かりゆし58から、永きに渡り歌い継がれていくべき名曲がまた一つ届けられた。タイトルは「かりゆしの風」。自身のバンド名にも用いられ、沖縄の言葉で、「縁起がいい/めでたい/航海の無事を祈る」との意味を持つ、この「かりゆし」。それを掲題に擁した同曲は、聴く者に沖縄の景色や風光明媚さ、またそこで暮らす人々の営みや不変さを悠久さをもって伝え、想いを馳せさせてくれる楽曲だ。
　大きなサイクルやダイナミズムを感じさせ、且つみんなで一緒に大合唱できるのが特徴でもある同曲。ボーカル＆ベースで、この曲の作詞/作曲を手掛けた前川真悟と、ギターの宮平直樹(今作M-3.「Fire Chicken」のMATEN-LOWの主要メンバーでもある)に話を訊いた。

EMTG :「かりゆしの風」は、来年デビュー10周年を迎えるに当たり、ここに来て改めて自分たちの出自やアイデンティティを振り返っているようにも響きました。

前川 : 10年目を迎えるにあたり云々というよりは、むしろ“不変的なもの”がテーマでした。“沖縄の景色の中で、流れているべき音楽は、いったいどんなものなんだろう…?”と。

EMTG : それには何かキッカケでも?

前川 : 今年の3月に行われた『沖縄国際映画祭』でのフィナーレにて、僭越ながらステージでのトリを飾らせてもらったんです。そこで、「かりゆしだけでなく沖縄のミュージシャンの方々と一緒に作り上げた、大きな輪としての『沖縄国際映画祭』のステージを務めて欲しい」とのリクエストがあって。そこに参加する主に歳の近いミュージシャンの方々と色々と話す中、その人たちがみな、自分たちの生まれた町や島(沖縄)が好きで、何か島に恩返しをしたいと思っていることを知ったんです。そこから、それこそ「島唄」(THE BOOM)や「花」(喜納昌吉)、「島人ぬ宝」(BEGIN)みたいな、みんなで歌える唄を作りたくなったんです。

EMTG :聴いているだけで沖縄の景色や光景が浮かんできます。

前川 : 最初はそれこそ楽器も使わずに、歌ったら気持ちいいであろうメロディや言葉を探しながら作りましたからね。実は今回は先にタイトルを決めて、曲を作り始めたんです。

EMTG : 「かりゆし」は元々、「お祝い」や「めでたい」って意味でしたっけ?

前川 : それもありますが、他にも航海の無事を祈る言葉でもあって。先人たちが、大きな海の向こうに待っているものに、勇気と決意を持って旅立っていく人々の背中を押してきた言葉でもあるんです。で、この言葉を、あえて押しつけがましくなく、島の風にキチンと乗るような唄として残せたらなと。なので、凄くピュアな気持ちで作りましたよ。この歌は”誰が歌ってもいいや”ぐらいの気持ちで作ってましたから。いや、その景色の中に身を委ねていたら自然と浮かんできたって方が正解かも。

EMTG : いわゆる曲が降りてきたと。

前川 : まさにそれです! 朝に、晩に、何をするわけでもなく海岸に身を置いている中で生まれた唄でした。きっと先人たちもそういった感じで、数々の民謡を生み出してきたんでしょうね。あの景色の中にいたら自然とこういったタイプの歌が生まれるはずだわ…と納得しました(笑)。

宮平 : この曲を初めて(前川)真悟が持ってきた時には、これまでの何かを題材やテーマにして歌うのとは、また違ったものを感じましたね。広い意味での沖縄や色々な捉え方の出来る曲とでも言うか…。

EMTG : 雄大で悠久さを擁してますもんね、この曲は。あとは一緒に歌えるというところもポイントかと。

前川 : この歌に関しては、島だけで完結したり、島の人間だけが分かるようにはしたくなかったんで、あえてアレンジは沖縄以外方、本州の関(淳二郎)さんにお願いしました。沖縄の自分たちの作ったメロディに、沖縄以外の人の解釈が融合することで、より沖縄を知らない人でも沖縄に想いを馳せたり、想像したりできる、その辺りを理想としました。

EMTG : 沖縄には数度しか行ったことがない私にも、しっかりと島の景色や風土が浮かんできました。

前川 : それこそ「かりゆし」は、航海の無事を祈るとの意味もありますから。言わば、海を渡り、その向こう側の人が受け取り、お互いの良いところと融合されて新しい文化が生まれる。なんかそれに近いかなと。この曲が多くの方に、アンセムのように歌ってもらえたら嬉しいですね。

EMTG :歌詞面では、大きなサイクルや営み、歴史や悠久さを感じました。

前川 : 実は歌詞に関しては、身に起こったことを羅列させただけなんです。

EMTG : それは?

