今年3月に初のライブ映像作品『BUMP　OF　CHICKEN　GOLD　GLIDER　TOUR　2012』を発表。さらに7月には、やはり初となるベストアルバム『BUMP OF CHICKEN I [1999-2004]』『BUMP OF CHICKEN II [2005-2010]』をリリース。そして8月にはベスト盤の発売を記念して、スタジアムライブをQVCマリンフィールドで開催。新たなトライを重ねることで、ロックバンドとしての可能性を広げるとともに、さらに幅広いリスナーを獲得しつつあるバンプ。その充実ぶりは、この日のライブ――全国ツアー「BUMP OF CHICKEN　2013　TOUR "WILLPOLIS"」、横浜アリーナ公演――からもダイレクトに伝わってきた。

　最初に心に残ったのは、『ALWAYS三丁目の夕日』『永遠の０』などで知られる映画監督・山崎貴氏によるオープニング映像。前回の「GOLD　GLIDER　TOUR」の世界観をスケールアップしつつ引き継いだ内容になっていて、“この４人のストーリーが続いていく”というイメージをしっかりと与えてくれるのだ。どこか神話的な雰囲気を持つ彼らの楽曲との親和性も、さらに高まっていたと思う。

　４人が生み出すアンサンブル／パフォーマンスも、前回のツアーよりも大きく向上していた。まず印象に残ったのは、配信限定でリリースされた最新曲「虹を待つ人」。煌びやかな光を放つギターフレーズ、心地よい高揚感を生み出すリズムセクション、《そのドアに鍵は無い／開けようとしないから　知らなかっただけ／初めからずっと自由》という、リスナーの存在そのものを根本から励ますようなリリック。この曲がもたらした祝祭のムード、そして、藤原基央の「横浜！」というシャウトをきっかけにした観客の大合唱は、この日のライブの最初のクライマックスだった。

　また、彼らのメジャーデビュー曲である「ダイヤモンド」も本当に素晴らしかった。独特のブルーズ・フィーリングと圧倒的なダイナミズムをたたえた藤原のボーカル、アンサンブルのボトムを支える直井由文のベース、歌のメロディを際立たせる増川弘明のギター、ステージと客席の一体感をナチュラルに引き出す升秀夫のドラム。時代や流行に左右されない普遍性を備えた楽曲を、プレイヤーとしてさらなる成長を果たした４人が強い気持ちを込めながら演奏する――このシーンが伝えていたのは、メジャーデビューから13年が経過した現在も、このバンドの音楽がしっかりと進化を続けているという事実だろう。

　もうひとつ記しておきたいのは、BUMP OF CHICKENはオーディエンスに対して、常に”１対１”で向き合う姿勢を持っているということ。観客全員に配布されたザイロバンドが楽曲の雰囲気やテンポに合わせて点滅したりする演出や、大規模なライティングシステムおよび壮大な映像などを含め、これまででもっともエンターテインメント性を高めた今回のツアーだが、その根本にあるのは“観客ひとりひとりに向けて、まっすぐに曲を手渡すんだ”という強い意志。どんなに大きなバンドになったとしても、ファンに対する誠実なスタンスは決して失われない。だからこそ彼らは、こんなにも強烈な支持を集め続けているのだと思う。

　そしてライブ終盤、藤原は観客に向けてゆっくりと話しかけた。いまも曲を作っていて、早くみんなに聴いてもらいたいと思っていること。少しでも「おっ！」と思ったら、ぜひ耳を貸してほしいし、またライブに来てほしいと思っていること。誠実に言葉を紡ぎ出す藤原の姿を見つめ、必死に歓声を送るオーディエンスを見ていると、「こんなにも強いきずなを感じさせるバンドは、他にはいないだろうな」と改めて感じた。

　すべての楽曲を演奏し終わった後、メンバーはステージを降り、ファンと積極的にコミュニケーションを取った。ハイタッチや握手を交わし、ペットボトルやピックを手渡し、声をかける。この日、横浜アリーナに足を運んだすべての観客は、このバンドと出会えたことを心から誇りに思ったことだろう。

　10/12（土）は宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ、10/16（水）は大阪城ホール、10/24（木）は北海道立総合体育センター　北海きたえーるでの公演を開催。10/28（月）、29（火）には初の日本武道館ライブを行い、このツアーはファイナルを迎える。初めてのトライを重ねた彼らはきっと、今までに見たこともないような光景を実現してくれるはず――その瞬間を心待ちにしていたいと思う。

【取材・文：森朋之】
【撮影：古渓一道】