平原綾香、9枚目のオリジナルアルバム『LOVE』で “大人の愛”を歌う。

平原綾香 | 2016.04.26

 デビュー13年目を迎えた平原綾香。“祈り”という言葉を冠した前作『Prayer』から1年ぶりとなる通算9枚目のオリジナルアルバムに、彼女は“愛”というテーマを掲げた。玉置浩二、中島みゆき、財津和夫、徳永英明、尾崎亜美、岡本真夜、川江美奈子、諫山実生、矢萩渉という9名のアーティストによって書き下ろされた愛にまつわる楽曲たち。男女の恋愛もあれば、家族や友人、支えてくれる人への愛もあり、言えない片思いや叶わぬ恋もあれば、別れに涙しながらも、出会えたことに感謝を伝える複雑な心境もあり、もっとスケールの大きな愛もある。19歳でデビューし、30代に突入した彼女にとって“愛”とはなんなのか? みなさんも是非、自分の心に「愛ってなんだろう?」と問いかけてながら聴いてみてほしい。

EMTG:どうして“愛”をテーマにしたアルバムを作ろうと思ったんですか?
平原:最初に私が尊敬する偉大なアーティストの方々に書いてもらった曲を集めたアルバムを作るのはどうかっていう企画が立ち上がって。オファーをするにあたって考えた時に、究極のテーマがいいだろうと思って、“愛”にしたんですよね。みんなにとって一番身近なテーマはやっぱり愛だなって思って。しかも、世の中にはラブソングが溢れているけど、私はどちらかというと人類愛とか、宇宙愛とか壮大なテーマの曲を歌うことが多かったんですね。31歳になったというのもあるし、今回は、今まであまり歌ったことのない“大人の愛”を歌いたいなという思いもあって。
EMTG:そうそうたるメンバーが楽曲提供している中で、もっとも“大人の愛”を感じるのは、やはり玉置浩二さんの「マスカット」ですよね。歌詞もとてもセクシーですし。
平原:私も<丸裸にされた>っていう歌詞にはびっくりしました(笑)。「メロディー」や「しあわせのランプ」のような曲が来るかと思っていたので、最初は歌えるかなってドキドキしたんですけど、歌詞を読み込んでいったら、なんとも言えずに涙が出てきて。
EMTG:どうして涙が出てきたんですか? 一見すると、幸せなラブソングに聞こえますが。
平原:なぜだかわからないけど、泣けちゃうんですよね。父と母の温もり、あの日の雨の匂い、小さい頃の記憶……。実は玉置さんと私は5歳の時に会ってるんですね。父(サックス奏者の平原まこと)が安全地帯のサポートメンバーをやっていた時に、抱っこしてもらったことがあって。私は恥ずかしくて寝たふりをしてたんですけど、玉置さんもその時のことを覚えてくださってて。「こんなに大きくなって、しかも、歌う人生を選んで、まさか書き下ろしをするなんて思ってなかった」って言ってくださって。それが、まず、感無量で。
EMTG:オファーを出される際に“大人の愛”というテーマ以外にも何かリクエストを出しました?
平原:お手紙を書かせていただきました。父と母に抱き締められた思い出や、雨の日の匂いが切なくて好きだっていうことは、キーワードとして書いたんですね。それがそのまま歌詞になってるっておっしゃってくださって。ただ、<子供の頃のわたしが/子犬を抱えひとり>ということは書いてないんですよ。でも、家には実際にわたしが子犬を抱えてる写真が飾られていて、ちょっとびっくりしましたね。
EMTG:子供時代を思い起こしながらも、男女が裸で情熱的に抱き合っている場面も想像できますが。
平原:私がこの曲を歌っていて感じたのは、その人の今だけを愛するのではなくて、その人が生きてきた分だけ、支えてくれた人もいるわけで。そういう人たちや、その人の子供の頃も含めて、丸ごと愛さなきゃいけない。そういう覚悟があるかどうかだと思ったんですね。私もそうやって愛さないと言えないし、そういう風に愛して欲しいなっていう思いになりました。特に、男親から見た娘だと、より相手の男性には覚悟を持って愛して欲しいって思うんじゃないかなって。
EMTG:相手の家族や過去も含めて抱き締めてる歌なんですね。
平原:そう。人を抱きしめるというのは、小さい頃のその人を抱きしめるのと一緒だから、どれだけ大切にされてきたかを絶対に忘れちゃいけないっていうことを感じましたね。
EMTG:タイトルはどう感じました? これもパっと見は大人のエロスも匂いますが。
平原:歌を選んだ私が熟したっていう意味で、私自身を表してくださっているんだと思いますね。でも、実は可愛いエピソードがあって。奥様の青田さんが、親戚からもらったマスカットをむいてくれて、はーいってくれたんですって。その時にすごく幸せを感じたらしくて。あったかいな、こういうのを歌にしようと思ったみたいです。最高ですよね。
EMTG:ふふふ。とても愛に溢れたエピソードですね。タイトルに関して言うと、尾崎亜美さんの「真水の涙」と財津和夫さんの「空一面の」も引っかかりました。どういう意味なんだろうって。
平原:私もスタッフと話し合いました。「真水の涙」ということは、しょっぱくない、普通の涙じゃないんですよね。多分、心で流す涙だと思うんですよね。悲しいから涙が出るとか、嬉しいから涙が出るという次元じゃない。何か本当に心の奥底で感動した場面に出会った時に出る涙。<掌に掬って/小さく映る幸せだけ/飲み干すように愛した>という歌詞があって。きっと報われない、悲しい恋だと思うんですけど、この人と出会ってよかったっていう心の涙を流す瞬間があったんだと思う。とても綺麗な描写で、なんとも言えずに深い、いい曲だなと思いますね。
