SHE’Sの新アルバム『Tragicomedy』はすべての人を肯定してくれる――その理由とは

SHE’S | 2020.07.01

 SHE’Sの4thアルバムのタイトルは、悲喜劇を意味する『Tragicomedy』。人生のなかには悲劇的な出来事もあれば、喜劇的な側面もある。その両方を抱えた自分自身を認めたうえで、前に進んでほしい――このアルバムの全編から伝わるメッセージは、すべてのリスナーの心に寄り添い、根本から励ましてくれるはずだ。「Letter」(『あつまれ どうぶつの森×Nintendo Switch Lite』2020春 CMソング)、「Unforigve」(ドラマ『ホームルーム』OP主題歌)、「One」(アニメ『メジャーセカンド』EDテーマ)などの話題曲を収録し、サウンドの幅もさらに広がった本作について、メンバー4人に語ってもらった。

――アルバム『Tragicomedy』の話の前に、STAY HOME期間中のことを聞かせてもらえますか? SHE’Sと過ごす“おうち時間”企画として、YouTube Liveによる生配信番組「SHE’S Room」もありましたが、特に落ち込むことなく過ごしてました?
井上竜馬(Vo/Key):そこまで落ち込むことはなかったですね。落ち込んだところで何も変わらないし、だったら、何が出来るか考えたほうがいいので。
広瀬臣吾(Ba):うん。ただ、「俺らはライブがないと生きてる感じがしないんだな」というのは実感しましたね。
服部栞汰(Gt):当たり前のようにやってからね。
木村雅人(Dr):そうやな。スタジオにも入れなかったので、ドラムにも触れることもできなくて。家でパッドを使って、基礎の基礎みたいなところを見直す時間になりましたね。
――竜馬さんは曲を作ったりも?
井上:そうですね。曲はめちゃくちゃ作って、ストックもけっこうたまって……。
服部:顔が笑ってるやん(笑)。
井上:ハハハハ(笑)。メンバーに送ってない曲は2曲くらいですかね。そこはのんびりしてたというか、気が向いたら作るという感じだったので。それよりも自分になかった素材を入れることを意識してましたね。読みたかった小説を読んだり、観たかった映画を観たり。今もそうですけど、自分が知らなかったものを知りたいので。
服部:ギターも弾いてましたけど、MIDI鍵盤を買って、ドラムの打ち込みをやったりしてました。勉強というより、ひとりで楽しんでる感じですね(笑)。もちろん、いつか形にして出せたらいいなとは思ってますけど。
広瀬:自粛期間中もそんなに普段と変わらない生活だったんですけど、むしろ最近になってPS4を買ったんですよ。『龍が如く7』をやってるんですけど、忙しいですね(笑)。
井上:ハハハ(笑)。ゲームのなかでケンカとかして、スカッとしそうやな。
――ゲームと言えば、アルバムにも収録されている「Letter」が『あつまれ どうぶつの森』のテレビCMに起用されて。
井上:3月からオンエアされてたんですけど、すごい反響でしたね。曲の再生数も伸びたし、地元の友達からも「聴いた」ってめちゃくちゃ連絡が来て。
服部:確かにな(笑)。
井上:それだけたくさんの人に聴いてもらえたんだなと。
――アルバム『Tragicomedy』にもつながりそうですよね。完成したのは少し前だと思いますが、手ごたえはどうですか?
井上:最近もよく聴いてるんですけど、今まででいちばん自分で歌っちゃうというか、口ずさみたくなるんですよ。聴きたいし、歌いたいアルバムになりましたね、個人的には。
――つい口ずさみたくなる感じ、すごくわかります。歌がスッと入ってくるし、フレーズが心に残るんですよね。
井上:そう言ってもらえると嬉しいですね。今までは内省的だったり、自分を鼓舞したり、自分に向かって歌うような曲がわりと多かったんですけど、今回のアルバムに入ってる曲はハナから対外的というか、外に向けてる言葉が中心になっていて。だから届きやすいんだと思うし、今までのアルバムとの大きな違いかなと。
――“外に向ける”、“聴く人に向ける”という歌詞の方向性は、最初から決めてたんですか?
