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平原綾香、全国ツアーアンコール公演での“プレミアム”な一夜

平原綾香 | 2014.10.14

 昨年12月にリリースされた平原綾香の最新アルバム『What I am』に収録されている、タイトル曲の「What I am -未来の私へ-」は、未来の自分に宛てた手紙のような曲だ。未来の私なら“今”の乗り越え方を知っているはず。《私はあなたにたどり着けますか?》、そう綴るこの曲で平原は「自分の弱い部分を出せた曲」と語る。今年6月から約4ヵ月にわたり開催してきた全国ツアーでは本編のラストに、この「What I am -未来の私へ-」を歌ってきた。平原にとってこの曲は、デビュー10周年を迎えた自分を次の10年へと導く大切な曲なのだと思う。
 ここでは、そんな全国ツアーの中から、仙台でのツアーファイナル後にプレミアム アンコール公演として行なわれた、9月27日オーチャードホールの模様をレポートする。

 開演前、オーチャードホールの客席を見渡すと、静かな声で隣席の人と会話をしながら、開演を待つ。ステージのカーテンが左右に開き、プレミアム公演で新たに加わったストリングスチームを加えた総勢10名による演奏がはじまると、中央から白いマーメイドドレスに身を包んだ平原綾香が登場した。1曲目は「My Road」。オレンジ色の照明をうけて、ぐっと何かを掴むように手を前へと差し出して歌う。客席は左右に揺れるペンライト。1曲を終えて、平原はゆっくりと笑顔で会場を見渡した。

「みなさん、こんばんは。アンコール公演へようこそ。本当のファイナルです」と短く挨拶をしたあと、そのままピアノとツリーチャイムの音色にのせた「月に照らされて ~言葉よりも深く想ってる~」。低音から高音へと滑らかに響く平原の歌声が、会場中に響きわたる。「すべての母に感謝の気持をこめて歌います」と言って、「おひさま?大切なあなたへ」で涙を誘うと、続けて歌った「Moldau」が素晴らしかった。チェコの作曲家スメタナが故郷の河をモチーフにした楽曲。呼吸に合わせて揺らぐテンポはたゆたう河の流れのように繊細で、それでいて進む道を見失わない揺るぎなさも持つ。いつしか息を止めて聴き入ってしまう歌唱だった。

 国際宇宙ステーション“きぼう”に搭乗した宇宙飛行士・土井隆雄さんへの応援ソングとしてつくられた「星つむぎの歌」では、「デビュー曲が宇宙関連の曲で良かったです(笑)」とおどけながら、サビでは会場のお客さんと一緒に大合唱。そして、第1部を締めくくった「Jupiter」は、その歌が持つ歴史や意図、そこにいまだ耳を傾けて、真摯で、謙虚な“歌い手”に徹する平原の姿が印象的だった。

 今回、ツアーでは初の試みとして2部構成のステージになっていた。15分ほどの休憩を挟んだ後の第2部。ここからは歌い手として、常にチャレンジし続ける平原ライブの真骨頂を見せる。ブルーのドレスに着替えて再びステージに登場すると、今年、初めて挑戦したミュージカル『ラブ・ネヴァー・ダイ』(『オペラ座の怪人』の続編)から、テーマ曲「Love Never Dies」をまさにオペラの歌唱で歌い上げると、続く、「Spain」では、ギタリストの古川昌義と向き合ってボイスパーカッションを披露。場末の酒場で毎夜繰り広げられる饗宴のようなノスタルジックな雰囲気だった。

 「Tweet your love」からは、衣装をキュートなひざ上スカートに変えると、きらびやかなポップワールドが幕を開ける。サビでお客さんが♪You know me!と合いの手を入れる「JOYFUL, JOYFUL」では、その勢いのままバンドメンバーを紹介。さらに、「新しいアルバムから1曲を歌います。そして、スペシャルゲスト!」と、サックスプレイヤーの父・平原まことを呼び込んだ、ファレル・ウィリアムスのカバー曲「HAPPY」では、カラフルな照明のもと、笑顔ほころぶ楽しい空間を作り上げる。世間ではバラード歌手の印象も強い平原だが、ライブではこうも様々な音楽を乗りこなすマルチなシンガーなのだ。

 チャーミングな平原から再びフォーマルなドレス姿に戻ると、ピアノの音色をバックに語り始める。震災後、家族を失った学生とジョイントコンサートを行うなかで、ひとりの女の子が抱きついてきてくれた。その時、その女の子が家族のように思えた、と。そんなエピソードから歌いはじめた、大きなラブソング「あいのうた」は豊かなフルバンドによる演奏のなか、サビへ向けてドラマチックに広がる感動的なものだった。

 そして本編のラストが「What I am -未来の私へ-」だ。「朝起きるたびにとてつもない壁を感じる毎日だけど、歌えることが幸せです。音楽一筋で生きてこれたのはみんなが支えてくれたから。この環境に感謝しています」。そう言って、ピンスポットを浴びた平原が切々と紡ぐ歌詞は、弱さと苦悩を曝け出しながら、それでも明日を生きようとする30歳の女性の等身大の歌だった。

 アンコールでは平原をはじめ、サポートメンバーもツアーTシャツに着替えて再びステージに登場。「これで終わっちゃうのは寂しいけど、安心もしてます(笑)」。リラックスした雰囲気でツアーグッズを紹介した後、レーベル移籍第1弾シングルとなった「翼」まで堂々と歌い切った。そしてスペシャルな日なのでもう1曲と前置きして、11月にリリースされるアルバム「Winter Songbook」の中から「Auld Lang Syne~蛍の光」を初披露。日本では卒業式の定番ソングだが、元はスコットランドの民謡で再会を喜ぶ曲だという。気がつけば3時間近くが経っていたこの日のライブ。その締めくくりに、懐かしくも新しい調べがとてもよく似合っていた。

  【取材・文:秦 理絵】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル 平原綾香

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リリース情報

Winter Songbook

Winter Songbook

2014年11月12日

ユニバーサル ミュージック

1.Auld Lang Syne ~ 蛍の光
2. アルジャーノンに花束を ~ Song of Bernadette
3.Happy Xmas (War Is Over)
4.HAPPY
5. 私のお気に入り~ My Favorite Things
6.Smile ~ 一緒に顔晴る君へ
7.My first love
8. 青春の輝き~ I Need To Be In Love
9.愛は花、君はその種子 ~ The Rose
10.Love Never Dies~ 愛は死なず

お知らせ

■ライブ情報

シリーズ 昭和の歌人たち
2014/10/30(木)野田市文化会館(千葉県)

Heart for 中越
2014/11/21(金)長岡リリックホール コンサートホール(新潟県長岡市)

「平原まこと 40th Anniversary Concert」LET’S CELEBRATE!! with AIKA & 平原綾香
2014/12/13(土)洗足学園 前田ホール

AAB presents「平原さんちのコンサート2014」
2014/12/18(木)秋田県民会館
2014/12/23(火・祝)神戸メリケンパークオリエンタルホテル
2014/12/24(水)名古屋 ウェスティンナゴヤキャッスル

音楽の贈り物vol.2~ポップスとクラシックの融合~
2015/01/18(日)久慈市文化会館(アンバーホール)〈岩手県〉

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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