The Mirrazが放つ“らしさ”全開のサマーアルバム『夏を好きになるための6の法則』。
The Mirraz | 2013.06.07
『夏を好きになるための6の法則』という軽やかな印象がするタイトルを見て、びっくりした人も多いのではないだろうか? しかし、収録されている6曲を聴けば、実にThe Mirrazらしい作品であることを実感するだろう。夏をコンセプトとしたミニアルバム的な装いを纏ってはいるが、言いたいことが全開で表現されているのが本作。言葉を過剰に溢れ返らせる独自のスタイルを発揮しながら「怒り」「音楽に対する想い」「詩情に満ちた物語」「ウィットに富んだ描写」などを次々映し出していく。畠山承平(Vo & G)に制作の背景などについて語ってもらった。
- EMTG:このミニアルバムの制作は、どういう経緯でスタートしたんですか。
- 畠山:「次はどのような方向性の楽曲を作るか?」っていう話を去年末くらいにしたんですけど、その時にディレクターから出たのは「僕はスーパーマン」がさらに進化したような曲を作ったら、ファンが嬉しいんじゃないか?」っていう提案だったんです。僕も初期のミイラズみたいな感じの曲をこのタイミングでリリースしたら面白いと思っていたので、「僕もそういう風に考えていました」と。それでデモを5、6曲作ったんですけど、ディレクターの反応は「なんか違うんだよな」っていうもので。僕は何が違うのかよく分からなくて、ちょっと苛立ったんですけど(笑)。でもまあ、それはお互いにちゃんと仕事をする上での意見の交わし合いだし、乗り越えた上でいい曲ができるわけだからいいんですよ。でも、そんな頃にベストアルバムがリリースされるという話を聞きまして。僕らが出したい作品としてのものではなくて、大人の事情で出す事になってました。その中には未発表曲を3曲入れるっていう話にもなっていて。その3曲って、今回収録されている「名曲」と「NEW WORLD」と「エンドレスサマー」の仮歌や、音源として出来上っていないものだったんです。こちらの意図する形ではなかったので、話し合いの末、それらの楽曲は収録されないことになったんですが、ファンのみんなには、その未発表曲のことが伝わってしまった。となると、その3曲をリリースしないと、ファンのみんなに失礼になるなと……。この出来事に関しては、すごく違和感を覚えました。「原盤権を持っていたら勝手にリリースされかねない、その仕組みって何なんだ?」っていう。そういう怒りを感じた時に、勢いでできたのが「真夏の屯田兵 ?yeah! yeah! yeah!?」です。
- EMTG:今おっしゃった出来事が、まさに反映されていますね。
- 畠山:そうなんですよ。勢いだけでできた曲です。曲のタイトルもすぐに思いついて、そこから歌詞を書いていきました。この曲と未発表の3曲を並べてみたんですけど、「なんとなく夏っぽいな」って感じて。だったら、このまま夏をイメージしたミニアルバムを作ってみようかなと。それで、さらに新曲の「Fireworks」と「CLove GAME」を書いたんです。「夏」っていうものが象徴しているポジティブさ、ワクワクする気持ちが全体にあると思います。だから言いたいことを言っている曲もあるんだけど、ネガティブではなくて、明るい方向の印象にもなっているのかなと。
- EMTG:例えば「真夏の屯田兵 ?yeah! yeah! yeah!?」も、これだけ言いたいことを言っていますけど、すごくクリエイティブなものを感じます。
- 畠山:怒りって、それをそのまま表現してしまうのは何かが違う。でも、僕にとっては大事な感情だから、表現しないのも違う。そういう怒りをプラスの力に変えるのが一番いいと思うんです。
- EMTG:怒りをウィットでポジティブなものに転じていますよね。
- 畠山:なんで「屯田兵」っていう言葉が出てきたかというと、僕の親父が北海道出身で小さい頃に、よく「屯田兵」って言葉を聞いていて。そこからの思い付きだったから深い意味はなかったんですけど、この前に北海道でライブをやった時に、「屯田兵って不屈の精神がある人たち。そういう言葉を曲にしてくれて嬉しい」ってイベンターさんに言われて。それを聞いて、「俺はそういう不屈の精神っていうものを、どこかしらで表現したかったんだな」と気づきました。でも、ただ闘うだけのイメージにはしたくなくて、「真夏の」っていう言葉が出てきたのかなと。
- EMTG:「名曲」と「NEW WORLD」は、音楽に対する想いがダイレクトにこもっているのが印象的でした。
- 畠山:「名曲」を作ったのは、2010年の終わりか2011年頃かな? 「NEW WORLD」も2011年の頭の頃。当時、「音楽を作る」っていうことに対して、すごくストイックになっていて。「どういう音楽を作ったら上に行けるのか?」ってすごく考えていた。だからこういう歌詞が生まれたんだなって思いますね。
- EMTG:「NEW WORLD」の《なんでもかんでもニーズに答え過ぎ》って、すごくドキリとします。これってあらゆるクリエイターが肝に銘じておかなきゃいけないことですよ。
- 畠山:「最近のお笑い番組ってつまんないな」って思っていたんです。音楽もどんどん規制みたいなものが出てきていますし。ツイッターとかですぐに何か言われますからね。でも、それで臆病になって、つまんないものが増えてしまうのは、良くないなと思うんです。
- EMTG:この2曲が当時リリースされなかった理由って何かあったんですか?
