Salyu×小林武史ホールツアー、“minima”なセットで音が“凝縮”されたステージ
Salyu | 2014.07.08
minima――“最小の”という意味の形容詞“minimal”の名詞、複数形だ。この言葉をタイトルに掲げ、ホールツアー<a brand new concert issue "m i n i m a " - ミニマ - Salyu × 小林武史 vol.2>を展開してきたSalyu。そのファイナル公演が、6月20日(金)、NHKホールで開催された。
開演前。さざ波のようなざわめきが、NHKホールに漂っていく。暗いままのステージには、うっすらとセットが見える。メインはSalyuのマイクと椅子、そして小林武史氏のピアノ。他には楽譜台、ドリンクやタオルを置くテーブル、テーブルの上や小林氏のピアノの前にアンティークなライト。想像以上に“ミニマ”なセットだ。落ち着いて開演を待つ客席が、スーッと暗くなっていく。暗転。拍手。ステージ上に2人が出てくる。彼女の名を叫ぶ声。会場の空気が変わる。観客の耳が、彼女に集中していく。彼女の声に集中していく。
オープニングを飾ったのは「SCAT」。タイトル通り、彼女の声が自在に跳ね回る1曲だ。その奔放な声に、小林氏がピアノを合わせていく。静寂の中に波打つピアノの上で、咆哮するSalyu。彼女のスッというブレスさえも、この楽曲の一音だ。一見(正確には、一聴ですね)、インプロビゼーション色の強い楽曲で、2人がフリーでセッションしているように聴こえる。しかし、曲が進むにつれ“じつは、相当練られた楽曲なんじゃないか”と思わせるあたりに、Salyu×小林武史の関係性を垣間見た気がして、この日、これから繰り広げられる“ミニマ”の深淵に、胸の奥がざわついた。
「messenger」などじっくり数曲を聴かせた後、この日最初のMC。挨拶した後、本年デビュー10周年を迎えたことに触れ、観客やスタッフに素直に感謝の気持ちを述べ、深々と一礼した。そのSalyuの姿に、観客と一緒に拍手を送る小林氏。Salyuが話を続ける。話題はSalyuとしてのデビュー前、リリィ・シュシュ時代のことへ。Salyuが「まだ高校生でした」と言えば、小林氏が「そうだったね、彼女の制服、観たことありますから」と返す。他愛もない会話に、2人の年月が滲み出る。
リリイ・シュシュの楽曲から「エロティック」。間奏で、原曲の雰囲気を濃縮したようなサイケな展開を強く打ち出してきて、メリハリをつける。星のかけらが顕微鏡の細胞に変わっていくような、抽象的な映像が印象的だった「飽和」。そして続いたのが「飛べない翼」だった。小林武史のピアノ、Salyuの声が、響いていく。それぞれ独立して。そして、余韻のゆらぎの中で、スッと寄り添っていく。最初は小林氏が声に寄り添う。そして次にはピアノにSalyuが近づいていく。ちょっと大げさに言ってしまえば、お互い音を鳴らしていないところで寄り添おうとしている感じ。そのために、しっかりゆらぎまで意識して音にしているというか。Salyu×小林武史というスタイルじゃなかったら、絶対に気が付かなかったことだと思う。驚きと心地よさが、同時に降り注いでくる。これがミニマの深淵か。
中盤。小林氏の“Piano Solo Medley”をはさみ「HALFWAY」、「体温」「夜の海 遠い出会いに」。Salyuが、曲に合わせ、次々と声の中の人格を変えていく。例えば「HALFWAY」は、春風を楽しむ朗らかな少女。例えば「体温」は、まどろみの先の闇を感じる青年。例えば「夜の海 遠い出会いに」は、夜の向こうに光を、海の底に生命体を見出そうとしている人間。最後は産まれてくる赤ちゃんの産声か。
リリイ・シュシュとして声だけで世の中に放たれ、誰もが絶賛したその声を看板にデビューし、10年間その声を背負ってきたSalyu。彼女の真髄が、彼女の強さが、観客の気持ちや日常、そしてそれぞれの歴史を飲み込んでいく。観客は、Salyu×小林武史の空間に、安心して身をあずけていく。
この“安心して身をあずけられる感じ”こそ、Salyuクオリティー。彼女だからこそ成立する空間だ。
