10周年のSalyu、映画主題歌の両A面『アイニユケル / ライン』で希望を歌う
Salyu | 2014.03.17
- EMTG:まず、「アイニユケル」が主題歌となっている『家路』という映画を観て心を動かされたのは“人の覚悟”に対してでした。この映画の主題歌を歌うことになった際、Salyuさんの中には、どのような覚悟がありましたか?
- Salyu:3.11の震災以降。復興を祈る思いで歌ってきたことはあっても、震災それ自体を、具体的な表現の対象として歌うということは初めてのことでした。初めて、ということで戸惑う自己とも向き合いましたが、映画のオフライン(※本編集前の予備編集段階の映像)を見させていただいて、この物語の根底に流れるメッセージに賛同したいと思いました。“覚悟”と表現してよいかわかりませんが、素直に『家路』というエネルギーに私も向き合いたいと思いました。
- EMTG:映画『家路』の中で、最も“人間の生命力を感じた”シーンはどこでしたか?
- Salyu:ラストシーンです。痴呆の進行していた母が、生き生きと田植えを始める。そして主人公の微笑。人間という生き物の全力を強く描いていると思います。
- EMTG:映画『家路』には、知らなかった真実がたくさんありました。Salyuさんはこの映画を観て、どのような感想を持ちましたか?
- Salyu:世界の中心を、もう一度自分の内側に取り戻す作品だと感じました。
- EMTG:そんな『家路』の主題歌である「アイニユケル」、この曲を歌うにあたり、イメージしたのはどんなことだったのでしょうか?
- Salyu:素直という強さ。迷いのない自己。あとは劇中のセリフ、言葉の扱われ方に丁寧さを感じたことから 言葉をより意識して歌いました。
- EMTG:楽曲の表情がダイナミックに変化するアレンジも印象的でした。ボーカルのアプローチなど、意識して変えられたのでしょうか?
- Salyu:そうですね。“次第に膨らんでゆく”という展開が要でした。プロデューサーとも相談して楽曲のダイナミクスは考えていきました。
- EMTG:Salyuさんが「アイニユケル」を歌う時、イメージすること、考えることは?
- Salyu:空。上に響かせてゆくイメージです。
- EMTG:2曲目の「ライン」が主題歌となった映画『ゆるせない、逢いたい』ですが、高校生である主人公の日常がとても丁寧に繊細に描かれている作品だと感じました。Salyuさんはこの作品を観て、高校時代について何か思い出したことはありましたか?
- Salyu:学生時代、”狭い社会”という現実に、守られていたこともあったのだと感じました。
- EMTG:Salyuさんがこの作品を観て、最も心を動かされたシーンはどこでしたか?
- Salyu:やはりラストシーンです。問題によって生まれた痛みは消えてなくならないかもしれない。それでも前を向きたい。それは自分のために、そして特別だった相手のために。本当に美しいシーンでした。
- EMTG:自分の中の相反する気持ちをどう受け入れていくのかが、この作品のテーマのひとつだと感じました。Salyuさんが葛藤した時、相反する気持ちを受け入れて結論を出すために大切にしていることは、どんなことでしょうか?
- Salyu:ある先輩に受けたアドバイスで。そういう時は10年後にどうなっていたいかを思うようにしています。10年後、その問題に勝っている自分はどんな自分か。そんな発想から現実の動きを考えだします。
- EMTG:「ライン」のボーカルにはSalyuさんのオリジナリティーが強く表われていると思いました。このニュアンスは歌っていて自然に出てくるものですか?それとも楽曲を聴いて考えたりするのでしょうか?
- Salyu:歌いながら調整していきます。楽曲により、表現に必要な精神年齢もテンションも違う。それを考え込むということはあまりありませんが、レコーディング時に録りながらふさわしい表情を見つけていきます。
- EMTG:「ライン」の中では、どんなニュアンスを出したいと思い歌いましたか?
- Salyu:最終的にボーカルにかなり深いリバーブ(※リバーブレイション、残響のこと)が施されるのが事前にわかっていたから、あまりレガート(※なめらかに切れ目なく歌うこと)になりすぎないようにとは。点をおいていく箇所、思い切り大きく線を描く箇所。ちりばめてあります。
- EMTG:ずばり、Salyuさんが「ライン」を歌う時、イメージすること、考えることとは?
- Salyu:ずばりラインです。線です。短く切るところも含めて、それでも切れていると感じさせない楽曲に対する集中力という線です。
- EMTG:今回の「アイニユケル」「ライン」ともに、映画に寄り添った作品だと思います。映画にとって、主題歌とはどういう存在だと思いますか?
- Salyu:その映画作品への賛同者というイメージです。
- EMTG:デビュー10周年を迎える2014年。シンプルに……今、思うことは?
- Salyu:恵まれた10年。本当に有難いです。
- EMTG:10年前の自分と今の自分。比べて変わってないところ、そして最も変わったところをひとつずつ、教えてください。
- Salyu:自信のなさ、というのは変っていないと思います。ただ、自信がないなりに、何とかしようという瞬発力は少しは鍛えられたように思います。それが変わったところ。
- EMTG:アニバーサリーイヤーのいまSalyuとしてやってみたいことはありますか? 現実的なこと非現実的なこともOKです。
- Salyu:フルオーケストラとの共演で振り返る10年分の楽曲(笑)。
- EMTG: 5月からは「a brand new concert issue “ m i n i m a ” - ミニマ - Salyu × 小林武史 vol.2」という全国ツアーが決まってます。このツアーは、どんなツアーになりそうですか?
