安藤裕子、スキマスイッチ書き下ろしの新作で新たな魅力
安藤裕子 | 2015.07.22
- EMTG:安藤裕子とスキマスイッチの出会いからお伺いしたいと思います。
- 安藤:デビュー日が全く同じなんですけど、私は彼らのことをデビュー前から知ってたんですよ。当時、母のお店のお客さんにBMG(スキマスイッチが在籍していたレコード会社)の取締役の方が来ていて。私が音楽活動をしてることも知っていたんですけど、私のデビューが決まったときに「裕子ちゃん、悪いね。うち、スキマ出すからさ」って言って、すごく力の入ったPR盤をもらったんですよ。会社激押しだって聞いたので、「え、困ったな」って思ったのを覚えてて。そのあと、デビューして、初めてラジオ局にプロモーションに行ったときに、パーテーションの奥に、ふたりが座ってて。アフロが見えたから、「あ、スキマスイッチだ!」って。そのときも意識してましたね。
- EMTG:そこで、あいさつは交わしました?
- 安藤:してないです。だって、ライバルですからね(笑)。
- EMTG:あははは。急接近したのはいつですか?
- 安藤:12年後ですね。つまり、去年です。私、基本的に人と距離を縮めないので、仲良くなるのに12年くらいかかるんですよ(笑)。その前にも、私が慣れないテレビプロモーションをしてるときに、大橋くんとテレビ局でお会いして。ご挨拶しながらCDを交換したんですけど、大橋くんに『ファンなんで、サインしてください』って言われて。サインをした直後に、大橋くんが今度は別の女性アーティストのとこに行って、同じことをしてるのを見て。なんて軽薄な人なんだって思ったんですけど(笑)。
- EMTG:(笑)大橋くんは「誤解だ」って言ってるそうですよ。
- 安藤:そうみたいですね。昨日、お会いしたときに、『ただCDを交換してただけだ』って言ってたけど、私は長年そう思ってたっていうことで(笑)。そのあとも、(ベースの)沖山さんが私とスキマスイッチ、両方のライブのサポートをしてくれていたので、ライブの行き来もありました。ただ、それも、ライブが終わったあとに楽屋に来てくれて、ちょっとしゃべるっていうくらいで。いっぱい話したことはなかったんですけど、去年、音霊を一緒にやることになって。せっかくだから、最後にみんなで歌おうとか、お互いの曲を1曲ずつやろうっていう話になったんですね。
- EMTG:なんの曲をカバーしたんですか?
- 安藤:私は『全力少年』で、あちらは『眠りの家』(1stアルバム『Middle Tempo Magic』収録)という、わりとコアな曲を歌ってくれて。大橋くんが『眠りの家』に影響を受けて曲を書いてくれたことがあるみたいで、『眠りの家』に、その曲のフレーズ(「デザイナーズ・マンション」)を混ぜて歌ってくれたりしてましたね。そこまではスタッフづてにやりとりしてたんですけど、ライブが終わったあとの打ち上げで仲良くなって。
- EMTG:音霊での共演が昨年の8月5日で、そのあと、11月にはFM802のラジオ番組「Walkin’Talkin’- 徒然 ダイアローグ -」での対談が5週に渡って放送されました。
- 安藤:放送は全部で5時間だったんですけど、実際は10何時間しゃべってて。そこで音楽の真面目な話だけをしていたら、『ありがとうございました』って帰ってたと思うんですけど、大半が雑談で。ずっとくだらない話をしてたことで、逆に近寄れて仲良くなれた気がしますね。
- EMTG:スキマスイッチのふたりにはどんな印象をもってました?
