ラッキリは“夜”に何を見出したのか。「夜とシンセサイザー」の深層心理に迫る!
ゆびィンタビュー | 2020.10.22
PROFILE
Lucky Kilimanjaro
Vo.熊木幸丸を中心に、同じ大学の軽音サークルの仲間同士で結成され、2014年、東京を拠点にバンド活動開始。“世界中の毎日をおどらせる”をテーマに掲げた6人編成によるエレクトロポップ・バンド。スタイリッシュなシンセサウンドを軸に、多幸感溢れるそのライブパフォーマンスは唯一無二の存在感を放つ。
2018年11月に1st EP「HUG」にてメジャーデビュー。その後、2019年6月「風になる」、7月「HOUSE」、8月「Do Do Do」、9月「初恋」と4ヵ月連続でシングルをリリース。さらに10月には2nd EP「FRESH」を立て続けにリリースすると、楽曲の良さが評判を呼び全国のTV、AM/FM局にて56番組のパワープレイ・番組テーマを獲得。「FRESH」はオリコンの2019年10月度FMパワープレイランキング1位を獲得。
同年8月にはROCK IN JAPAN FES.への初出演も果たし、フェスファンからも熱い視線を浴び、さらなる注目を集める。2019年11月、バンド自身初となるワンマンライブ「FRESH」@渋谷WWWは、公演4ヵ月前に即完。
2020年3月にはメジャー初のフルアルバム『!magination』をリリース。また同時に5月の東名阪ワンマンツアーの初日・恵比寿LIQUIDROOM公演はソールドアウト、渋谷CLUB QUATTROでの追加公演もソールドアウト。5月には緊急配信シングル「光はわたしのなか」をリリース、7月に2週連続でラッキリ初となる夏シングル「エモめの夏」「太陽」をリリース。8月には配信限定ライブ「DANCE IN DA HOUSE」を開催。
このたび、8枚目のシングル「夜とシンセサイザー」をリリース。
- 春夏のツアー「!magination」は残念ながら中止になってしまいましたが、8月には渋谷CLUB QUATTROからの配信限定ライブ「DANCE IN DA HOUSE」、9月には「2020 Dancers」ツアー初日の恵比寿LIQUIDROOM公演もあり、徐々にライブも再始動していますね。まず配信ライブのことからうかがえますか?
熊木
やるまでは何が起こるかわからなくて、正直不安でした。特に僕らのバンドは大きな音でやればやるほど良さが伝わると思っているので、映像にすることでそのダイナミクスが失われてしまったらイヤだなと思っていたんですけど、実際にやってみたら、優秀な方がいっぱい関わってくださったこともあってすごくいい音になったし、なかなかライブに来れない人や僕らがまだ行けてないところの人にも届けられたので、結果としてすごくいい取り組みになりました。今となっては満足してますね。- 僕も拝見しましたが、映像も音もすごく良かったですね。
熊木
「エモめの夏」「太陽」とか今回の「夜とシンセサイザー」のMVと同じ映像制作チームが関わってくれたんです。僕らと同世代ぐらいの人たちなんですけど、すごくかっこいいセンスで作ってくれて、いい作品に仕上がったっていう感覚がありますね。- メンバーもみんな満足していましたか?
熊木
ライブって意味では、「もっとやれたよな」「もっとクオリティー上げられるよね」みたいな話し合いはありましたけど、やって良かった感はありましたね。- 9月のお客さんを入れたライブはどうでした?
熊木
いや、もう本当に、掛け値なしにめちゃくちゃ楽しかったです。感染防止対策があるのでLIQUIDROOMのキャパMAXでは当然ないんですけど、それでもやっぱり、お客さんに入ってもらってライブするのはこんなに楽しいんだ、って改めて思いましたね。バンドとしても6ヵ月ぐらい空いたことって今までなかったので、それも含めて「ああ、このために僕らバンドやってるのかもな」みたいに再認識したというか、ちょっと楽しすぎてわけわかんない空間でした(笑)。まだ咀嚼しきれてなくて、「あれはなんだったんだ?」とか「魔法みたいな時間だったな」とか、そんな感じです。- お客さんがいるのといないのとでいちばん違うのは?
