25thアニバーサリ―・イヤーの最後を飾ってリリースされた『ムーンダスト』は、エ ネルギッシュな中にちょっぴり苦さも混じったthe pillowsらしいアルバムだった。彼 らはそれを掲げてツアーをスタート。その序盤戦を赤坂ブリッツで見た。

　ステージに４人が現われると、いきなり山中さわおが「いくぜ！」と叫んで、ギタ ーを掻き鳴らし始める。『ムーンダスト』の１曲目「Clean Slate Revolution」からラ イブ開始。ニューアルバムと同様、快調なオープニングでオーディエンスに切り込んで いく。この曲の真鍋吉明のギター・ソロで、山中はステージ上を熊みたいにウロウロ しながら会場の手ごたえを探る。次の曲ではモニター・スピーカーに足を掛けてアオ る。テンションの高さの表現にもアーティストの個性は表われるものだが、山中のそれ は独特だ。尖っていて、でも優しくて、ユーモアを忘れない。

「久しぶりじゃないか！　みんな、元気？　俺たち、ムダに元気(笑)。最後まで仲良 く、楽しい時間を作ろう」。

　その言葉の通りのライブが展開される。なんと今、話題の “ぺヤング”を歌詞に滑 り込ませて笑いを取るシーンもあった。まったく、ムダに元気なヤツらだ。

　かと思うと、ディープパープルの「スモーク・オン・ザ・ウオーター」の有名なフレ ーズを弾いてみせたり、メンバーは完全にリラックス・モード。オーディエンスも、 随所にはさまれる懐かしい曲を一緒に歌って楽しむ。ニューアルバムのツアーでありな がら、25年をともに過ごしてきたファンに対する心配りも行き届いている。

「誕生日じゃない日も、この歌を！」と歌った「ハッピー・ バースデー」は、26年目 を迎えた彼らが、自分たちに贈った覚醒ソングだ。♪キミに逢いたいな　そこで逢い たいな♪というリリックが印象に残る。だからこそ、このライブの大事な場所で歌われ たアルバムタイトル曲「ムーンダスト」の、♪僕は後どれくらい　キミと会えるだろ う♪というフレーズの意味が、深く響く。ジレンマを抱えながら突き進んできたバンド の覚悟と、支え合ってきたファンへの思いが伝わってくる。25周年という区切りは、 お互いにとって良い関係確認になっているようだ。

　それにしても、今回のツアーは、必要以上にシリアスにはならない。「いい気分で ツアーを回ってる。いろんな街のホテルで、みんなと一緒に楽しめる新曲を必ず書くよ 」という山中の言葉どおり、いい具合に肩の力が抜けているのが素晴らしい。

　メンバーそれぞれがしゃべるコーナーで、ベースの鈴木淳が「２月のオンエア・イ ーストでは、ひと回り小さくなって帰ってくるよ」とダイエット宣言すると、ドラムの 佐藤シンイチロウは「僕はイーストまでに器の小さな男になって帰ってきます」と混 ぜ返す。加えて、「今日はみんなにプレゼントを持ってきた」と取り出したのは、なん と “ぺヤング”だったから会場は大爆笑になったのだった。

　そんなジョークタイムの後に歌った「About a Rock’n’Roll Band」は、ロックンロー ルへ賭けるバンドの意志を歌った『ムーンダスト』の中でも大切な曲。軽くて切れの いいビートでオーディエンスを踊らせる。いちばん力の入ってしまいそうな場所で、う まく力をコントロールできるのは、さすがだった。

「アンコールで取り留めのない話をするツアーです」とビール 片手に山中がオーディ エンスに語りかける。「でも、ビールとぺヤングが揃うと、大学生みたいだな(笑)」。

　蝶のように舞い、蜂のように刺すというキャッチフレーズのボクサーが昔いたが、 今のthe pillowsはまさにそれだ。軽やかでタフなパフォーマンスを見せつけた後、「 サンキュー、バスターズ！！」といつもの挨拶を残してライブを締めくくった。ツアー はまだまだ続く。

【取材・文：平山雄一】