井上:そうですね。アルバム制作の終盤にタイアップの話をいただいて、「One」(NHK Eテレ『メジャーセカンド』第2シーズン エンディングテーマ)、「Higher」(第92回センバツ MBS公式テーマソング)を書き下ろしたんですけど、そのときもアルバムのテーマから逸脱しないように意識していて。タイアップのテーマと自分のなかでやりたいことが上手く溶け込んでいると思いますね。
――竜馬さんの個人的な思いから始まり、結果的にはしっかりSHE’Sの音楽として成立していて。サウンドメイクもさらに広がってますよね。
井上:うん、そうですね。
木村:打ち込みの曲やラテンっぽい曲もあるし、いろんなジャンルに挑戦していて。それが1枚のアルバムとして成り立っているというか。楽曲単体で配信もされてますけど、今作は特にアルバムを通して聴いてほしいですね。
井上:似たような曲ばかりになってしまうと、聴いてる人も飽きてしまうんじゃないかなって。あと、自分の選択肢を広げるためにも、いろんなことにトライしたいんですよね。「こういうサウンドが出来たんだから、次はこういうこともやってみよう」っていう。
――サウンド的な幅があれば当然、リスナーの間口が広がりますからね。The 1975の新作『Notes on a Conditional Form』なんて、「これ、ホントに一つのバンド?」と思うくらい音楽の幅が広くて。
井上:そうですよね。The 1975くらいカメレオン的というか、楽曲ごとにいろんな表情があったほうがいいなって。この4人で演奏して、僕が歌えば、ちゃんとSHE’Sの音楽になりますからね。「Blowing in the Wind」はギターとピアノ以外は全部打ち込みなんですけど、アルバムのなかで聴いても全然違和感ないと思うんですよ。
広瀬:「Blowing in the Wind」はシンベ(シンセベース)なんですよ。「Unforgive」はAメロ、Bメロがシンベで、サビが生のベースなんですけど、「Blowing~」は全部シンベで。最初は「自分にアレンジ出来るのかな?」と思ったんですけど、意外といい感じに仕上がって。ただ、シンセってめちゃくちゃ奥が深いので、ハマるとヤバイと思ってます(笑)。
――服部さんのディストーション・ギターもSHE’Sの特徴ですよね。今回も印象的なギターソロがいくつもあって。
服部:ありがとうございます。エレキギターだけじゃなくて、「Not Enough」はアコギ1本でアレンジしてるんですよ。「Masquerade」でもアコギを使ってるんですけど、アコギだけというのは初めてだったし、そこも幅が広がってますね。
――イメージした音を具現化できる楽しさもありそうですね。
井上:制作はすごく楽しかったですね。技量が足りなくてなかなか手を出せなかったサウンドも少しずつ作れるようになってきて。打ち込みの曲もそうだし、アイリッシュの音を取り入れた「Masquerade」もそうですね。エド・シーランが大好きなんですけど、彼もルーツがアイルランドで。「こういう感じでやってみたい」と以前から思ってたんですよね。
――『Tragicomedy』というタイトルについては?
井上:タイトルを決めたのは、制作の中盤くらいですね。心の病気になった知り合いに向けて書いた曲が多いんですけど、感情的なアップダウンだったり、思い通りにいかない様子を見ていると――すごく悲しいときと楽しいときを交互に繰り返すような――「これは誰にもあることだな」と思ったんですよね。その両方を持っているのが人だから、自分を責めてほしくないなって。それを表すような言葉はないかなと思って調べたら、“悲喜劇”という言葉を見つけて。
――なるほど。“悲喜劇”は演劇の用語ですよね?
井上:そうですね。演劇に詳しいわけではないですけど、歴史を辿ると、悲劇、喜劇が分かれていた時期があって、その後、悲喜劇が上演されるようになったみたいです。
――悲劇と喜劇が合わさったことで、より人間の本質に迫ろうとしたのかも。竜馬さん自身も、この言葉に共感している?
井上:そうですね。自分にとってもしっくり来たから、このタイトルにしたので。たとえば「後悔しないように生きよう」と思っても、絶対に無理じゃないですか。それよりも後悔を受け入れたうえで進んでいくほうがいいし、そのことをどうやって伝えられるかを考えていて。「こうしたらダメ」とか「こうしたほうがいい」も大事だけど、まずは自分自身のことを知って、認めてあげることかなって。