- 安藤:大橋くんは前から私の曲が好きだって言ってくれてたし、お会いした時も積極的に話しかけてくれて、明るくていい人だなと思ってて。常田くんは、会ってあいさつしてもぼそぼそって感じであまりしゃべってくれないから、怖い人だと思ってたんですね。でも、実際に話してみると気遣いがあって優しい人だなってわかるし、どちらかと言えば友達が多いのは常田くんの方なんだっていうことも知って。『おれも安藤さんの曲が好きだったけど、卓弥が先に好き好き言ってるから、コンビのルールとして言っちゃいけないと思ってた』とも言ってましたね(笑)。
- EMTG:(笑)そんな暗黙のルールがあるんですね。楽曲提供の依頼はその流れで?
- 安藤:そうですね。ラジオの対談の最後に、また一緒に何かやれたらいいねっていう話で終わったんですよ。それに乗っかっちゃった感じですね。
- EMTG:改めて、他アーティストに楽曲提供をお願しようと思った経緯を聞いてもいいですか? 安藤裕子さんは、自分の言葉を自分のメロディで歌う、生粋のシンガーソングライターだと思うんですが。
- 安藤:音楽活動として、私は一旦、小休止を求めていた部分が強くて。ここ数年は、自分の音楽への疑問視みたいなものが常にくっついてたんですね。もちろん、作ると楽しいし、歌うと楽しいけど、終わった瞬間の空虚感がすごく強くて。ずっと自転車操業的に作業をしてきたし、1回、ちょっと足を止めて考えてみたいなって思ったんです。そこで、ディレクターから『人の曲を歌うのはどう?』っていう提案をもらって。ああ、いいなと思ったんですよ。私はそもそも、音楽好きだから音楽を始めたわけじゃないじゃないので、、。
- EMTG:オーディションで歌って、褒められたのがきっかけですよね。
- 安藤:そう、『え? 私の歌、いいんだ!?』っていう勢いで自分の歌を作り始めた。自分が作ったものを人に伝える……その手段として音楽を選んで、やってきて。でも、最初に人に認めてもらったのは、純粋にただ、歌声なんだよなと思って。でもね、私は何年やっても、自分の声が嫌いなんですよ。そういうネガティヴな気持ちが、瞬間的に楽しくて、すぐに消えちゃう空虚感にもつながってると思うんですよね。落ち着いたときに、いつも自分が、自分の声に冷たい評価を下してるからだと思うんですね。でも、最初に褒められたのは歌声で……歌うってどういうことなのかな? 自分の歌声ってなんなのかな? 歌手でいいのかな? 私ってなんなんだろうな? っていうことを考えてるなかで、人の曲を歌うのはいいなと思ったんですね。
- EMTG:歌詞も書かずに、唄い手に徹してみるということですよね。
- 安藤:うん、自分との対面にもうアップアップだったから、できれば詞は書きたくないって言ってましたね。自分の歌声を試すには、自分の潜在意識や思想に近くないものがいいと思ったんですよ。だから、スキマさんにお願いしたときも、私のパーソナルは意識しないで欲しいって言いました。提供されてるけど、カバー曲くらいの感じというか、とにかく『スキマスイッチの代表曲を作るつもりで作って欲しい』ってお願いして。あとは、リリースが夏だっていうことを伝えたくらいですね。
- EMTG:スキマスイッチが書いた曲を受け取ってみてどう感じました? とてもスキマスイッチらしい節回しですよね。メロディラインのなかにあるフックのつけ方も大橋くんぽいし。
- 安藤:そうなんですよ。デモテープの仮歌も大橋くんが歌ってくれたんですけど、それは、譜割りをそのまま歌って欲しいからっていう理由があったみたいで。楽曲提供しても、なかなか自分の思った通りに歌ってもらえないことが多いらしいんですね。例えば、“ふたり“っていう言葉の中に、メロディが何個もあって、何回も揺らしたりしてる。すごく特色のある方法論だし、大橋くんの節回しも聞いてしまっているから、そのままを吸収しつつ、離れることがすごく大変でしたね。
- EMTG:吸収しつつ離れるイメージ?
