レビュー

BUMP OF CHICKEN | 2020.11.19

 この世のすべてなどもちろん知っているわけもないから断言はできないけれど、おそらく変わらないものなんて何ひとつないのだろう。空の色も、雲の形も、川の流れも一定を保ってはいないし、人の体も、その心だって、良い/悪い、望む/望まないに関わらず、どんどん変わる。今日が昨日と同じではないように、今日と同じ明日も来ない。変わってほしいこともあれば、変わらないままでいてほしいものもあるけれど、結局のところ、ありとあらゆる物事はちっぽけな想いとは無関係にただただ変わっていくのだと思う??って、なんでこんなことを書いているかと言えば、BUMP OF CHICKENについて考えているからだ。千葉県佐倉市出身の幼馴染み同士で結成したバンドが今や国民的と呼んで差し支えないほどのポピュラリティを獲得したことを鑑みれば、当然ながら変化していないはずがない。事実、彼らが新しい音楽を届けてくれるたび、あるいは、ライブハウス、ホール、アリーナ、ドーム、ついにはスタジアムと目に見えてスケールアップする会場で彼らの音楽に触れるたび、その成長と進化に目を見張らされてきた。なのに、その一方でBUMP OF CHICKENはいつだって揺るぎなくBUMP OF CHICKENであり続けていて、そこに矛盾を感じさせない。それは新曲「アカシア」「Gravity」においても同様だった。

 11月4日にダブルA面シングル「アカシア/ Gravity」としてパッケージリリースされたこの2曲、どちらも9月に先行配信されており、「アカシア」はポケモン公式YouTube チャンネルにて9言語の歌詞字幕付きで全世界一斉公開されたポケモンスペシャルミュージックビデオ『GOTCHA !』のテーマソングとして、「Gravity」はアニメーション映画『思い、思われ、ふり、ふられ』の主題歌としても大きな話題となっているから、すっかり耳に馴染んだという人も多いだろう。全世代のポケモンファンを感涙させた『GOTCHA !』、そのアニメーションに凝縮された長い歴史と世界観に寄り添ってキラキラと力強く伴走する「アカシア」の開かれたサウンドは彼らの王道と言っていい。硬質な輝きを放つグロッケンシュピールの音色が印象的なイントロから、伸びやかなバンドアンサンブルとその核となっていっそう太さを感じさせる藤原基央(Vo/Gt)の凛とした歌声がじわじわと熱量を携えてサビで一気に迸る。この晴れ晴れとしたカタルシスはまさにBUMP OF CHICKENならではのものだろう。なのに既視感(音楽だから既聴感だろうか?)は不思議とないからバンプ恐るべし、なのだ。<魂がここだよって叫ぶ><どこまでも一緒にいけると><魂がここがいいと叫ぶ>、3回訪れるサビの中でグッとハイトーンで歌われるこれらのフレーズや、歌詞には記されていないけれど「Foo Foo Foo...」と差し挟まれるコーラスは実に新鮮で、さらには、今や藤原基央の代名詞と化したかのごときあの有名なシャウトをコール&レスポンスに仕立てて最大級に楽曲を盛り上げる豪腕なセンスにも唸らされてしまった。これをセルフパロディと捉えてニヤリとするもよし、音源と一緒になって声を上げるもよし。きっと彼らはそんなことなどお構いなし、誰よりも楽しんで作っていたに違いない。

 「Gravity」は、「アカシア」とは対照的なミディアムバラードだが、こちらもとてもBUMP OF CHICKENらしい曲だ。<帰ろうとしない帰り道><空を割る夕方のサイレン><給水塔の下 あれは蝙蝠>と独特にして的確な言葉で切り取られた情景、<君の影の 君らしい揺れ方を/眺めているだけで 泣きそうになったよ>の2行からは“君”の佇まいがありありと立ちのぼる。切なさと温かさを同時に滲ませる藤原基央の繊細な筆致はこの「Gravity」にも健在で、それが淡々と紡がれる柔らかな音像に重なったときに胸の奥に残るこの上ない余韻も、これぞBUMP OF CHICKENだろう。それでいてどこか新しさを感じるのは、特にAメロ、Bメロに顕著な打ち込みのリズムトラックが醸し出すあえての抑制感が効いているからだろうか。それにより却って歌に宿る叙情性やアコースティックなギターの音色、心の深いところを縫うようなベースラインといった生身の部分がブーストされて、よりパーソナルな手触りとこれまで以上の包容力が音像全体から感じられる。歌詞の中にいる“君”と“僕”はこの先、別々の道を選ぶのかもしれない。でも、たとえそうだったとしても今をなくすことはしない。一緒にいてもいられなくても君の明日を願っていたい。そんなささやかだけれど大きな想いが詞曲・歌・演奏の三位一体となって聴き手を包み込むのだ。おそらく前作アルバム『aurora arc』と、それをもって全国のライヴハウスとドームを行き来したツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark」で掴んだものも、この包容力を生む要因のひとつとなっているだろう。そこに何があったのかは、今シングルと同時発売されたライブ映像作品『BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark TOKYO DOME』でぜひ確認してみてほしい。

 成長・進化しながらも変わらずBUMP OF CHICKENはBUMP OF CHICKENを更新し続ける。それってなんだか希望だなあと、ただただ変わっていくこの世の隅っこでそっと思ってみたりする。

【文:本間夕子】



【Official】Pokémon Special Music Video 「GOTCHA!」 | BUMP OF CHICKEN - Acacia
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BUMP OF CHICKEN「Gravity」

リリース情報

アカシア/Gravity [アカシア盤]

アカシア/Gravity [アカシア盤]

発売日: 2020年11月04日

価格: ¥ 2,000(本体)+税

レーベル: Toy’s Factory

収録曲

[CD]
01.アカシア
02.Gravity

[DVD]
ポケモンスペシャルミュージックビデオ「GOTCHA!」

[グッズ]
ポケモンスペシャルラバーキーホルダー・ステッカー

リリース情報

アカシア/Gravity [Gravity盤]

アカシア/Gravity [Gravity盤]

発売日: 2020年11月04日

価格: ¥ 2,000(本体)+税

レーベル: Toy’s Factory

収録曲

[CD]
01.Gravity
02.アカシア

[DVD]
BUMP OF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark Zepp Osaka Bayside Select Live
01.シリウス
02.車輪の唄
03.ダンデライオン
04.リボン
05.ガラスのブルース

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