- 畠山:こういう言葉はリスナーに届かないし、届けたくないとも、その頃は思ったんです。だから『観覧車に乗る君が夜景に照らされてるうちは』をリリースして。当時は言葉が持っている重みとかよりも、音楽としての楽しさみたいなものを伝えたいと思ったので。ミイラズって歌詞が大事なバンドだと言われていたので、そこだけが全てではないっていうことを示したかったんですよね。でも、今回入れてみて、今がリリースするタイミングだったんだなって素直に思えています。
- EMTG:新曲の「CLove GAME」に関しては、どんな背景がありますか?
- 畠山:僕、クラブって元々は行ったこと全然がなくて。誰かのライブを観に行った時に、「写真付きのIDを見せてください」って入り口で言われたんですけど、そんなものは持っていない。だから銀行のカードとか保険証とかをいろいろ見せて、ようやく入れて。そういう場所なんだなって思っていたんですけど、今度は自分が出演する時にも同じようなことになり(笑)。そいつはゴリラみたいなセキュリティで。あと、「クラブの照明って、女の子がかわいく見える」って話を昔聞いたのを思い出したり。そういう思い出から書いてみた感じですね。でも、一番書きたかったのは、「クラブの照明は怖い」っていうことですかね(笑)。
- EMTG:心当たりがある人は男女を問わず多いと思います(笑)。
- 畠山:そうでしょうね(笑)。本気になっている主人公を滑稽に描いてみたら面白いだろうなと思って作ってみました。バンドのメンバーも、この歌詞はめちゃくちゃ面白いって、ゲラゲラ笑っていました。「この主人公はアホだよね。結局、その女の子に会えてないし、1番の時点ではまだクラブにすら入れてないんだから」っていうようなことで盛り上がっていました。
- EMTG:何も始まっていないラブストーリーの歌(笑)。
- 畠山:そうそう(笑)。
- EMTG:「Fireworks」は、単音のギターフレーズが軸になっていたり、すごくダンスミュージック的な構造ですね。
- 畠山:7thコードを使った曲を作ってみたくて始まったんですけど、そんなに具体的に考えていたわけでもなく。なんとなくだったんですよね。でも、夏っぽさが見えてきて、「花火の歌にしようかな」と。僕の中ではこの曲の主人公も、今回の他の曲の主人公も同一人物なんです。「バンドマンをやってるんだけど、なんか上手くいかない人」みたいな。そいつがムカついたり、音楽に対して熱い気持ちを抱いたりすんだけど、クラブでナンパもしてみたり。でも、その一方で「Fireworks」みたいに純粋に恋愛をしていたこともあって……っていう。
- EMTG:「Fireworks」は、光と音の届く速度のズレが、2人の心のズレを表したり、すごく詩的な抒情性を感じました。
- 畠山:こういう歌詞って、ミイラズではあんま書いてなかったですね。前身バンドの時は、そういう詞が多かったんですけど。
- EMTG:そして、ラストが「エンドレスサマー」。こういう言葉を溢れ返らせることによる独特なノリって、やっぱりミイラズ節ですね。
- 畠山:「エンドレスサマー」をRecして、最終的に出来上がった音源を聴いた時に、「これが一番ミイラズ」だよねっていう話になりました。2番のサビなんて特に「これはミイラズだし、畠山っていうボーカルのスタイルなんだな」っていうものを感じました。
- EMTG:変なことを言うようですが……どの曲も歌詞の文字量がすごいですね。
- 畠山:長いですよね(笑)。今回はまた、長いものを意識しました。これからに関してもそうなんですけど、「歌詞を中心に持ってこれるようにしたい」っていう話をみんなとしていて。ブレないで「これがミイラズだよね」ってリスナーに思ってもらえるのって、やっぱり歌詞なのかなと。そういうものが中心にあれば、どんなサウンドをやってもミイラズになるんじゃないかと思うんです。
- EMTG:なるほど。あと、「エンドレスサマー」を聴いて、気づいたんですけど、夏はあんまりお好きじゃないみたいですね。
- 畠山:夏は暑くて気持ちいいなと思えることがあんまりなかったんです。最近は好きですね。フェスとかに出るようになって、だんだん楽しくなってきた感じもあります。
- EMTG:外向きな気持ちになってきているってことですか?
- 畠山:そうですね。2年くらい前に「エンドレスサマー」を書いた時は「こう思えたらいいな」っていうものだったんですけど、今見てみると「こう思いつつあるじゃん、俺」って思うんですよ。元々はインドア派なんですけど、ちょっとずつ「楽しみたいな」っていう気持ちになってきています。なんかライブ自体もそういうところが出てきています。最近、ライブも楽しめるようになってきていて。「人に見られている」っていう感覚を、前までは動物園の動物みたいなものとして捉えていたけど、最近はそういう感じでもなくなってきました。「一緒に楽しみたいよね」って思うようになっているので。自分がやるべきことを理解しつつあるというか。それと夏が嫌いでもなくなってきた感覚は、似ているかも。
- EMTG:8月26日に由比ヶ浜でのライブ、『夏を好きになるための7つ目の法則』もありますし。
- 畠山:今年そのライブハウスができるっていう話を聞いて。じゃあやってみようかなと。由比ヶ浜は兄貴と親父と母ちゃんが住んでいて。僕が生まれるから引っ越したんです。そういう縁のあるところでライブをやるのはいいなと思ったんです。
- EMTG:鮭が生まれた川に帰る感じのライブ?
- 畠山:そういうことですね(笑)。
【取材・文:田中 大】
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「夏を好きになるための7つ目の法則」
2013/08/26(月)SEACRET BOX BY OTODAMA
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