――それ、すごく重要なことですよね。正しいかどうかではなく、その人自身の状況や感情を受け入れるほうが大事というか……。メンバーのみなさんは、『Tragicomedy』というタイトルをどんなふうに解釈していますか?
広瀬:タイトルが決まってからけっこう経つので、逆にわからなくなってますね(笑)。
木村:そうやな(笑)。
服部:最初は「そんな言葉があるんや?」っていう感じでしたけどね。
広瀬:意味がわからなかったから(笑)。
服部:「こういうタイトルにしたいんだけど」ということは聞いてたけど、ここまで深いところまでは話さないですからね。
広瀬:余白というか、解釈の余地があるのもいいんですよね。このアルバムを聴いて「私は悲劇のほうを強く感じた」、「俺は喜劇的なイメージが強かった」と思う人がいてもいいし。そのバランスはいろいろだと思うので。
井上:うん。自分でいろいろ感じ取ってもらってもいいし、人の意見や感想を取り入れてもいいし。あとは自由に楽しんでもらえれば。
広瀬:俺らが考えていることは、いろんなインタビューを読んでもらえれば(笑)。
服部:全部読んでもわからないかも(笑)。
井上:まあ、この絵(取材部屋に飾られているポップアート系の絵画)も何を描いてるのかわからないし(笑)。
――それが芸術の楽しさですよね。竜馬さんの性格も、ネガティブかポジティブかよくわからないし……。
井上:それは自分でもわからないです(笑)。
服部:どっちもあるんじゃないですか? だから、こういうアルバムになったと思うので。
井上:常にアッパーな人もいるかもしれないけど、基本的に人は根暗だと思ってるんですよ。
――ちょっと暗い気分が普通の状態だと。
井上:そうそう。世の中にはマイナスなことがあまりにも多いから、どうしても目に付いちゃうだろうし。それをどうやってプラスに変えるかが大事なのかなと。
――『Tragicomedy』は、そのためのヒントが詰まっているアルバムだと思います。10月からは全国ツアー「SHE’S Tour 2020~Re:reboot」がスタート。新型コロナウイルスの感染予防に考慮したツアーになるそうですね。
井上:はい。それぞれの地域のガイドラインに合わせて、しっかりライブをやれる環境を作っていこうと思っていて。どういう状況になるかはわからないですけど、よほどのことがなければ開催できるんじゃないかなと。今年1年ライブができなかったら、やりかたを忘れてしまいそうなので(笑)。
木村:今年の2月以来、ライブやってないですからね。
井上:俺らもすごく楽しみです。絶対にやりますと確約はできないけど、楽しみにしててほしいですね。
――この先の活動のビジョンも見えてますか?
井上:来年は結成10周年なので、まずはそこに向けて準備していきたいと思っていて。音楽的には、「次はこれ」と決めつけないで、そのタイミングで「どんな曲を作ろうかな?」と考えていけたらなと。打ち込みとバンドの共存はこれからも続けていきたいですけど、やりたいことは常に変わっていきますからね。そのときにやりたいこと、そのときの気分で曲を作っていくのがいちばんいいと思うんですよね。

【取材・文:森朋之】

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リリース情報

Tragicomedy(初回限定盤)

Tragicomedy(初回限定盤)

2020年07月01日

ユニバーサルミュージック

01.Lay Down (Prologue)
02.Unforgive
03.One
04.Masquerade
05.Ugly
06.Higher
07.Your Song
08.Be Here
09.Not Enough
10.Letter
11.Blowing in the Wind
12.Tragicomedy
13.Sleep Well (Epilogue)

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■ライブ情報

SHE’S Tour 2020 ~Re:reboot~
詳細はツアー特設サイトをご覧ください
http://she-s.info/shes-Re_reboot/

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