石崎ひゅーいが“亡き、母へ捧ぐ”、2ndミニ・アルバム
石崎ひゅーい | 2014.04.02
- EMTG:今回の出発点は何だったんですか?
- 石崎:デビューしてから、釣り堀で釣りするように「できたらいいな」みたいな感じで曲を作っていて。それが前作の「メーデーメーデー」書いたあたりから、なんだか、釣れなくなって、酒ばっか飲んだりしてたら、スタッフが飲み会を開いてくれたんですよ。その時に「お母さんに捧げるアルバムを作ってみれば?」ってヒントをもらった。僕の歌の根本には、死んだ母親のことがあって。でも、全曲を母親に捧げるってやったことなかったし、「ひゅーい、こういう風に進化したのね」っていうものを見せるタイミングかもしれないのに、そうじゃなくて、そこでめっちゃ原点に戻るっていうのも「すごくいいな」って。逆にそれをやることで、次に行けたりするのかなとか思ったんですよね。
- EMTG:そこで最初にできた曲は?
- 石崎:弾き語りの「卵焼き」は1年前くらいからあって。これを絶対に最後の曲にしよう。他の曲はオチを作らずに、最後の曲の落としどころへバ――ッ!! と向かうようにしよう。そんなイメージがあって、まず1曲目の「僕だけの楽園」ができました。
- EMTG:“どこいこうか”で始まる曲。その行き先は平成よりも昭和と戻っていきますね。
- 石崎:基本、戻ってます。僕、新しいものに否定的な奴なんですよ。要するに、母親のお腹の中にいたほうが良かったって歌なんですけど。はははは。
- EMTG:でも、ただのノスタルジーじゃない。“戦場よりもお布団で死にたい”という叫びには切実な危機感も。
- 石崎:うん。戦争行きたくないなぁと思って。今は特にそれが怖いですよね。
- EMTG:私も怖いです。そういう当たり前のことを言うのも勇気がいる。この部分を載せていいのか迷ってます。
- 石崎:あっ、全然いいですよ。規制しなくていいです。叩かれることとか、それでイメージが固まることとか、アーティスト側も考えちゃう時代だと思うんですけど、僕はそれはどうでもいいかなって。歌って、自分が作るけど、その先は自分のものじゃない気がするんですよ。聴いた人の解釈で全然いいと思う。それにこの曲は普通のことを言ってるし、誰かを傷つけてもいない。だから何でも書いてください。
- EMTG:本当ですか! そういう意味でも救われた曲でした。その曲のタイトルに“僕だけ”と付けた。孤独だけど、そこには譲れないという意志も伝わります。
- 石崎:そうなんですよ。「僕たちの楽園」ではなく「僕だけの楽園」。アルバム・タイトルを『だからカーネーションは好きじゃない』にしたのは、小学生の時に初めてカーネーションを買って母親にあげたら、「こんなダサイ花、いらない」って言われたから。
- EMTG:ええぇぇ??!?
- 石崎:超ショックだったけど、要するにそれは「的外れでも、他人から全否定されてもいいから、自分だけの考えをちゃんと持って生きていきなさい」という意味だったんです。ずっとそう教えられてきたけど、「いいこと言うな!」って今になってすごくわかった。
- EMTG:ジャケット写真の花はカーネーションじゃないですね。
- 石崎:白いチューリップです。「カーネーションなんかいらないから、白いチューリップを買ってこい」と。限定でしたね(笑)。好き嫌いが激しい人だったけど、僕は好きだった。料理もうまいし、芸術的にも人間的にも一番影響を受けた人。裏庭に隕石が落ちてきたり、僕の友達がみんな会いに来たり、ノラ猫やノラ犬が寄ってきたり、引力のある人でした。
- EMTG:すごい…。「母子手帳」はお母さんとの日々が映像的に綴られて。
- 石崎:そうすね。「僕だけの楽園」を書いたらすごい思い出してきて。「ひゅーい。あんた、風のように吹きなさ~い」って言ってたこととか。谷川俊太郎みたい(笑)。
- EMTG:あははは。これ、時間が逆行して、最後は産まれる瞬間を描いているように聴こえました。
- 石崎:そうです、そうです。そこへ退化していく歌です。こんな歌詞見たことない! Bメロが“浦島太郎は悪くないよね? 亀が悪いよね?”って…俺、天才だって思いました!(一同爆笑)これ、1曲目からのつながりなんですけど、戻っていくこと、退化していくことは、僕にとっては進化していくことと一緒だったんです。退化することで、そこで何かを見つけたら、きっと新しいところへ行けるんだって。それが必要なことなんだって。年を取って赤ちゃんに戻っていくような感覚。この間、ローリング・ストーンズを観てきて。ミック・ジャガーは凄かったけど、キース・リチャーズなんて最後のキメとか諦めちゃうんですよ(笑)。でも、それがすごくいいんです。きっと、いろいろなものを得てきているから、みんなもあんなに沸くんだろうな。感動しました。
- EMTG:「シンデレラへの伝言」は真夜中の歌に。
- 石崎:夜が好きな人だったから。星とか宇宙が好きだった。3曲目、4曲目は母親ってワードは出てきてないけど、「こういう曲、好きだろ? プレゼントしてやるよ!」っていう曲なんです。たぶん3曲目が一番好きだと思うんだよな。
- EMTG:そうか…。そういう表現方法もあるんですね。
- 石崎:最初は全曲を母親に寄せようと思ったんです。でも何かおかしい。クドくなりすぎちゃう。それに「卵焼き」とか「僕だけの楽園」って人間として真っ当な感じだと思うんですよ。でも4曲目の「仮装行列」なんてめっちゃ歪んでる。そうやってさらけ出したほうが本当は人間らしい。そして、そういうものを含めた作品のほうが、母親にあげた時に本人も喜んでくれるんじゃないかなぁって。
- EMTG:「自分だけの考えを持って生きていきなさい」と教えてくれたお母さんが…。
- 石崎:そうです。すべてはそこに通じてくるわけです。
パレードの葬式。祭囃子の火葬場。亡き母親へ贈る「第三惑星交響曲」で石崎ひゅーいはデビューした。彼女への想いが、彼の歌の原点であり、それは幾つかの曲として産み落とされた。2014年4月2日。石崎ひゅーいは「亡き、母へ捧ぐ。」という言葉を添えたミニ・アルバム『だからカーネーションは好きじゃない』を発表。しかし、それは泣ける感動作という常識を鮮やかに覆し、もっと自由で、混沌として、ラジカルなものとなった。白いチューリップをあなたへ。お母さん。ひゅーいはとても元気です。
【取材・文:柳村睦子】
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石崎ひゅーい TOUR2014 仮装行列
2014/07/04(金)名古屋E.L.L
2014/07/06(日)梅田クラブクアトロ
2014/07/07(月)渋谷クラブクアトロ
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
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