MC。Salyuが「ここで1度もやったことない歌を」と告げる。「皆さんに楽しんでいただくために、新曲を」と小林氏。彼は曲について、こう言葉にした。
「ツアーの曲を考えているうちに出てきて、Salyuにサスペンスというか現在過去未来を行き来するような、アンドロイドのようで生身の人間のような……。リリイ・シュシュを大人にしたような。僕なりにそんなイメージ、そういう歌が、今のSalyuにいいんじゃないかなと思って作りました」
タイトルは「リスク」。リリースも未定だという新曲は、スリリングでクールで、スパニッシュ風味もあり。4つ打ちのリズムも特徴のアップチューンだ。ステージバックのスクリーンに歌詞が映る。チャプター、メモライズ、ギャンブラー……と言った片仮名が目立つ歌詞も、曲調も、これまでの彼女のレパートリーにはあまりなかったタイプだろう。
マイペースながら、いつでも次の歌のことを考え、チャレンジし、前進してきたSalyuに、ふさわしい1曲だと思った。
本編最後は、最新シングルから「アイニユケル」。繊細さと包容力。この相反する人間性をSalyuの声が自然につなげた名曲だ。Salyuと小林武史氏は、この日、1番丁寧に、この曲を届けた。2人の才能豊かな表現者が、音楽を介して、観客と真摯に向き合ったその姿に、会場はピクリとも動かず聴き入っていた。
アンコール。「期待をし続ける人がいたから、続けてこれたんだと思います。ありがとうございます。10年、何度も何度も歌わせていただいた歌を歌います」と「to U」。続いて「回復する傷」を歌い、ラストは「Lighthouse」。
この曲と、Salyuのこの言葉とともに、この日のライヴは幕を閉じた。
「この曲は、船出の歌です。皆さんの人生の旅路、航海が、ますます開いていきますように。そのような願いを込めて演奏させていただきます。今日は本当にありがとうございました」
【取材・文:伊藤亜希】
【撮影:Taku Fujii】
関連記事
-
Salyu
デビュー10周年のSalyuが中野サンプラザで一夜限りのプレミアムライブを開催。声にこだわり、歌に捧げた10年間の集大成として、Salyuはその才能のすべてを解き放った!
-
Salyu
Salyuの両A面シングル『アイニユケル / ライン』は共に映画主題歌の書き下ろし。「再生」というテーマが浮かび上がる2曲は、今年10周年を迎えるSalyuにふさわしい希望のうた。
-
Salyu
Salyuは言った。「音楽が大好きなみんなと、音楽が大好きな私達と、この空間を共有できるのが嬉しい」と。全国ツアー最終日の様子をレポート
-
Salyu
2012年、Salyuが光のようなポップ・ミュージックのダイナミズムをもってリスナーを照らし、包み込む4thアルバム『photogenic』リリース!
-
Salyu
「世界観が新しいアート」。桜井和寿が作詞/作曲を、小林武史がプロデュースを行なった、Salyuのニューシングル「青空/magic」がリリース!
リリース情報
お知らせ
FM802 HOLIDAY SPECIAL 和歌山マリーナシティ presents SEASIDE PEASURE
2014/07/21(月・祝)和歌山マリーナシティ
ピアノと謳う。 ~原田郁子 × salyu × 畠山美由紀~
2014/07/26(土)日比谷野外大音楽堂
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2014 in EZO
2014/08/15(金)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
音霊 OTODAMA SEA STUDIO 2014 Salyu×moumoon
2014/08/28(木)音霊 OTODAMA SEA STUDIO
Slow Music Slow LIVE ’14
2014/08/29(金)東京 池上本門寺・野外特設ステージ
New Acoustic Camp 2014
2014/09/13(土)、14(日)群馬県利根郡みなかみ町 水上高原リゾート200
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。