Salyu、全国ツアーの最終日。4月29日の国際フォーラムをレポート
Salyu | 2012.05.15
Salyu、そしてsalyu×salyuと、ふたつの名義で音楽活動を並行して展開している彼女。
本年、2月15日に、久々に小林武史氏プロデュースの下、Salyu名義でリリースされたアルバム『photogenic』はポジティビティが、自然に、そして眩しくきらめく、生命力溢れるポップ・アルバムであった。
この作品を携え、全国ツアー『photogenic』を展開したSalyu。そのファイナル公演が、4月29日、国際フォーラム ホールAで行われた。
満員の会場に、アルバム『photogenic』収録曲&最新シングル「Lighthouse」のトラックがアレンジされたインストが流れる。ステージ上のスクリーンには、そのMV映像が。予感をはらんだ空気が、客席に満ちていく。その刹那、彼女の声が、響いた。
♪今日から新しく生まれて 今日から新しく生きていこうよ ……♪
薄い紗幕のようなスクリーンが落ち、ライヴの幕開けを告げる。1曲目は、トライバルなパーカッションが走り抜けていくアップチューンの「camera」。黄色のドレスに、赤い羽根のようなモチーフをつけた衣装。さらに金髪のふわカールのウィッグをつけて登場したSalyuに導かれたように、オープニングの行く末を見守っていた観客が、一斉に立ち上がった。「LIFE(ライフ)」「Tower」と続けた後は「悲しみを越えていく色」へ。Salyuのファルセットぎりぎりの歌声が、軽やかに、跳ねるように会場に木霊していく。1人で歌っているのに、コーラスの音まで聴こえてくるかのようだ。音程だけでなく、声の出し方で声色やリズムを操る……彼女の持って生まれた“歌声”と言う名の才能が、満員の観客に、光のように、キラキラと降り注いだ。
「みなさん、こんばんは。Salyuです。今日は、私のライヴに来ていただいて本当にありがとうございます」と挨拶。全国ツアーを振り返り、最後はこう締めくくった。
「音楽が大好きなみんなと、音楽が大好きな私達と、一緒に、この空間を共有できるのが、すごく嬉しい」
中盤。「ここからは座ってお楽しみください」。そして一旦ステージを後にしたSalyu。アシンメトリーでシックなワンピースに着替えて再び姿を表し「月の裏側」。さらに「体温」。前半とは明らかに違うボーカルアプローチに、会場が静寂に包まれる。Salyuの歌声が、ふくよかに、そしてたおやかに会場を満たしていく。降り注ぐ歌声という名のエネルギーが、皮膚からゆっくり浸透していく。アコギと鍵盤、ボーカルという編成で披露された「青空」は、作品に収録されている時よりもとても生々しい。作品で聴いた時の「青空」が、そのタイトルどおり、青空を見上げているようなリアリティーと広がりを感じたのに対し、ライヴでの「青空」は、すぐ目の前にいて、そして最後には、聴く者にソッと寄りそった。
ライヴは後半へ向かう。「旅人」の後、「時間はとても不思議な存在です」というひとことから、この日、いちばん長いMC。その内容は、まとめるとこんな内容だったーー自分にとっては永遠と思えるような感情があるけど、そことは関係なく、時間は過ぎていく。だから私たちは、いつも進化する、変化のとまらない世界に生きていて、良くも悪くもなる可能性をいつも抱いている。だったら、良い方に変わりづつけたい、そんな気持ちを抱いていたいーー。そして最後をこう紡いだ。
「みなさんの今日より明日が、明日より明後日が、より幸せでありますように。そんな気持ちを込めて“VALON-1”という曲を歌います」
2004年、リップスライムのILMARIとのコラボレーション曲としてリリースされた「VALON」。その2ヶ月後にSalyuのソロ曲としてリリースされたのが「VALON-1」である。実質的には、彼女のソロのデビュー作品といってもいいだろう。リリース当時、小林武史氏が紡いだメロディに、しなやかな強さという、新たな表情を加えた彼女のボーカル力に、心の底から驚いた事を思い出す。
あの時の驚きが、この日も、私の心の中で渦巻いた。しかも、当時の鮮やかさを失うことなく。否、あの日以上に感じられた。なぜなら、彼女のボーカルは、私の体の中にある“何か”と、この日、何度も共鳴した、そう感じる瞬間が何度もあったのである。
この“何か”の正体は、人間が元々持っているエネルギーだったのではなないかと思う。
聴く者の中にあるエネルギーに歌いかけ、最後はそのエネルギーと、楽しそうにハーモニー(共鳴)する。共鳴したエネルギーが、Salyuの歌声で立ちあがった自分の中のエネルギーが、明日に向かおうとする……そんな感覚が、この日のライヴにはあった。
人間の潜在意識に響く歌声――Salyuは、私たちの想像しないエリアに足を踏み入れているのかもしれない。
Salyuとしてシンフォニーと共演、salyu×salyuとしてのスペイン公演(Sonar 2012に出演)、ロンドン公演(場所はJAZZ CAFE LONDON!)と、広がり続けている彼女のミュージック・ワールド。彼女のこの日のボーカルは、この充実した音楽生活がもたらした奇跡の破片と言えるだろう。
この破片の輝きが、これからますます、私達を楽しませてくれるだろう。
エンディングでの彼女の満面の笑顔を観て、そう思わずにはいられない……Salyuの明日に期待せずにはいられない、ライヴだった。
【取材・文:伊藤亜希】
【撮影 藤井 拓】
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リリース情報
photogenic(初回限定盤)
2012年02月15日
トイズファクトリー
1. camera
2. LIFE(ライフ)
3. magic
4. 青空
5. Lighthouse
6. 悲しみを越えていく色
7. パラレルナイト
8. 月の裏側
9. ブレイクスルー
10. 旅人
ディスク:2
(a brand new concert issue “minima”-ミニマ-Salyu × 小林武史@東京国際ホールC (2011.11.30))
1. VALON-1
2. 彗星
3. Tower
4. name
5. HALFWAY
6. イナヅマ
7. 飽和
8. 飛べない翼
9. I BELIEVE
10. 夜の海 遠い出会いに
11. コルテオ ~行列~
12. to U
13. 悲しみを越えていく色
14. 旅人
15. プラットホーム
16. Pop
17. 新しいYES
18. 青空
19. Lighthouse
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セットリスト
- camera
- LIFE(ライフ)
- Tower
- 悲しみを越えていく色
- magic
- ブレイクスルー
- パラレルナイト
- My Memory
- 月の裏側
- 体温
- 青空
- 新しいYES
- 夜の海 遠い出会いに
- コルテオ ~行列~
- 旅人
- VALON-1
- Lighthouse
- HALFWAY
- to U
-
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