レビュー
スピッツ | 2013.09.11
このみずみずしい切なさは何だ! ベテランの14作目、しかも3年ぶりだというのに、1曲1曲のイントロが始まるたびに胸が締め付けられる。僕は特に1曲目の「未来コオロギ」が大好きだ。きれいな音色のギターのイントロに寄り添うベースが、歌に入った途端、グルーヴィーにうねり出す。スネアドラムの縁を叩く音が、草野マサムネの声の背中を押す。デビューの頃を彷彿とさせる澄んだ美しさに対するあくなき探究は、どこから来ているのだろう。
歌うたいがただのコオロギだとしたら、その存在はあまりにか弱く小さい。しかしスピッツはその力を信じて未来に顔を向ける。それは僕にとって、大きな困難に打ちひしがれたアーティストの覚悟の歌に聴こえる。そしてアルバム・タイトル曲の2曲目「小さな生き物」へとつながっていく。♪守りたい生き物を 抱きしめて ぬくもりを分けた 小さな星のすみっこ♪というリリックに表われている。
一方で、楽しい2ビートに乗せた「野生のポルカ」では、♪滅びた説濃厚の 美しい野生種に♪と歌って、ロックバンドの誇りを歌い上げるのもスピッツなのだ。
普通の言葉と音で構成されているのに、特別な何かを感じるアルバムだ。♪歩いていくよ 命が 灯ってる限り♪(「ランプ」より)と歌いながら、スピッツは11月から半年間に渡るツアーに出る。
【文:平山雄一】