11月18日、日曜日、渋谷・NHKホールで矢井田瞳HALL TOUR2012”panodrama”の初日公演が行われた。開演直前、会場に響き渡った「ヤイコー！」の声援の大きさと言ったら！この日を待ちに待った、そして彼女の音楽を楽しみにしていたオーディエンスの幸せな歓声の中、本当に嬉しそうな表情を浮かべた矢井田瞳が登場した。
　1曲目は、今回のツアータイトルにもなっているニュー・アルバム「panodrama」のタイトル曲を弾き語りで、リラックスしたムードの中で披露。イントロに合わせ「ハロー東京！」と歌いながら始まったのは、同じくニュー・アルバムから「間違いだらけのダイアリー」。ここからは4人のバンドメンバーとともにアップテンポなナンバーで盛り上げていき、ダイナミックなロック・サウンドや繊細なハーモニーを織り交ぜながらオーディエンスの心をグイグイ引き込んでいった。

「”panodrama”ツアーへようこそ！今日は記念すべき初日ということで、めちゃめちゃ楽しみにしてました。今日はみなさんと楽しい夜を作れたらと思ってるんで、最後までよろしくね！」

　客席からの呼びかけやリアクションに笑顔で応えながら、ステージとの距離をひょいっと飛び越えてしまうようなMC。何気なくてさり気ないんだけど、彼女のライブはこういうやり取りのひとつひとつが本当に気持ちいい。一緒に音楽を作って、一緒に楽しもうというあたたかい空気に包まれたところで流れてきた「Buzzstyle」や「I’m Here Saying Nothing」は、もちろんイントロから大歓声。彼女もエレキギターをかき鳴らす。みんなの手拍子もすでに曲の一部となっている。美しいピアノの音色に合わせて静かに歌い始めたバラード「サヨナラありがと」も圧巻。ボーカリストとしての表現力や熱をしっかり伝える、前半戦のハイライトだった。
　中盤はアコースティックでじっくりと。「私の楽器、どんどん小っちゃくなっていってる」と笑いながら、アコギからエレキへと持ち替えてきた彼女の手にはかわいいウクレレが。「ギターの(久保田)光太郎さんに「ウクレレやってみれば？」と勧められたのがきっかけで、まんまと出来た1曲(笑)」だという「恋の魔法瓶」は、想い合う２人の関係性を女の子の目線で描いた愛らしいナンバー。客席からの手拍子とともに、ほのぼのあったかい時間を作り上げた。続く「時つ風」は、セットリストを考えていた時にツイッターで見た「久しぶりに聴きたいです」というリクエストを受けて選曲されたそうだ。

「今年もあと40日ぐらい。あっという間でしたが、いろんな経験が出来たありがたい１年でした。来年はもっと録って出し(笑)？とか、いろんな方法を試しながら音楽を放っていきたいなと思ってるので、来年も宜しくお願いします」

　活動再開後はかなり精力的な動きが続いてきたが、来年は何やらもっと面白いことになりそう！短いMCに続いて、ニュー・アルバムから「いつかはLOVE SONG」がアコースティック・バージョンで披露されたのだが、先ほどの「録って出し」ではないけど、きっとこの歌が生まれた時はこんな感じだったのかな…と思わされるような仕上がり。ホームメイドなムードがなんとも幸せな1曲だった。
　アッパーなナンバーで駆け抜けた後半戦の口火を切ったのは、一瞬「何の曲!?」と思わせるようなオルガンの音色。ゴスペルのような響きの中で歌い出したのは「B’coz I Love You」だ。斬新な仕掛けに会場のテンションもMAXとなり、そのままギターソロがたまらなくカッコよかった「何もやりたくない」、コール＆レスポンスを楽しんだ「ガチャリントン」、そして間髪入れずに「My Sweet Darlin’」へ。そこからキュートなパンクテイストを盛り込んだ「ママとテディ」?「もしものうた」へと続いたこの流れには、ステージと客席、ピッタリ息の合った両者だからこその最強なグルーブが生まれていたように思う。「もっと歌ってー！」という客席からの熱烈なコールの中、本編ラストは、「アルバムの中でも特に大切にしてる曲」だという「よれたハートにアイロンを」で締めくくられた。

「今日はありがとうございました！みんなの最高の笑顔とか見てたらグッと来ちゃいました。毎日それぞれの場所で大変なことも多いと思うし、思いどおりに行かないこととかいっぱいあると思うけど、いいことも悪いことも、自分がした行いは全て返って来ると思うので、丁寧に生きていきたいなあと思っている34ちゃいです(笑)。あなたの生きた人生があなたのメッセージになり、私の生きた人生が私のメッセージになると肝に命じて、日々生きていけたらなと」

　ちょっとだけ照れ隠しの笑いも挟みつつだったが、今回のアルバムに込めた思いであり、そして、この先をどう生きていくかという自分自身についての思いを伝えたアンコールでのMC。そんな思いを集約した「MY LIFE IS MY MESSAGE?始まりの靴音?」をこの日一番の晴れやかな笑顔で歌い終えると、会場からは「感動」という熱が目に見えるような熱い拍手が寄せられた。清々しくて、愛らしくて、芯のあるライブ。清々しい気持ちの残る、素晴らしいツアー初日だった。

【取材・文：山田邦子】