熊木
歌に関して言うと、僕はやっぱり話しかけるように歌いたいというか、対話に近い感覚なので、話す相手がいるのといないのとでは大違いなんですよね。配信はスピーチ的というか、メッセージを一方的に伝える感じになるんですけど、目の前にお客さんがいると表情とか動作とかちょっとした反応が目に入って、空気のキャッチボールみたいなものがあるから、その分配信よりもムダに力が入っちゃったりもするんですけど、そこも含めて全然違うなと思いました。メンバーはどう感じたのかな……そういう話は全然しなかったんですけど、終わったあとにめちゃくちゃ楽しそうにしてたんですよ。それを見て、「いいライブだったんだな」「やってよかったんだな」と思いました。栄谷(Fanplus Music編集部)
僕も恵比寿にお邪魔したんですけど、フルキャパじゃないからこそ、お客さん一人ひとりの動きがはっきり見えて、みんな音楽を体で感じているのがよくわかりました。ステージからもライブを楽しみにしていた感じが伝わってきたし、僕もなんだか夢の中にいるような感じでしたね。熊木
本来だったらもっとギチギチになると思うんですけど、今回は間隔が空いたことで適度に各々の空間ができて、結果的に踊りやすくて快適だったんじゃないかなと。ステージから見ててもお客さんがよく動いてるのがわかって、いい空間だなぁと思いました。- 新曲「夜とシンセサイザー」も披露されたということで、お客さんの反応はどうでした?
熊木
新曲だったのもあって結構必死だったのと、ライブ後半でかなりハイになってたので覚えてないんですけど(笑)、終わったあとに「ライブ映えする曲ですね」みたいな感想をいただいたんですよ。これは「太陽」もそうなんですけど、ライブでぶちかましてやろうと思って書いた曲でもあるので、よく伝わってるなと思ったし、演出も含めてさらにクオリティーを上げていけば重要な曲になっていくんじゃないかと思いました。- 構成がドラマチックなので、ライブ映えしそうというのはわかります。
熊木
最初は広がりのあるダイナミクスのないサウンドから入って、ドラムが入って突然大きなダイナミクスが来て。音源ではそこに映画のトレイラーとかで使うパーカッションを入れているんですけど、そういう強弱のつけ方や世界観の作り方がかっこいいなと思っていて、ライブでやったらより映えるんじゃないかなと。- <寂しい夜 続くね>から始まり、じわじわ上がっていってサビでドーンと前向きになる歌詞のストーリーにもカタルシスがあります。
熊木
「FRESH」や「Do Do Do」など以前からやってた手法なので、自分的には新しくはないんですけど、そういうサビのカタルシス感というか、特定の部分で出てくる浄化感みたいなものを味わえるのがLucky Kilimanjaroのいいところかな、とは思いますね。- 実像と影が別の動きをしているMVも面白いですね。
熊木
僕の案だと「ひとりの夜を抜け」みたいな、夜を歩く感じの映像になっちゃいそうだったんですよ。そういうイメージだと、曲には合うんだけどなんかイマイチだな……と思って、特に何も要求しないで、監督さんに「お任せします!」って伝えたらあのような演出を考えてくれて、すごくいいMVになったなと思ってます。企画段階からしっかり構想が練られていて、その段階から「影のところはかっこよくなるだろうな」と思っていたし、迷ってる気持ちと頑張ろうと思う気持ちとか、以前の自分と今の自分とか、二面性みたいなところがうまく表現できてるなって。後半ではバンドが出てきて、悩む人と励ます僕らみたいなふたつの存在をちゃんと表現してくれてましたし。- YouTubeのコメントに「熊木さんの詞、いつも『~するよ』『~を送るよ』って『I Do』が入ってて好き」(sakayuさん)というのがあって感心しました。
熊木
僕は曲から自分の存在を消したいこともよくあって、僕じゃなくてあなたの曲っていう状態を作りたいというか、聴いてくれてる人の生活のBGMとしてあれたらいいなって思うから、僕が「~するよ」って言ってる曲と、聴いてる人がそう言ってる曲があるんです。「夜とシンセサイザー」は僕の「I Do」です。僕から悩んでる人にかける言葉として作ってます。問いかける感じが自分の温度感というかトンマナに合ってるから、自然と使っちゃいますね。- 問いかけ、語りかけはLucky Kilimanjaroの特徴ですもんね。
熊木
そうですね。こういう曲だと口調が強くなっちゃいがちですけど、優しさをポイントに言葉を選びました。「夜とシンセサイザー」の場合、僕が答えを知ってるわけじゃなくて、答えはそれぞれが探すものだから、僕が強い口調で何かを提示するのは違うと思ったんですよね。<あなたのかわりに泣けないけど>とか、ちょっと頼りない感じもありますけど、それは実際にそうだし、その人の悩みはその人が解決することが大事だと思うし、僕らにできるのは曲で助けることぐらいだし。そういう姿勢を崩したくないなと。- ユキマルさん自身にとっても、音楽とか歌というのは寄り添ってくれたり助けてくれたりするものですか?