- 安藤:スキマスイッチらしいところは残して、安藤裕子の世界に変えたいなと思ったんですね。アレンジのもっさん(山本隆二)はスキマさんもやってるから、どっちも知ってる分だけ難航した部分もあるんですけど、スキマスイッチっぽさと安藤裕子っぽさをミックスした真ん中に行かないといけないなと思ってましたね。具体的にいうと、普通に歌うとモノマネになっちゃうし、パンチを入れすぎると男性っぽくなりやすいから、フェミニン感を出しつつ、ちゃんと走り抜けられるようないいバランスになったんじゃないかなと思いますね。
- EMTG:大橋くんはなにか言ってました?
- 安藤:『ちゃんと譜割りをそのまま歌ってくれてよかった』って言ってましたね。あと、大橋くんの疾走感のある、エンジン爆発系のヴォーカルを女の人らしいバランスに止めてるので、『器用だね』とも言われて。私も自分で、ずいぶん歌がうまくなったというか、器用になったなって思いますよ(笑)。それはいいことか悪いことかわからないけど。
- EMTG:歌詞に関してはなにか話しました?
- 安藤:常田くんは『スプラッシュ感』って言ってましたね。タイトルの『360°(ぜんほうい)サラウンド』っていうのは、夏だからこそのいちばん騒がしい音みたいな意味で、夏の爆発力みたいなことを言ってたと思いますね。
- EMTG:雨宿りや水しぶきなどのフレーズがあるんですけど、安藤さんの曲にある湿度感とはぜんぜん違うんですよね。
- 安藤:私はしとしと系ですよね。同じ雨でも、スキマスイッチは雨のあとの青空が見えるというか、晴れたあとの印象のほうが強くなる。私のなかでは、雨上がりに、すごい美女が坂道を自転車で降りてきて、浜辺でずざざざーって自転車から下りて、清涼飲料水を飲むっていうイメージですね。
- EMTG:自分以外の言葉、メロディを歌ってみて、どんな感想をもちました?
- 安藤:うーん……昨日も聞かれて、『よくわからないな。発売してからでいいですか?』って濁しちゃったんだけど、まだあんまり実感がなくて。既存のファンの人は『なんで人の曲を歌うのかな?』って思うのかもしれないし、逆にスキマスイッチのファンの方が気になってくれたり、『この声、誰だろう?』って興味をもってくれる人もいるかもしれない。いまはまず、そういう反応を1回、眺めてみたい。うまく言えないけど、まだ、未知の体験中なんですよ。ただの唄い手さんになるというのが自分のなかでよくわかってない。振り返ったときに、いいお勉強になってたらいいなと思いますね。
- EMTG:ちなみにカップリングでカバーしてる「うしろゆびさされ組」の出だしの子供の声は?
- 安藤:うちの娘ともっさん(山本隆二)の娘のデビューです(笑)。これを歌わせたもんだから、うちの娘のお散歩ソングになってますね。私だってリアルタイムじゃないんですけど(笑)、昔からカバーしたい曲だったので、実現できてよかったです。
スキマスイッチの書き下ろしによるニューシングル「360°(ぜんほうい)サラウンド」をリリースする安藤裕子。いまからちょうど12年前。2003年7月9日という、全く同じ日にデビューした2組は、昨夏に音霊SEA STUDIOで開催された「10周年記念ジョイントライブ」で急速に親交を深め、同年秋にはラジオの対談番組で5週5時間に渡ってお互いの音楽観を語り合い、スタジオでお互いの曲をセッションする時間を共有したことが、今回の楽曲提供につながったという。これまで自分の心の中内を歌ってきたシンガーソングライターである安藤裕子と、良質のポップス職人とも称されるスキマスイッチのコラボレーションが実現した経緯を改めて聞いた。
【取材・文:永堀アツオ】
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(配信)ハートが冷める前に
発売日: 2018年08月01日
価格: ¥ 250(本体)+税
レーベル: ユニバーサルミュージック
収録曲
01. ハートが冷める前に
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