- Salyu:ミニマル編成で、音楽の持つメロディーと言葉がよりクローズアップされた形で届くライブであると思います。この10年を象徴する選曲が出来ればと思います。
- EMTG:最後にSalyuさんの10周年イヤーを楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
- Salyu:私に興味を持ってくださり、ライブに足を運んでくださったり、CDを聴いてくださったり、本当に有難うございます。精一杯努めますので、是非ライブに遊びに来てください!
デビュー10周年を迎えるSalyuがリリースした両A面シングル『アイニユケル / ライン』は、両曲ともに映画の主題歌として書き下ろされた楽曲だ。小林武史のプロデュースによる、Salyu名義としては2年ぶりの新作となる。
まず、「アイニユケル」は、3月1日公開の『家路』の主題歌。東日本大震災によって故郷を離れなくてはならなくなった家族と、故郷に戻って暮らす主人公の生き方を描いた。《君に キミに きみに/アイニ ユケル 行ける》という強く、深い祈りのフレーズに、希望への想いが込められている。
一方、「ライン」は、恋人同士から、ある事件をきっかけに被害者・加害者の関係に変わってしまった17歳の男女の青春ラブストーリー『ゆるせない 逢いたい』の主題歌。誰もが胸に抱える迷いや矛盾、葛藤を大きく包み込むSalyuの歌声が、やがて聴き手を光の方角へと導いていく。
奇しくも、「再生」という言葉が脳裏をよぎる10周年にふさわしい今作について、Salyuにメールインタビューを行った。映画と絡めながら、Salyuに歌の向き合い方を聞いた。
【取材・文:EMTG MUSIC】
関連記事
-
Salyu
【連載】第67週「Salyuは電気羊の夢を見るか?」…音楽評論家・平山雄一が毎週1本、作品を選んでお届けするレビュー連載。今週は、Salyu『Android & Human Being』
-
Salyu
-
Salyu
Salyu×小林武史というスタイルによって創り出された“音”に凝縮されたステージ。ツアー“m i n i m a”の深淵とは。
-
Salyu
デビュー10周年のSalyuが中野サンプラザで一夜限りのプレミアムライブを開催。声にこだわり、歌に捧げた10年間の集大成として、Salyuはその才能のすべてを解き放った!
-
Salyu
Salyuが2月26日にリリースするニューシングル『アイニユケル / ライン』から、「アイニユケル」のMVをYouTube Official Channelで公開!
-
Salyu
Salyuが2月28日に中野サンプラザで行うライブ「Salyu 10th Anniversary Concert“ariga10”」の模様を全国の映画館で同時生中継することが決定した。
-
Salyu
Salyuは言った。「音楽が大好きなみんなと、音楽が大好きな私達と、この空間を共有できるのが嬉しい」と。全国ツアー最終日の様子をレポート
-
Salyu
2012年、Salyuが光のようなポップ・ミュージックのダイナミズムをもってリスナーを照らし、包み込む4thアルバム『photogenic』リリース!
-
Salyu
「世界観が新しいアート」。桜井和寿が作詞/作曲を、小林武史がプロデュースを行なった、Salyuのニューシングル「青空/magic」がリリース!
-
Salyu
心底、ハーモニーの楽しさを堪能し、シンプルに歌を楽しんでいた、純粋さ、無邪気さの向こうに圧倒的なクオリティを見せた、Salyuのステージ
リリース情報
お知らせ
a brand new concert issue“m i n i m a”- ミニマ - Salyu×小林武史 vol.2
2014/05/30(金)福岡・ももちパレス
2014/06/04(水)神奈川・神奈川県立音楽堂
2014/06/06(金)宮城・日立システムズホール仙台シアターホール
2014/06/13(金)愛知・名古屋市公会堂 大ホール
2014/06/15(日)大阪・NHK大阪ホール
2014/06/20(金)東京・NHKホール
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
映画『家路』
3月1日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
出演:松山ケンイチ、田中裕子、安藤サクラ、内野聖陽
監督:久保田直 脚本:青木研次
配給:ビクターズ・エンド
東日本大震災によって故郷を離れて暮らすことになった家族が、20年近く音信不通だった主人公(松山ケンイチ)の帰郷をきっかけに再び絆を深めていく物語。不条理な現実の中でそれぞれの道を選び、逞しく生きる人間の姿が胸を打つ。
©2014『家路』製作委員会
映画『家路』公式サイト
映画『ゆるせない、逢いたい』
DVD発売決定!
3月14日(金)発売/SDP/3,990(税込)
出演:吉倉あおい、柳楽優弥
監督・脚本・編集:金井純一
ある事件をきっかけに被害者と加害者になってしまった高校生カップルの葛藤を描いた青春ドラマ。母親と共に郊外の一軒家に引っ越してきた女子高生のはつ実(吉倉あおい)、古紙回収業者の青年(柳楽優弥)の出会いとすれ違いを瑞々しい筆致で描く。
©S・D・P/2013「ゆるせない、逢いたい」
映画『ゆるせない、逢いたい』公式サイト