熊木
そうであるといいなと思ってますね。そうあるべきというよりは、そういうものが欲しいなと思ってる感じです。- そこからプレイリストの話に移ります。“夜”をテーマに5曲選んでいただいたわけですが。
「夜とシンセサイザー」の世界観にどっぷり浸れるプレイリスト5選(熊木幸丸 選曲)
熊木
今回のリファレンスの中から、こういうエモさ、悲しさ、虚しさみたいなのを入れたいな、と選んだので、メッセージよりはサウンド寄りですね。僕の中では“夜”に何か確たる意味づけがあるわけではなくて、今回は「迷っている、悩んでいる、先を見失っている状態」の比喩としてあるんです。ただ、お話をいただいてからなんでそうしたのか考えたんですけど、全然わからなくて。逆に“夜”に楽しいイメージを託してる場合もあるんです。夜の散歩の無限に続きそうなワクワク感とか。- ああ、そうですね。
熊木
強いて思い当たることを挙げると、もともと深夜のバイトをやってたんですけど、もの悲しいんですよ、深夜のバイトって。人いないし、当時はバンドもそんなにたくさんの人に聴かれてる状況じゃなかったし。閉じこもってる感じとか、何が正しいかわからず模索してる感じには、その経験が影響を与えてるのかもしれないです。- 夜の仕事ってちなみに?
熊木
コンビニの夜勤です。3年ぐらいやったのかな。その仕事を辞めてからは「やっぱり夜って寝るものなんだな」と思って寝ることにしてるんですけど、あのときはカオスだったなって思います。自分の感情ももっとグチャグチャだったし。そういうイメージがどうしてもあるんだろうなって。ボヤッとした暗さが。- ダンスミュージック好きだから、“夜”は楽しいものというイメージもありそうですけどね。
熊木
僕はクラブに通ってた人じゃなくて、楽しい夜っていうと、むしろ友達と飲んだり、友達と家でゲームしたり、夜更かしして映画見たり……そういうときは「時間が止まっちゃえばいいのに」って思ってました(笑)。だから楽しいイメージもすごくあるんですけど、楽しいけど儚いというか、「朝になったら終わって過去のものになっちゃうんだな」っていう感覚もすごくあるんですよ。昼に楽しいことしててもあんまり思わないのに。そういう感覚も自分の歌詞に出てくることは多いと思います。- どういう意味合いで出てくるにしろ、常に切なさがつきまとうものではあるんですね、ユキマルさんにとっての“夜”というのは。
熊木
そう思います。少なくとも僕の中では、切なさは絶対ありますね。この曲を書くにあたっては、そういうもの悲しさや、その中でもなんとかやっていきたいっていう思いをサウンドに乗せるならこういうのがいいな、っていうのを30曲ぐらい挙げたんです。その中から強いて言えばこういうサウンド感がいいな、っていうのを5曲選んだので、必ずしもこの5曲で「夜とシンセサイザー」が構成されてるってことではないんですけど。- カップリングの「SAUNA SONG」の話に移りますが、サウナ好きなんですか?
熊木
そういうわけじゃなくて、これはDISH//に僕が個人で提供した曲のセルフカバーなんですよ。- そうなんですね。下調べ不足で失礼しました。
熊木
曲を書く前に北村匠海くんに話を聞いたら、サウナが好きだと。彼はわりと僕的な考え方というか、「みんなトゲトゲしないでほしい」「優しさを取り戻してほしい」みたいなことを言っていたので、「じゃあそれとサウナをくっつけたらいいんじゃない?」ということで、この曲ができました。なので僕がすごくサウナ好きというわけではないのですが、メンバーだとラミちゃん(Per)とか柴ちゃん(柴田昌輝/Dr)はよく行ってますね。- もともとバンドの曲として作ったものじゃないから、作曲も熊木幸丸名義になっているんですね。
熊木
歌詞は変えてないんですけど、DISH//の「SAUNA SONG」はもうちょっとテンポを上げて、サウンドももっとパワフルで軽快な感じを目指してます。僕らのバージョンはテンポをちょっとスローにして、サウンドもスムーズにすることでより優しく、楽な感じをイメージしました。- サビのところでビートを消したりして、ダイナミクスを効かせていますね。
熊木
サウナの蒸気感、「あぁ……」(天を仰いで目を閉じて深呼吸)ってなって時間が止まる感じ、サウナに入ってる自分自身しか感じてない状態みたいなのを表現したいなと思って、1回ビートを止めてフワッとした音だけにしました。- サウンドも歌詞もすごくサウナ好きな人が作ったように聞こえるから(笑)、周到に取材したんですね。
熊木
ちっちゃい頃よくスーパー銭湯に連れて行ってもらってたんで、そこでサウナに入ったりして、感覚としては残ってるんです(笑)。行きたいなとも思ってるんですけど、今はなかなか行けないですよね。- バンドのレパートリーとして違和感がないですね。
熊木
僕は逆に、僕が書くと僕の曲になっちゃうんだな、と思いましたね。歌のリズム感には個性が出るからそこは違いますけど、ちょっとしたコードやフレーズや音色の使い方に自分の色が出るんだなと思って、結構苦労しました。どうしてもDISH//のバージョンを意識しちゃうんですよ。意識しちゃうというか、僕の中では当然、完成されたものとして出してるわけだから、自然と寄っていっちゃう。セルフカバーって初めてやりましたけど、難しいなと思いました。貴重な体験でしたね。- 具体的にはどう変えようと?
