Base Ball Bear、RHYMESTERと花澤香菜をゲストに迎えたミニアルバム『THE CUT』をリリース!

Base Ball Bear | 2013.06.25

 刺激的なコラボレーションが実現した「The Cut -feat. RHYMESTER-」と「恋する感覚 -feat. 花澤香菜-」、ミニマルな構築美を聴かせるダンスチューン「ストレンジダンサー」、さらには今年の春に行われたツアーのライブ音源もたっぷり収録した3rdミニアルバム『THE CUT』。Base Ball Bearがスリリングな一歩を踏み出しつつあることを示していると同時に、彼らの音楽性の核にある独特な視点も鮮やかに浮かび上がる1枚だ。本作について小出祐介(G & Vo)が語る。

EMTG:まず「The Cut -feat. RHYMESTER-」のお話から行きますが、制作の過程はどんな感じでした?
小出:RHYMESTERさんには、出発点の段階から入って頂きました。「どういうサウンドにしましょうか?」とかいうよりも、テーマとか内容について話し合ったことが大きいです。その中で出てきたのが、所謂「腹立ってる」みたいなこと。あの、昔からインタビューしてもらってるからよくご存知かと思いますけど、僕ってほんとはめっちゃ腹立ってる人じゃないですか(笑)。
EMTG:はい(笑)。
小出:「なんなんだ、あれ!」って常に言ってるタイプ(笑)。でも、それって意外に音楽にしにくい。露骨に「怒ってる!」みたいなことが乗るとダサいし。だからサウンドの部分と言葉は、実はバランスをとってやってきたんですよね。でも、今回RHYMESTERさんとやるんだったら、皮肉ってるようなシニカルな部分をもっと堂々と出せるなと思ったんです。Mummy-Dさんのリリカルな部分、宇多丸さんのシニカルな部分、その間を僕は狙っていけるなと。そういう3人のグラデーションのレイヤーが出来たらいいなとイメージしてました。
EMTG:おっしゃる通り、シニカルな想いが表明されている曲ですよね。ネット社会に対する違和感のようなものをイメージしたんですけど。
小出:例えば2ちゃんねるに腹が立つとかいうことは、僕は元々なかったんです。「あれはああいう文化だし」っていうか(笑)。セットリストの情報を交換したり、「あいつ、最近太ってきたんじゃないか?」みたいな話は、昔からファン同士とかであったこと。それが匿名化した「ネット」っていう現場になっただけなんですよね。でも、SNSは話が違う。2ちゃんとかが嫌だと思ってる一般の人は結構いるけど、あれはリテラシー力のある人が遊べる場。それに対してSNSってもっとライトな存在。「誰に言ってるわけでもない」っていう体で表現して、反応し合って……っていう。人間が本来持ってる自己顕示欲を上手く衝いたのがSNSなのかなと。だけど表現って責任がつきまとうもののはずなんですよ。僕らは作品を、責任を背負って発表してるし、ブログやツイッターとかもそう。でも、一般の人のSNSってそれがない。「責任がない繋がり合い」、言い合いっこ、言い合ってる人の周辺っていうのが気持ち悪いと思ってて(笑)。
EMTG:なるほど(笑)。
小出:僕もツイッターをやってるし、今の情報の速度がこうなってるから、そういうものがあることに関しては何も思わないんだけど。でも、アカウントをフォローしてたら、どんどん140字以内にまとめられた情報が入って来る。それを見ただけで反応出来て、見た気になるのもどうなのかなと。本当はそのリンクの先に大事なことがあるし、そのさらに奥側を感じなきゃいけないはずなのに。SNSとかツイッターって当たり前のものになってるからこそ、付き合い方は考えなきゃいけないですよね。同じもののファンとかが繋がり合ったり情報を共有するのは全然悪くない。その繋がり自体はすごくいいことなのに、感性がナメされてく、同じ感覚になろうとしてる雰囲気も感じますし……っていうのに僕は全体的に腹が立ってて(笑)。
EMTG:曲から伝わってきます(笑)。
小出:はい(笑)。まあ、腹が立ってるんですけど、それをそのまま言ってもしょうがない。今の速度がこうなってるのは構わない。でも、情報の速度が速くなったこの20年くらいで、僕たちはそんな進化してないんですから。本質的には変わってないのに、表面的な速度だけが速くなって、知った気になってる構図は良くない。そういうことを訴えられる曲にしたかった。それを「物の見方、切り取り方、角度、視点」に置き替えて、それをさらにワンワードにしたのが「The Cut」っていうタイトルなんですよね。RHYMESTERさんが「The Choice Is Yours」で歌ってることにも通じることです。実は僕のアンサーソングでもある。この前、取材で対談した時にご本人たちに初めて言ったんですけど(笑)。
EMTG:(笑)サウンドもいいですね。さり気ないのに劇的なドラマが凝縮されています。
小出:所謂ループじゃなくて、「行って帰って来ない」っていう構成なんですよ。サビだけあって、他のヴァースの部分は同じパートが出てこない。歌とラップのバランスもすごく考えてます。あと、「ミクスチャーにし過ぎない」っていうのも考えました。
EMTG:例えばRUN-D.M.C.の「Walk This Way」とかと根本的に違いますよね。
小出:そう。僕がやりたかったのはあくまで「ギターロックにラップが乗っかってきたらどうなるんだろう?」っていう実験と検証。「ここまでやってもまだギターロックでしょ、ほら?」っていうのを、僕らはどんどん拡張していきたい。その流れでのコラボレーションでもあるんですよね。
EMTG:それってベボベを語る上で重要なポイントですね。例えば「ストレンジダンサー」もダンスミュージック的な構造だけど、紛れもなくギターロックですし。
