４人になったSPYAIRの初のツアーだ。Zepp Tokyoの満員のフロアは４人への期待が不安を軽く上回り、声援が真っ直ぐにステージに飛ぶ。と、ステージの照明が真っ赤に変わり、サイレンが鳴り始めた。異様な興奮の中、メンバーが登場。KENTAが間髪入れずに、ハイハットを叩いてカウントを出す。サイレンが鳴り響く中、始まった１曲目は新曲「BOOM」だ。新曲にも関わらず、オーディエンスは両手を上げて一緒に歌い出す。IKEが「トーキョー、踊れ?！」と叫ぶ。いきなりアンコール並の盛り上がりだ。スタジオでずっとハードな制作の日々を送っていたから、４人はライブをやりたくてウズウズしていた。そしてそのウズウズが解き放たれたツアー“SPYAIR TOUR 2013 サクラミツツキ”のファイナルとなれば、エネルギーの爆発はいよいよ早まる。一気に４曲、そんなバンドの状態が全開のオープニングだ。「Rock’n Roll」のイントロでは、IKEが「トーキョー、ただいま！　ライブに来てくれて、どうもありがとう。今日は難しいことなしにして、遊んじゃおうよ」と短くメッセージを飛ばす。IKEのボーカルとUZのギターがイーブンに主張するのが、バンドらしいむき出しのロック・スピリットを感じさせて、まさに４人になったSPYAIRの覚悟を表わしていた。

　メロディアスな「WENDY ?It’s You?」を、オーディエンスと大合唱する。リズムが８ビート、レゲエなど目まぐるしく変化するが、演奏は以前よりずっと安定している。何より、オーディエンスにDJ ENZEL☆の残像を探す気配が感じられない。武道館を最後にバンドを離れたDJ ENZEL☆は、ライブでオーディエンスをリードする役割を担っていた。が、今回のツアーではオーディエンス自身がその役割を積極的に果たし、SPYAIRのライブは次のステップへ進化したのだと実感する。

　「ツアーで経験した大変なこと、嬉しいことを、次の曲に込めます。一緒に歌ってください」とIKEがMCをまとめて、「BEAUTIFUL DAYS」へ。

　後半は「0 GAME」、「Break Myself」などアッパー・チューンで攻めまくる。もしこのライブで注文があるとすれば、こうしたキラーチューンで“音圧”が足りないことだろう。プログラミングされたトラックを並走させるSPYAIRのライブ・サウンドは、完成度は高いが人間の呼吸と相反する要素も含まれてしまう。感情をダイレクトに伝えるには、まだまだ工夫が必要なのだ。それでもラストのツアー・テーマ曲「サクラミツツキ」は、名曲揃いのSPYAIRの中でも際立って感動的だった。

　「ヘイヘイ、サムライハート！」というアンコールを求める声がZepp Tokyoのフロアを満たす。その声に包まれてメンバーが再び登場すると、IKEが「これからもCDとライブを大切にやっていきます。俺らは命を懸けてCDを作ってます。でも今、CDがゴミのように扱われている。だからこそ心を込めて歌います」と言って、ニューシングル「虹」を歌い始めた。♪誰とだって　繋がる世界で　求めあって　傷をうまくふさいでる♪と意味深いリリックが発せられる。IKEの歌の力強さを、UZのギター、MOMIKENのベース、KENTAのドラムがしっかりと支える。現時点でのSPYAIRのベストが、この曲にあった。

　SPYAIRは昨年の夏、初の武道館に向けて、SHAKALABBITSなどの先輩たちに胸を借りるイベント“真夏の３番勝負”を開催した。「今年は同世代バンドと“真夏の３番勝負”をやります」とIKEが発表すると、大きな歓声が上がる。走り続けるバンドと、一緒に走るオーディエンスが歓びを分かち合った瞬間だった。

　ラストはお待ちかねの「サムライハート(Some Like It Hot!!)」。オーディエンスがタオルをめいっぱい振り回して、ライブは最高潮を迎える。が、終わるとIKEが大声で叫ぶ。「ファイナル、こんなんじゃ終われねぇ。もう１曲、いけるかぁ？　今、持ってるモン、全部出せよ！」。最後の最後はメジャー・デビュー・シングル「LIAR」に収められていた「SINGING」。♪君と僕が　出会ったキセキの呪文を♪という歌詞に込めた思いが蘇る。４人のSPYAIRが迎えた初めてのツアー・ファイナルは、予想を遥かに超えるインパクトを音楽シーンに与えたのだった。

【取材・文：平山雄一】
【撮影：石井亜希】