前川 : 6月の「慰霊の日」に沖縄の平和公園に家内と子供と散歩がてら行ったんです。で、その時に子供の無邪気に遊んでいる姿を見て、同じ歳だった頃の自分と重ね合わせてみて。子供にも、”(かつての自分のように)そうであって欲しい”と思ったのと、そこに向かう車の中で、山や川、サトウキビといった沖縄を象徴する景色を見ながら、それらは70年前から変わらずに広がっていただろうし、これから70年後にも、きっと変わらず広がっているんだろうな…と想いを馳せたんです。その、祖父や父、自分、そして息子と、人は代々変わっても、変わらないもの…その辺りを唄で表してみました。

宮平 : ホント、聴く人の気持ちや場所、シチュエーションによって響き方が変わり、色々な解釈が出来る唄だと思います。直接的じゃないにせよ、きっと自分も体験したことがある気にさせる曲ですね。自分もレコーディングの際は、景色を想い浮かべて弾いてましたから。

EMTG : ちなみにどのような光景を思い浮かべながら?

宮平 : 実は沖縄の景色だけでもなかったんです。沖縄的なカラッとしたところもあれば、逆に沖縄っぽくない湿っぽさもあったりする曲なので。あえて「ザ・沖縄!!」みたいにならないように意識して弾きました。

EMTG : M-2.「夜行列車~復刻版~」は、副題の「~復刻版~」のとおり再録曲ですね。

前川 : 今回はスカのアレンジを施してみました。

EMTG : 今回どうしてこのようなアレンジを?

前川 : さっきの『沖縄国際映画祭』のステージ上で、スカパンクのバンドと一緒に演奏をしたんです。それが非常に楽しくて。それで今回、「夜行列車」でスカのアレンジを加えて、4人だけで録ることにしたんです。以前のバージョンがはなかなかライヴでやりづらいところもあったんですが、この曲はもう、ライヴでもバッチリです。

宮平 : このようなスカのアレンジって、ホーンを入れたりもあるんですが、僕たちは逆にこの4人で、音の少なさを何でカバーするか?を色々と考えて。結果、このアレンジに行き着きました。

EMTG : M-3「Fire Chicken」はMATEN-LOW名義ですね。

前川 : これは僕は全く参加してません(笑)。僕以外の三人(かりゆし58の、宮平、新屋、中村)で作りました。

EMTG : いわばメタルバンドが歌うバラードのような趣きで。

宮平 : まさに狙いはそこです。この曲も最初に「Fire Chicken」、直訳すると焼き鳥(笑)、というタイトルがあって。”だったらキャンプファイヤーで歌える曲を作ろう”と。まさにMr. BIGやEXTREAMといった、メタル系のバンドが歌うバラードを意識して作りました。

EMTG : 炎の前で、みんなでクラップをしながら一緒に歌っている光景が浮かんできます。

宮平 : 元々このMATEN-LOW自体が、かりゆし58のファンクラブイベントでのカバーバンドでしたから。いわゆる余興バンド(笑)。設定自体もなぜかメンバー3人とも外タレだったし(笑)。

前川 : ”カッコイイ歌だなぁ…”と思って聴いていたら、中盤から急に歌詞が英語に変わったんで、”ああ、きっとここで歌詞を書くのに飽きたんだろうな…”って (笑)。

宮平 : 図星です(笑)。

EMTG : 最後に、来年のデビュー10周年に向けての抱負を聞かせて下さい。

前川 : そうそう。10周年に向けて一つの夢があるんです。

EMTG : それは?

前川 : 母校の小学校で、花火大会を行いたくて。で、その花火が始まる前に歌いたいんです。MONGOL800は沖縄で最高のフェスをやっていて、BEGINさんも『うたの日コンサート』みたいな素晴らしいフェスを沖縄で定期的に行っているんですが、実は僕の街は4年に一度しか祭がないんです。で、その時にしか花火が上がらない。その年以外は子供たちは親の車で渋滞の中、那覇等に見にいくしかないんです。なので、地元でもキチンと毎年花火が見れる、そんな環境を是非作りたくて。で、花火が上がるまでの1時間ほどをいただき、退屈しないように自分たちが唄を歌う。そんなことをやりたいんです。

EMTG : 素晴らしい!!

前川 : そんな時にみんなが一緒に聴け、歌え、楽しめる音楽を、より作っていくのが目標なんです。なのでそれの実現と、そこで一緒に歌える歌を一つでも多く作ることが当面の目標です。この「かりゆしの風」も、そんな1曲になって欲しいですね。

【取材・文：池田スカオ和宏】