EMTG:財津さんの曲のタイトルは? 「空一面に」じゃなく、「空一面の」になってます。
平原:そう、確認したんですけど、“に”じゃなく“の”がいいんですっておっしゃって。じゃあ、いいよって言ったんですけど(笑)、<もう流れない。もう離れない>という歌詞の“。”も含めて、なんだろう?って思わせるところに財津さんの魔法が隠されてるのかなって思いますね。財津さんは、「愛と一言で言っても漠然としているし、あまり安易に書いてしまうと簡単に語られてしまうものになってしまう」っておっしゃってて。「アヤちゃんの歩んだ人生をたどっていったら、足跡というキーワードが出てきて、そこに感謝が加わった」というコメントを頂いて。コンサートのアンコールで歌うことを想定して作ってくれた曲で、シンプルなんだけど、泣き所もある歌になったなって思いますね。
EMTG:確かに、客電がついて明るい空間で歌ってる姿が想像できますね。去年のツアーでは中島みゆきさんの「糸」をカバーしてましたが、今作には中島みゆきさんの曲も収録されています。
平原:そうですね、30公演、「糸」を歌いながらいっぱいいっぱい癒されるというか、いろんな思いを浄化してもらった感じがあって。本当に歌って治療するものだなって感じて。そのあと、「中島みゆき RESPECT LIVE 歌縁(うたえにし)」に参加して、「糸」と「二艘の船」を歌わせてもらったんですね。それをみゆきさんのマネージャーさんが聞いてくださっていて、すごい褒めてくださっていたみたいで。私はそうとは知らずに楽曲のお願いをして。絶対に断られるだろうなって思ってたんですけど、実は見てたんだよっていうことで、OKが出て、書いていただけて。
EMTG:「アリア -Air-」は、歌そのものをテーマにしたような曲になってますが、受け取ってどう感じました?
平原:アリアという曲のメロディの中に飲み込まれていく感じというか、渦に巻き込まれるような気持ちになりましたね。聴いてて息ができないくらい引き込まれて。とにかく凄みを感じたんですけど、歌詞はこの中では一番歌いやすかったです。
EMTG:それはどうしてですか?
平原:だって、規模が大きいから。
EMTG:あははは。身近な恋愛より壮大なテーマの方が歌いやすい?
平原:たぶん、「Jupiter」でデビューしたからだと思う(笑)。そっちの方が慣れてるんですよね。でも、すごく不思議な歌なんですよね。<私は待ちわびる/あなたの歌声を>っていう歌詞にドキッとして。みゆきさんが音楽の神様で、地上にいる私に「さぁ、歌え!」って言ってるような感覚になって、ドキッとして。私、アリアっていう名前なんじゃないかって思ったくらい。<アリア>が<あーや>に聞こえるような、そういう問いかけをみゆきさんから受け取った気がしてますね。
EMTG:そう言われると、「あーや。歌は、一人では歌えないのよ、受け止められて産まれるものよ」っていうみゆきさんからの直接的な呼びかけのようにも聞こえます。
平原:その通りっすって思いながら歌ってましたし(笑)、歌の起源を感じる曲ですね。
EMTG:豪華作家陣による提供曲に加え、1曲だけ平原さんの自作曲が収録されてます。タイトル曲にもなっている「LOVE」は最後に書いた曲ですか?
平原:そうですね。全体のバランスをとるという意味もあったし、愛をテーマにしたアルバムを歌ってきて、やっぱり、心が浄化するというか、私自身が癒されたなっていう思いがあって。でも、そうやって、歌ってる時はいいんですけど、なんか苦しいことや悲しいことがあった時に、歌から離れてしまうような気持ちになったりするんですね。
EMTG:音楽が聴けなくなってしまう。
平原:そう。音楽を聴いてる時は愛の中にいるんだけど、ポンと外に出ちゃうと、自分を責めたり、相手を責めたりして、どんどん傷口が開いていって、治らないっていう経験が多々あって。愛で傷ついたものは愛でしか治せないんだ、だからここに飛び込もうって思ってきて。私たちは愛の中にいるから、そこからは逃げられないし、外に出る必要もないって気づいた。そういう気持ちで書いた曲ですね。
EMTG:今の文脈からいうと、平原さんにとっての愛=音楽ということ?
平原:うん、私は音楽かな。どんなに体調が悪くても歌うし、どんなに傷ついても愛の歌を歌うし。残酷よ、残酷。楽しくなくても笑うんだもん。
EMTG:あははははは。笑い事ではないですが、因果なお仕事ですよね。でも、聴き手は平原さんの歌声によって絶望を乗り越えたり、深い傷が再生されたりしてるわけで。
平原:でも、私はそれが仕事だからとは思ってないんですよね。そこで、歌いたいと思えてる。コンサートのMCではよく「ここで寝泊りしたいくらいステージが好きだ」って言ってますけど、ステージに立つと、お客さんがいて、届ける場ができて、強制的に愛(音楽)に入っていける。だから、体調が悪かったけど、だんだん治ってきたり、傾いた心がまっすぐに持ち上がってきたりする。横道にそれずに、真ん中の軸が通ってくるんですね。私にとってはパワースポットなので、そうして愛(音楽)の外に外れることなく、常に愛(音楽)の中にいなきゃなっていう思いを書きました。
EMTG:愛=音楽だとすると、本作を通して、恋とはどんなものだと感じました?
平原:きっと恋も愛の一部ですよね。でも、幸せになろうと思う気持ちが愛なのかなと思いますね。どうなってもいいって思えることが恋なのかもしれない。……なーんつって。あはははは。まだよくわからないので、これからもきっと、愛とはなんだろう? 恋って何? って考えながら、求めながら歌っていくのかなって思いますね。