熊木
別々の色を出したいと思って、でも言葉のリズムや使い方は同じにしたかったんです。じゃあサウンドでどうキャラクターをつけていくかってなったときに、すごく難しいなと。その意味では自分のサウンドプロデュースの力を試されてるというか。こっちはパワー感があるから、こっちはモワッとした感じにしようかな、みたいな。- 実は僕もサウナ好きなんですが……。
熊木
うっ! サウナ好きに聴かれるのちょっとプレッシャーだな(笑)。前述のとおり、僕自身がサウナオタクなわけじゃないので。- 大丈夫。とっても感じが出ていると思いました。
熊木
「友達のサウナ好きの間で話題になってる」とか言われたこともあって、ドキドキしますね。意図的に歌詞で「ととのう」って言葉を使ってないんですよ。ちょっとやりすぎちゃうなと思って(笑)。でも、サウナ好きの間でアンセム化するんだったら使うべきだったかな、と思ったりもします。- 難しいところですが、「ととのう」を使うと近年のサウナブームの文脈に寄りすぎちゃいそうだし(タナカカツキ氏の著書およびその漫画、ドラマ版『サ道』発祥のよう)、タイムレスな歌になってむしろ良かったんじゃないかと僕は思います。
熊木
サウナの曲だけど本質的には優しさの曲なんで(笑)、バランスがとれてるかなと。- 入口はノベルティソングというか企画ものっぽくても、中身はラッキリらしいメッセージになっているのがユキマルさんならではですね。
熊木
サウナというモチーフを使っただけで、本質はほかの曲と全然変わらないというか、人間の本来持つ強さや優しさ、想像力について歌った曲なので、そういう意味ではブレてないと思いますね。「HOUSE」はノベルティ寄りですけど。あれは特段メッセージがなくて、「家で遊ぶの楽しいよね、以上!」みたいなことをつらつらと書いただけなんで(笑)。最近はあんまりああいう頭空っぽ系のノリで書いてないかもなあ。- 11月には「2020 Dancers」ツアーの名古屋・大阪公演があり、12月には恵比寿ザ・ガーデンホールで追加公演がありますね。
熊木
2020年は変な年になったなと思います。よくわからないのが、ライブしてないのに聴いてくれる人は増えてるんですよ(笑)。せめて最後は僕ら自身が「今年はおつかれさまでした。来年は頑張りましょう!」って思えるようにしたいし、一緒に楽しめるようにしたいですね。「めちゃくちゃやばいライブ見せてやるぞ」っていう意気込みも当然あるにはあるんですけど、もっと忘年会気分でいいライブをしたいです。- 最後に2021年の展望もお聞かせください。
熊木
来年はまだまだ見えないこともあるし、正直ちょっと(世間的に)希望的観測がすぎるなって気はしてて。来年もライブできなかったらすごくやばいなと思いますが、僕らは今やれることをやるしかないから。とりあえずたくさん曲は作るし、できるだけライブに来てもらえるように用意したいし、何よりもみんなの生活に少しでも「いいな」「楽しいな」「気持ちいいな」って思える瞬間を作れるように頑張りたいです。
【取材・文:高岡洋詞】
リリース情報
夜とシンセサイザー
2020年10月21日
ドリーミュージック
02.SAUNA SONG
お知らせ
■ライブ情報
Lucky Kilimanjaro presents
TOUR “2020 Dancers”
11/13(金)愛知 名古屋JAMMIN’
11/14(土)大阪 梅田CLUB QUATTRO
Lucky Kilimanjaro Presents
TOUR “2020 Dancers FINAL”
12/11(金)東京 恵比寿 ザ・ガーデンホール
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。