ハナレグミ、自身のルーツを辿ったワンマンツアー最終公演の模様をレポート
ハナレグミ | 2013.10.12
ハナレグミ単体としては、実に1年9ヶ月ぶりとなる全国ツアー「だれそかれそ」は、これまでにないくらい、大笑いできるライブとなっていた。もちろん、いままでも音楽をみんなで楽しもうという躍動感やハッピーなヴァイヴレーションは一貫してあったのだが、今回は“楽しい”の内容がちょっと違っていた。実際に「あはははは」と声を出して笑ってしまうことも多かったし、初のペンライトが揺れる楽曲もあったし、くだらないユーモアも全開であった。久しぶりのツアーということもあってか、とにかく全力で遊ぼう! という気持ちが伝わってきた、こうして原稿を書きながらもニヤニヤしてしまう、そんな3時間であった。
開演時間から10分遅れで会場が暗転すると、永積 崇がひとりでステージに上がり、まず、舞台の説明を始めた。「ここはスナックなんです。みなさんの家のそばにも、入ってみたいけど、扉が開けられないスナックがあるでしょ。今日はみなさんで、そのスナックの扉を開けちゃうのはどうですかね?」と語りかけ、THE BOOMの「中央線」をエレキの弾き語りでひとり静かに歌いあげ、続く「大安」の冒頭を高らかに歌い出すと、ステージ上のスナックのカーテンが開き、バンドメンバーが登場した。バーテンに扮した土生“tico”剛(Steel Pan)と恋多き女と紹介されたママ役の市原“YOSSY”貴子(Key)に、草野球好きの石井マサユキ(g)、ヒッピーの真船勝博(Ba)、テキ屋の椎名恭一(ds)、鳶の市原“icchie”大資(tp)というスナックの常連客が紹介され、ライブの中盤には、この豪華メンバーの生演奏による、音楽的に豊かで贅沢過ぎるカラオケメドレーコーナーもあった。「3年前からハマってました。好きです」とファンであることをカミングアウトした少女時代の「GEE」から、大合唱となった「赤いスイトーピー」を経て、観客をむせび泣かせた「ラブ・イズ・オーバー」まで、まるでカラオケ映像のようなチープなオリジナルのムービーも各曲に合わせて製作されていた。客席があまりにもインパクト大な映像に夢中になりすぎるため、「映像ばかり見ないで」と苦笑するシーンもあった。
楽曲的にはカバーアルバム『だれそかれそ』に収録された楽曲が中心で、サウンドアレンジは、スカやラヴァーズ、ジャズやファンクから大阪ブルーズまで多岐にわたっていた。また、オリジナルは「大安」「愛にメロディ」「レター」に「明日天気になれ」という、観客も一緒に大声で歌い、手拍子をとることのできる楽曲のみ。「サヨナラCOLOR」や「光と影」、「Spark」や「天国さん」といったおなじみのバラードは歌わなかった。衣装、美術、映像、楽曲と全方位にわたって“スナック”というコンセプトが徹底された楽しい時間だったが、その根底には、ハナレグミ=永積 崇の音楽のルーツを辿る旅というテーマもあったように思う。
各地でなにを歌うか決めずに臨んだ弾き語りコーナーでは、それまでは過去にカバーしたことのある楽曲(例えば、「そして僕は途方に暮れる」や「PEOPLE GET READY」など)を歌ってきたが、最終日となる東京公演のみ、この日、初めて歌う曲を披露した。「幼いころ、車のステレオでかかっていた」と言うバンバンの「いちご白書をもう一度」と山本コータローの「岬めぐり」は、彼が歌い始めた、本当の原点の曲である。また、前述の「中央線」や忌野清志郎「多摩蘭坂」は、自身が生まれ育った街を舞台にしており、オリジナルラブ「接吻」や小沢健二「ラブリー」は、青春時代を思い起こす、タイムマシンのような役割をもった曲だろう。
アンコールでは、盟友である高田 漣が父親・高田 渡から送られた楽曲「漣」の歌詞を引用し、「目に見えるもの全てが誰かのもの。誰のものでもないものは、自分の心の中にあるんじゃないか。(堀込)泰行くんの曲も、そういうことを歌ってるんじゃないかと思う」と語り、暗闇のなかでキリンジ「エイリアンズ」を歌った。ハナレグミは、自身に影響を与えた、昭和から現在に至る日本のロック&ポップスを通して、自分がこれまで歩んできた人生を辿り必要があったのではないかと思う。ダブルアンコールでは、11年前のソロデビュー曲「家族の風景」をしみじみと、エモーショナルに歌い上げた。過去を顧みながら、今ここにいる自分を見極めた彼が未来に見据えているのはどんな景色なのか。シンガーとして、ソングライターとして、いま一度、スタート地点に立ち返った彼の次に放つ、オリジナルの“うたの言葉”が今から楽しみでならない。
【取材・文:永堀アツオ】
【撮影:RUI HASHIMOTO (SOUND SHOOTER)】
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リリース情報
ハナレグミ『だれそかれそ』
2013年05月22日
ビクターエンタテインメント
2.接吻 Kiss/ORIGINAL LOVE
3.中央線/THE BOOM
4.いっそ セレナーデ/井上陽水
5.空に星があるように/荒木一郎
6.オリビアを聴きながら/杏里
7.プカプカ/西岡恭蔵
8.いいじゃないの幸せならば/佐良直美
9.ウイスキーが、お好きでしょ/SAYURI
10.ラブリー/小沢健二
11.エイリアンズ/キリンジ
12.多摩蘭坂/RCサクセション
*カバー曲名/オリジナルアーティスト
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お知らせ
なに&なすか トークイベント
2013/10/26(土)・27日(日)福岡 TAGSTA
浜崎貴司 GACHI シーズン3 [最終回] 其の五 浜崎貴司 vs. ハナレグミ
2013/11/15日(金)duo MUSICEXCHANGE
ワンだらけツーだらけスリーだらけカバーだらけ!
2013/12/25(水)中野サンプラザ
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。