まさに総合芸術! 新しい試みが多数見られた、THE NOVEMBERSの渋谷AXワンマンライヴ
THE NOVEMBERS | 2011.12.09
私とTHE NOVEMBERSのメンバーとは多少親しい。だが、彼らを取材したことは一度もない。なので普段ボーカル&ギターの小林がインタビューにて、よく曲を色に例えることを、このライヴ時にEMTG MUSICの編集者から聞くまで、私は全く知らなかった。
音楽を色で例える...。不思議な印象を受けつつも、何となくそれも分かる。ここで言う色とは、けっして1曲の中で目まぐるしくカラフルに色が変化していく類のものではなく、いわゆるトーンやカラーの類。各曲を支配している世界観のこと。特に彼らのニューアルバム『To (melt into)』&ニューシングル「(Two) into holy」からは、これまでよりもそれらを色濃く感じた。そして、それを意識してライヴを見ると、不思議と各曲それぞれに擁するその世界観を更に演出するが如く、曲毎に合わせたライティングが施されており、観進めるうちに、今回は新しい試みが色々と成されていることに気づいた。そう、今回のステージは、新作のライヴ的発展に加え、ライヴ中さまざまな新発見と出逢えた。
この日は上記2作品のレコ発ツアーのファイナル。この渋谷AXは、彼ら単独としては最大規模のキャパとステージとなる。2作品に収まっていた計13曲が、ほぼ全曲プレイされたこの日は、間に過去曲を上手く散りばめ、旧曲も各曲その原型は伺わせながらも、いずれも最新のアレンジが施され、新曲たちと並んでも世界観的に何ら遜色はなかった。加え、これまでの激静のメリハリや過度な緩急、ヒステリックさや温度差に頼ることのないドラマ性をどの曲でもしっかりと放っており、それがとても頼もしく映った。
ステージが暗転し、足音が近づいてくるかのような効果音が会場に響き渡る。アヴァンギャルドなピアノに乗り、スポットライトで浮かび上がったステージに、まずはドラムの吉木、ベースの高松、ギターのマツモトが現れ、続いて小林が軽く手を上げ登場する。各人セッティングを終え、しばしの緊張感の中、小林のギターによるリバース音が大音量で鳴り響く。1曲目は、『To (melt into)』の1曲目同様「永遠の複製」だ。メンバーの背後から強く当たる緑のライトで顔が見えにくい。小林が平熱気味に歌い、マツモトのギターが楽曲を泳ぐ。今2作の特徴である、少ないコード進行にして最大限のドラマティックさが堪能出来る同曲。続く「瓦礫の上で」では、前曲のメランコリック性に哀愁を加え、「はじまりの教会」では、音の抜き差しによるドラマ性に対し、小林は歌でアクセントをつけ、最近の彼らの特徴とも言えるシュ―ゲイズな曲を連発する。
曲の終わりで小林が「どうもありがとう」とポツリ。些少の間の後、続いてシングル「(Two) into holy」からのナンバー、「小声は此岸に響いて」に。まどろむような空間の中、小林が優しく柔らかいボーカルを乗せる。話を新作に戻すと、今回の2作品は、全て同時期に制作されながらも、それぞれに違った世界観を持った作品。まず、ミニアルバム『To (melt into)』は、激しさの向こうに辿り着いた静けさというか、ずっと微熱が続いていき、気づけば低温火傷をしているような、各曲の美しさと気高さと、どことない諦念と狂気が見え隠れする9曲。対するシングル「(Two) into holy」は、4曲という枠の中で、今までの彼らに無かった極端な部分が現れた作品。非常に優しかったり、エフェクティブだったり、大河的であったりを、作品性を優先に起承転結で見せてくれ、どことなく浄化作用を持っていた。そして、それぞれが今までと明確に違っていたのは、そのダイナミズム。ここでは、それらにトーンを合わすように、これまでの曲も過去とは違った趣きを見せる。徐々に体温を取り戻すかのような「アマレット」、「こわれる」での、ようやく現れた激しさに於いても、従来性を持ちつつも、その辺りのアップトゥデイトも伺えた。
ライヴ中盤に入ると、最近のライヴならではの光景が。「夢のあと」「終わらない境界」では、ギターのマツモトがキーボード(マイクロサンプラー)を務め、「philica」ではこれまで以上のポップさが見られた。そして、全体的には以前のノイジ―でオルタナ、時にヒステリックなギターに対し、シンフォニックにエフェクティブ、逆にノイジ―を通り越した美しささえ感じるギター音も多く見られ、吉木のドラムも、以前の緩急慌ただしい展開に対し、8ビートを基調とした比較的どっしりとしたドラミングを基本に、それらにバリエーションをつけるように、静激を加えるものも目立った。また、高松のベースも、ループ、ダウンピッキング、ウネリと、グル―ヴを自在に操り、特に「dnim」での、激しさと穏やかさのコントラストの中、あえて一本、本質を守るべくのダウンピッキングは、
まさに彼ならではを感じさせた。
ライヴも後半。背後から神々しく照らされる白色ライトの中、フロントの3人が一列に並びプレイされた「彼岸で散る青」、青色のライトの中、会場が徐々に体温を取り戻していくかのように響き、みなをとてつもない高みへと誘った「holy」等、装飾面でも、楽曲の世界観を更に情景豊かに演出し、みながステージを崇高なものへと引き上げていく。アンコールは2曲。それぞれニューシングルからの曲で、これまでの彼らのライヴには無かった趣きを見せてくれた。「melt」は、シガー・ロスのヨンシのような音楽的世界観と、まるで遠い記憶でも呼び起こすような小林の歌声をエフェクト化し、リアルサンプリングでループ。そこに乗る、初めて見たマツモトによるハーモニカと、これまた初めての試みとなる、彼らのこれまでのジャケット一切を手掛けるイラストレーターtobird手による絵を動画化したものをメンバー越しにステージ背後へと投影。穏やかで優しく、柔らかくとろけるような、ジワジワと至福感が、会場を包んでいった。そして、これも自分的には初体験。ワンマンにして、ゲストにART-SCHOOLのギター戸高、LOSTAGEのドラム岩城を加え、ツインドラム、ツインギター、マツモトはカオシレーターを、高松はベースとタムを叩き、この6人にて黄色を基調としたライトの中、「再生の朝」を再演する。フロアタムを中心としたツインドラムと2コードでの上昇感が会場を覆い、ラストの一丸となった巻き込み感は圧巻。会場をグイグイとその歌世界へと惹き込んでいく。最後は会場全体が神々しさに包まれ、ステージも発光。ラストは誇らしげに小林がジャズマスターを掲げ、その残響音の残る中、ステージの終わりを告げた。
【 取材・文:池田スカオ和宏 】
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リリース情報
セットリスト
- 永遠の複製
- 瓦礫の上で
- はじまりの教会
- 小声は此岸に響いて
- アマレット
- こわれる
- ニールの灰に
- 夢のあと
- Philica
- sea’s sweep
- 終わらない境界
- 日々の剥製
- dysphoria
- dnim
- 彼岸で散る青
- holy Encore
- melt
- 再生の朝