小出:この曲ってBPMを落とすとそれっぽいもの、ミニマルな、アンビエントな香りのするダンスナンバーになってるんですよ。僕はそうやって「何処までギターロックを拡張出来るのか?」っていうのをやっているんです。ギターロックに飽きてる自分もいるので(笑)。極端な言い方をするなら「ギターロックにとっくに飽きてるであろう僕が、どれだけギターロックに興味を持ってやれるか?」っていうのが1個テーマでもあり、ジレンマでもあるんですよね。そういうことは、他のメンバーも常に言ってます。
EMTG:「恋する感覚 -feat. 花澤香菜-」も声優さんが合流したことによって、ギターロックが拡張していますね。
小出:僕には「作家チャンネル」があるんですよ。他には「バンドマンチャンネル」と「私小説チャンネル」があるんですけど。それらを曲ごとにバランスをとりながらやってるイメージ。例えば「The Cut」はそれぞれの目盛りが「5」「5」「5」のバランス。「ストレンジダンサー」は「バンドマンチャンネル=8」「私小説チャンネル=2か3」「作家チャンネル=2くらい」。でも「恋する感覚」は、「作家性=10」に対して、「私小説性=1」「バンドマン=5」くらいのバランス(笑)。
EMTG:分かりやすい(笑)。声優さんとコラボをした背景は何かあったんですか?
小出:「もう1組、どなたとやりたいかな?」って考えた時に、「声優はどうだろう?」と。アイドルっていうアイディアだと当たり前過ぎる。もっと斜め上を行きたかったんですよね。「もしもギターロックに花澤香菜が来たら?」っていう曲です(笑)。
EMTG:(笑)「女の子の恋する感覚ってこうなのかな?」っていうものが詰まっているのも、キュンとするところです。
小出:僕じゃなくて関根が歌うって最初から決めてたんで、チャットモンチーのあっこ(福岡晃子)に「女の子が恋に落ちる時って、どんな感じなの?」って訊いたんですよ。
EMTG:どんな答えでした?
小出:「その人以外のすべての男が、小石に見える」と。
EMTG:つまり僕らが小石に見えてるってことですね(笑)。
小出:「例が極端過ぎてよく分からない。俺、小石に見えてる?」って言いましたけど(笑)。でも、男とは違う文脈、遺伝子レベルでの違いから生まれる動機みたいなものは感じて。そんな取材もしつつ書きました。自分が歌う前提では書けない歌詞ですね。
EMTG:あと、別作品ですけど、『惡の花譜』(アニメ『惡の華』のコンセプトE.P.)に入る「光蘚」も、すごく良かったです。
小出:これは「バンドマンチャンネルと私小説チャンネル=10」「作家性=ゼロ」ですね。
EMTG:小説の『ひかりごけ』(武田泰淳の作品)がモチーフ?
小出:そうです。『惡の華』はボードレールの詩集が元ネタのタイトルだから、僕も文学からモチーフを持ってきたかったんです。『惡の華』は「アイデンティティをどうやって見つけるか?」っていう漫画なので、そこを絡めたくて。それで『ひかりごけ』がいいなと思ったんです。あの小説のテーマとも通じるものがありますし。「苔なのに光ってる」っていうイメージもいいなと思いました。
EMTG:「憧れ」っていう感情の中にある憎しみ、暴力性も滲む曲ですよね。すごく綺麗なんですけど、ドキリとします。
小出:「純粋な目標の裏に、果たして嫉妬って本当にないのか?」っていうことですよね。例えば「この人さえいなければ!」っていう。だからこれは「言わなくていいこと」の曲なんです。このタイミングでこれが書けたのも良かったと思います。「光蘚」は今回のミニアルバムと同じタイミングで録ったんですよ。コンセプトCDに入るから「作家チャンネル」から作り始めたんですけど、テーマが見つかったことで作家性が絞られるチャンネルワープが起きた(笑)。気づいたら「私小説チャンネル=10」になった感じです。
EMTG:今回、すごく刺激的な一歩を踏み出せた手応えがあるんじゃないですか?
小出:そうですね。また新しいアルバムに向けて動いて行きたいんですけど、『新呼吸』っていうアルバムが、僕の中ではすごいハードルなんです。それを作品として越える/越えないっていうことじゃなくて、人間としての成長が見えるアルバムにしたい。そういう点でも、今回のミニアルバムを作れて良かったです。「光蘚」に関しても、次のアルバムでの1つの指針になる曲になったと思ってますので。

【取材・文:田中 大】

tag一覧 アルバム Base Ball Bear

関連記事

ビデオコメント

リリース情報

THE CUT (初回生産限定盤)

THE CUT (初回生産限定盤)

2013年06月26日

EMI Records Japan

1. The Cut -feat.RHYMESTER-
2. ストレンジダンサー
3. 恋する感覚 -feat.花澤香菜-
4. 64-Minute Live Track From “バンドBのゆくえツアー” (2013/4/25 赤坂BLITZ & 4/28 札幌CUBE GARDEN)

このアルバムを購入

お知らせ

■ライブ情報

Talking Rock! FES.2013
2013/07/19(金)なんばHatch

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013
2013/08/03(土)茨城県・国営ひたち海浜公園

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO
2013/08/16(金)北海道・石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ

RADIO BERRYベリテンライブ2013Special
2013年/09/08(日)栃木県・井頭公園 運動広場

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る