BUMP OF CHICKEN、その一瞬に全力を賭した初スタジアム!
BUMP OF CHICKEN | 2013.08.22
BUMP OF CHICKENが7月にリリースした、デビュー13年目にして初となるベストアルバム『BUMP OF CHICKEN I[1999-2004]』と『BUMP OF CHICKEN II[2005-2010]』。本作のリリースを記念するスペシャルライヴは、これも彼らにとって初のスタジアムワンマンライヴとなった。また、この日のライヴの模様はYouTubeを通じて生配信され、これまたバンド史上初の試みであった。つまり、何もかもが初めて尽くしの、まさにスペシャルライヴと言うべきものだった。こういった背景からも、バンドがいまリスナーと積極的に新たなコミュニケーションを図ろうとしていることが伝わってくる。
茜色に染まる空の下、QVCマリンフィールドに開演前のSE「ボレロ」の威風堂々とした旋律が響き渡る。スタジアムを埋め尽くした約3万5千人のオーディエンスの視線は、これから始まるライヴの期待と昂揚をたたえて、大きなステージに向けられていた。蒸し暑い空気を撫でるように吹く海風が、夏の野外、それもスタジアムで彼らの音楽を体感できることの喜びを静かに煽る。
開演予定時間の18時30分を過ぎ、「ボレロ」に合わせたオーディエンスのハンドクラップが次第に大きくなっていく。スタジアムの熱量が右肩上がりに上昇していくなか、客電が落ちる。すると、ステージに升秀夫(Dr)が現れ、それと同時にオーディエンスから大歓声が上がる。升が叩くトライバルビートに乗って、増川弘明(G)、直井由文(B)、藤原基央(Vo・G)がひとりずつ登場し、オーディエンスの歓声が咆哮と呼べるものに変わると、爆発音とともに放たれた銀テープが舞い上がり、1曲目「Stage of the ground」へ。オーディエンスの腕に付けられたLED照明内蔵のリストバンド=ザイロバンドが七色に輝き、スタジアム全体が美しい光の集合体となる。大地を力強く行進するようなバンドサウンドによって、広大なスケール感に満ちたロックソングの像が鮮やかに際立ち、オーディエンスを包み込む。
「firefly」では、“蛍の光”を思わせるライトが中で瞬く何十個ものチームラボボールがアリーナを浮遊し、光彩に包まれたギターのアルペジオを中心に走り出すアンサンブルをよりドラマティックなものにした。「firefly」と同じく“wow wow wow”というコーラスが印象的にフィーチャーされた新曲「虹を待つ人」は、疾走感に富んだダンサブルなバンドサウンドに煌びやかなシンセやプログラミング音が融和する清新なサウンドスケープが広がった。多くのオーディエンスが胸を熱くしながら、噛み締めただろう。これが、BUMP OF CHICKENの比類なき音楽力だと――。
最初のMCで直井はこう言った。
「僕らBUMP OF CHICKENは、今日が最初で最後のつもりでライヴをやるので。ここにいる一人ひとり、(YouTube配信を視聴している)画面の前で観てくれている一人ひとりに全力で届けるので。明日が当たり前に来るなんて思ってないし、また次もライヴできるなんて思ってないんで。だから、いまこの瞬間、全力で燃えるから、最高のライヴにしようぜ!」
そう、彼らはいつも“これが最後のライヴになるかもしれない”と本気で思っている。常に“一瞬のいま”という究極のリアリズムを追いかけ、描き、鳴らしてきた彼らの気概こそが、かけがえのないライヴの記憶を作る。
また今回はベストアルバムのリリース記念ライヴということで、特にそういう傾向が強かったのだが、曲と曲の流れが間断なく繋がれていくのではなく、1曲の演奏が終わるごとにしばらく時間を置いてから次の曲にいくことが少なくなかった。普通ならそこでどうしてもオーディエンスの集中力が下がってしまうものだが、BUMPのライヴにはそれがない。音が鳴っていないときでも、常にある種の緊張感が会場を支配している。バンドが次に鳴らす曲をオーディエンスは固唾を飲んで待っている。いわば緊張感を帯びた空気こそが、曲と曲を繋いでいる。それは、紛れもなく各楽曲の独立した求心力がもたらすものである。そんなことをあらためて強く感じたライヴでもあった。
藤原が「懐かしい曲をやります!」と言って鳴らされた「K」、本編ラストの「天体観測」、そしてアンコールの「ガラスのブルース」は、BUMP OF CHIKENがこの13年間、一心不乱に紡いできた物語の原点をまざまざと見せてくれた。そこにいる誰もが、これからもその続きをつぶさに追いかけたいと思ったはずだ。
【取材・文:三宅正一】
【撮影:TEPPEI】
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