スピッツ、変わらぬバンドの姿を貫いた、初の日本武道館を完全レポート!
スピッツ | 2014.08.02
巨大な台風が接近し、夕方から雨に見舞われた7月9日の東京。大粒の雨は、武道館正面のポップな看板をカメラに収める人々を容赦なく濡らした。傘を適当に丸めながら会場に入ると、開いた傘のホネのようなオブジェが、今はまだ無機質な姿をさらしていた。ただ「welcome to “FESTIVARENA” 2014.7.9 Nippon Budokan」の文字だけが煌々と輝いている。
「SPITZ JAMBOREE TOUR 2013-2014 “小さな生き物”」を終え、ふた月と開けずに突入したアリーナツアー、その東京公演の初日。BGMが、ホール&オーツの「キッス・オン・マイ・リスト」になった頃、一気に客電が落ちる。インスト曲「リコシェ号」「宇宙虫」「scat」が流れる中、高い位置に設置されたスクリーンには、イマジネーションを掻き立てるモノクロームの宇宙。ステージ上、青い光の中に鮮明に浮かぶ「ス」の文字。いつもとは異なる緊張感と期待感の中、草野マサムネ(Vo・G)、﨑山龍男(Dr)、三輪テツヤ(G)、田村明浩(B)、そしてサポートのクジヒロコがステージに現れる。それはこちらが拍子抜けしてしまうほど、いつもと同じような登場の仕方だった。
クジの弾くピアノがポロポロと零れ落ちた瞬間に沸き上がる歓声。次第に熱を帯びていく演奏、歌。骨組みだけだった傘には雨のしずく。「夜を駆ける」でドラマティックに幕を開けたステージ。続く「海とピンク」では、わんぱく夏少年・田村が早くも西側の観客を煽り始めた。焚きつけるように地を這い、うねりをあげたかと思えば軽やかに、甘酸っぱく、そして小気味よく、一気に曲を畳み掛ける。
「ついにスピッツ、ワンマンで武道館のステージに立つことができました」。特別な感慨を滲ませながらも、昨夜はなぜか家にあったTOKIOの武道館公演のDVDを観て予習したと明かした草野マサムネ。「こんなゆるい感じで、いつも通りでいいですよね?」。そんな言葉がいかにも彼らしく、そしてスピッツの“初武道館”には相応しい。いつ、どの会場でも、何年か間が開いても、快く迎えてくれ、そして分け隔てなくその場に溶け込ませてくれる。それがスピッツのライヴの大きな魅力だ。
ステージをファインダー越しに覗いていたカメラマン氏も小さく口ずさんでいた「空も飛べるはず」。深く幻想的なギターの音色が、脳裏に鮮やかな情景を映し出した「プール」。聴く者それぞれが描く景色は違えど、2014年夏に見たこの光景は、忘れがたいものとなるだろう。「絶対に人前に立つ仕事に就かないようにしようと思った。でもこうして立ってます」。「スピッツに入らなかったら社会不適合者になってたと思います」。少年時代を振り返り、はにかんだものの、今、立っている自分の足元から目をそらさない草野。27年間、“弱いくせによく吠える”スピッツであり続けた彼らは、いつだって誠実だ。
夏の曲が続く。三輪は東へ、田村は西へ。キラキラの紙吹雪が舞ったのは「エスカルゴ」。気が付けばステージの上は、フラッグはためくカーニバル仕様に。本領発揮の田村、草野&三輪のツインギターもキマった。デビュー曲「ヒバリのこころ」。﨑山はスティックを高く掲げ、三輪がモニターに足を掛けたと思えば、田村がすかさず東側を煽る。それに草野も続く。しっかりと2階席、1階席、アリーナへと視線をおくる草野が印象的だ。
27年前、1987年の今日、7月9日くらいに結成されたというエピソードと共に、自らを長寿バンドと例えた草野が、軽やかに言い放つ。「今日、来てくれた皆さんは長生きすると思いますよ」。他愛のないやりとりが、とりとめもなく続きそうな楽しい時間を草野の弾き語りが、ゆっくりと別次元へと誘う。「スワン」。この日、最も草野の声が美しく響いた曲だ。聴き覚えのあるピアノからの「楓」~「愛のことば」~「正夢」。「おとといのことは思い出せなくても、昔のどうでもいいことは覚えてる」。今日、何気なく草野が言った言葉が曲に重なった。“何年経っても色褪せない”。そんなありきたりな表現がいかに難しく、いかに素晴らしいことかを今日の彼らは音楽だけで証明してみせた。曲間の独特の“間”が時空を繋いでゆく。花火のように浮かび上がっては揺れ、消えてゆく光の輪は未完成のまま客席を照らした。
“愉快な仲間たち”紹介のコーナーでは、これまで武道館をやらなかった理由について、それに伴う解散説について楽しく言及。草野の「POISON」が飛び出したところで、ライヴは一気に終盤へ。﨑山のカウントが次々と魔法をかけてゆく。ミラーボールの光に包まれた「エンドロールには早すぎる」。水玉模様の日の丸も悪くない。「俺たちと一緒に厚い雨雲を突き抜けて、星空を見てみないか」。草野の男前な一言からの「8823」。ロックシンガーに豹変した草野、楽しそうな﨑山の白い歯が光る。大団円。ピースサインの田村、ソロ炸裂の三輪。ハンドマイクを握り、タンバリン片手に歌いながら西へ東へと動いた草野。笑顔の草野を映し出すスクリーン。
アンコール。シャツを着替えた彼らが選んだ1曲目は「青い車」。今日、最も高いところで弧を描いた﨑山の右腕、どこまでも美しく伸びる草野の歌声。「あの頃はよかったなって思うことってあると思うけど、将来、『あの日は最高だったな』と思える夜になったと思います。今日を新しいスタートの日にしたいと思います」。そう言って初武道館締め括りの曲にインディーズ時代の楽曲「晴れの日はプカプカプー」をもってくるあたり、彼らの天の邪鬼は本物だ。いつものスタイルでステージを後にするメンバーを、オーディエンスはいつものように拍手と笑顔で見送った。
【取材・文:篠原美江】
【撮影:JUNJI NAITO】
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リリース情報
セットリスト
SPITZ THE GREAT JAMBOREE 2014
“FESTIVARENA”
2014.7.9@日本武道館
- 夜を駆ける
- 海とピンク
- けもの道
- 僕の天使マリ
- 不思議
- 恋する凡人
- 空も飛べるはず
- プール
- フェイクファー
- 夏の魔物
- 涙がキラリ
- エスカルゴ
- ヒバリのこころ
- スワン
- 楓
- 愛のことば
- 正夢
- ハニーハニー
- エンドロールには早すぎる
- 8823
- 野生のポルカ
- トンガリ’95
- 俺のすべて
- 青い車
- 晴れの日はプカプカプー