【取材・文:永堀アツオ】

tag一覧 アルバム 女性ボーカル 平原綾香

ビデオコメント

リリース情報

LOVE

LOVE

2016年04月27日

ユニバーサル ミュージック

1. マスカット
2. アリア -Air-
3. 鼓動
4. 真水の涙
5. STAR
6. She 想
7. 未送信の恋
8. Song for you
9. LOVE
10. 空一面の

お知らせ

■ライブ情報

ARABAKI ROCK FEST.16
2016/04/30(土) みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく

第40回 ひろしまフラワーフェスティバル
2016/05/03(火) 広島・平和記念公園

TOKYO FM「KIRIN BEER "GoodLuck" LIVE 」
2016/05/07(土) TOKYO FM

平原綾香 CONCERT TOUR 2016 〜 LOVE 〜
【バンドスタイル】
2016/05/21(土) 和光市民文化センター サンアゼリア 大ホール
2016/05/22(日) たましんRISURUホール
2016/05/28(土) 神戸国際会館 こくさいホール
2016/06/04(土) 南陽市文化会館
2016/06/05(日) 東京エレクトロンホール宮城
2016/06/10(金) かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
2016/06/12(日) 足利市民会館 大ホール
2016/06/18(土) 秦野市文化会館 大ホール
2016/06/25(土) 熊本県立劇場 演劇ホール
2016/06/26(日) 福岡市民会館
2016/07/01(金) 大阪フェスティバルホール
2016/07/02(土) 磐田市民文化会館
2016/07/09(土) 鎌倉芸術館 大ホール
2016/07/10(日) 習志野文化ホール
2016/07/16(土) 岡山市民会館
2016/07/24(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
2016/07/30(土) Bunkamura オーチャードホール
2016/07/31(日) Bunkamura オーチャードホール
【アコースティックスタイル】
2016/09/04(日) 日立市民会館
2016/09/10(土) 新潟市北区文化会館
2016/09/11(日) クロスランドおやべ・メインホール
2016/09/16(金) 木曽文化公園 文化ホール
2016/09/22(木・祝) 札幌市教育文化会館 大ホール
2016/09/23(金) 音更町文化センター
2016/10/16(日) 佐渡中央文化会館

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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