ハナレグミはニューアルバム『オアシス』をリリースしたばかり。彼ら(というか、正確には永積崇のソロ活動なので、彼)に最も似合うステージのひとつ、代々木第二体育館で行なわれた《オアシス　YOYOGI DE 360°ステージ囲みまくって熱唱しまくっちゃいナイト》を観た。

　アリーナにステージを作って、オーディエンスがぐるりとそれを取り囲んで楽しむ。全方位に音楽と愛を発信するハナレグミにとって、まさにピッタリのセッティングだ。その360°の客席を埋めているのは、20?30代の音楽好きたち。仲のいい友達とのパーティのようなムードが開演前から漂っていて、快適そのもの。ステージの上には“OASIS　360”のアルファベットと数字がバラまかれ、中央に立てられたポールからはカラフルな電球を吊るしたロープが張られていて、まるで“秋祭り”のメイン会場のようなハッピーな雰囲気を醸し出している。

　登場したメンバーは、ギター、キーボード、ベース、ドラムに、トランペットとサックスの６人。ギターがラテン・リズムを刻み、そこに永積が加わって「みんな、踊ってってくれよ?！」と叫ぶと、ライブはニューアルバムのタイトル曲「オアシス」からスタートした。１曲目からオーディエンスとのコール＆レスポンスをキメて、一気に客席とステージが一体となる。他のアーティストには真似のできないハイペースのスタートダッシュとなった。
この単刀直入なオープニングを可能にしている最大の要因は、バンドとオーディエンスのコミュニケーションの良さだ。日本の音楽ファンの中でも飛び抜けて感度の高いオーディエンスたちは、ハナレグミが繰り出す極上のグルーヴを求めてここにやって来た。一方でハナレグミは、極上のオーディエンスが快いグルーヴを一緒に生み出してくれることを知っている。彼らはライブがお互いに“歓びを分かち合う場”だということを熟知しているから、このスタートダッシュができるのだ。永積の言葉どおり、通路ではたくさんのオーディエンスが踊り出した。
レゲエの「Crazy Love」では７人が最低限の音数でアンサンブルを組み、最大限のグルーヴを会場に提供する。続く「大安」では永積が「うれしいよ?」と歓びを爆発させ、歌えなくなるシーンも。

　永積がマイクを離れて、地声で「弾き語りが始まるんで、座っていいよ」とコールすると、６曲目からはギターのおおはた雄一と二人でのコーナーになる。歌い始めたのはカーティス・メイフィールドの名曲「People get ready」。途中から日本語詞になり、それが心に沁みる。オーディエンスがハナレグミに求めるのは、グルーヴと、もうひとつ、永積の温かい言葉だ。座って、みんな聴き入る。ボブ・ディランの「Don’t Think Twice，It’s All Right」の♪I gave her my heart but she wanted my soul“という素晴らしいフレーズを踏まえた訳詞など、深い歌が360°の客席に響き渡る。途中、パーカッションとブラスセクションの二人が加わって、会場はじんわり暖かくなっていく。

凄かったのは「踊る人たち」だった。アコギのリズムに観客がハンドクラップで応えると、歌の途中で永積が突然、「今夜はブギーバック」をラップし始めた。大ネタのアラワザ！これにはオーディエンスも大喜びで♪よくなく　なくなく　なくなくない？♪と大合唱で応える。弾き語りといえども、充分グルーヴィーで、“グルーヴと歌”というハナレグミの特長が両方発揮されて、最高に楽しかった。

　再びバンド・セットに戻った後半は、言うまでもない盛り上がり。80年代の名バンド、ボ・ガンボスを彷彿とさせる力強いリズムの「・・・がしがしの女」、これまた最小限の音でグルーヴする「オハナレゲエ」、ラストは永積が一人残って、「あいのこども」を弾き語って終わった。

　アンコールは「こんな贅沢な伴奏、ないですからね」と、永積はハモンドオルガンの沖祐市と二人で「愛にメロディ」をエモーショナルに歌う。ギターのハナレグミもいいけれど、ハナレグミとオルガンの相性は抜群だ。
二度目のアンコールはおおはたと二人で「きみはぼくのともだち」で締めた。素晴らしい時間はアッという間に過ぎ、オーディエンスたちは去りがたい気持ちを大きな拍手の込めて、いつまでもスタンディング・オベーションをしていたのだった。

【 取材・文：平山雄一 】

【 撮影：菊池サトシ 】