアルバムの曲の流れでライブするだけで、いいストーリーになるんじゃないかなと思うんですよね。僕は後半のやさしい曲が連発するところで泣ける自信ありますから(笑)。
- 安藤:ありがとうございます(笑)。よく、「ライブみたいなアルバムになりましたね」って言われたりするんですけど、確かにそんな感じがしますね。なので、作品を聴いて、ぜひライヴにも遊びに来てください。
【取材・文:タナカヒロシ】
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昨日すごい探してたのが、粉ミルクの安いところで(笑)。ドラッグストアで買ったほうが安いけど、重いし、ネットだとどんな価格なんだろうと。ちょっと割安ではあったけど、その分、送料もかかるんですよね、ネットだと。結果、ドラッグストアより高くなっちゃって。なので、そこでは注文せず。今日の仕事終わりにでもドラッグストアで買って帰ります。あと、最近は夏に向けて、子供のサイズアップした服を探してます。すいません、子どもの話ばっかりで(笑)。
■ライブ情報
LIVE2012 「勘違い」
2012/04/30(月/祝)東京国際フォーラム ホールA
2012/05/05(土)オリックス劇場
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。