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吉井和哉「Beginning & The End」ツアー 12月28日の武道館公演をレポート

吉井和哉 | 2016.01.12

 ソロ初ツアーから10周年を記念して、恒例の年末武道館ライブの今回のセットリストは、ファンから「思い出のツアーと思い出の楽曲」をリクエストしてもらって決めるというもの。音楽的欲望の旺盛な吉井が、ファンのリクエストをどうさばくのか、それも楽しみの一つとしてスペシャルなライブに臨むことにした。

 ステージを囲むようにして、スタンド席はほぼ全方位をオーディエンスが埋めている。そのステージに最初に出て来たのは、ペダルスティールの駒沢裕城、パーカッションのクリストファー・ハーディ、篠笛の松尾慧の3人だった。アナログ楽器の極致とも言えるペダルスティールは、“揺らぎ”が命。浮遊感のあるサウンドが武道館を満たす。そこに打楽器と鋭い笛が絡むと、スペイシーでエスニックな独特の世界が現出した。この3人はアンコールでも登場するのだが、その際の紹介によると、吉井が今年、猪苗代で行なわれたフェスで出会ったアーティストたちだという。そのサウンドに惚れ込んだ吉井が、ぜひにと頼んでの出演だった。
 なんだ、やっぱり吉井の欲望実現のライブだぁ(笑)。ちなみに駒沢は故・大瀧詠一の初期のアルバムにも参加していた個性派大ベテランである。
 と、そこに吉井とメンバーが登場して3人に加わり、「恋の花」が始まったからオーディエンスは戸惑った。が、曲調に絶妙に合ったバックに、すぐに引き込まれる。不思議なオープニングだった。

 次の曲の「PHOENIX」では、「恋の花」から一転して、ドカンと轟音が響き渡る。吉井はいきなり喉を全開にして歌って、「ブドーカ~ン!」とコールすると、オーディエンスもエンジン全開で「オーッ!」と応える。思い切り声を伸ばしてブレイクすると、吉井は身体を一回転。ほぼ360度の観客に挨拶だ。2人のギタリストとベースがコーラスする「I WANT YOU I NEED YOU」もカッコいい。ごっついロックボーカルが、しっかりと脇を締めてスタートを切った感じだ。

「元気してたか? TOKYO! 今年もやってまいりました、12月28日。今日はナポリタンズ+ジュリアン・コリエル。ジュリアンが日本に帰ってきてくれました。ソロ活動を始めて12年、ひと回りしたから“上半期”の思い出深い曲とアレンジを募らしていただいて、参考にして選曲しました。いろんな吉井を楽しんでいってください」。

 その言葉どおり、後はバク進する一方。ハードなブギーの「SIDE BY SIDE」やミディアム・ロックの「CALL ME」でオーディエンスとコミュニケーションを取りながら、自在にライブを進める。オーディエンスの思い入れのある曲が続くから、一体感はハンパない。

「僕も来年で50才。30代の終わりからソロを始めて、大騒ぎして、田舎に引っ込んで悟りを開こうと頑張ったり。でも悟れませんでした(笑)。そんな頃の曲です」と、やや自虐気味に紹介して歌った「BLOWN UP CHILDREN」 がしみじみと耳に入ってくる。トライセラトップスの吉田佳史の叩くドラムが冴えわたり、歌の合い間に入るフィルインが、吉井の思いのこもった歌に華を添えていたのが見事だった。

 おなじみの「TALI」があったり、「点描のしくみ」ではタンバリンを振りながら歌う。ハードなサウンドの中に、繊細なニュアンスを混ぜ込むボーカリゼーションが凄い。また、音源とは違うアレンジに挑む際の“狙い”がはっきりしていて、ライブならではの興奮があった。

 どの曲もエンディングが潔い。ズバッと終わる。曲の最後の瞬間に、照明が吉井の姿だけを捉える。その残像が積み重なっていくうちに、「雨雲」で本編が終わった。

 アンコールで吉井は黒のレザージャケットで登場。バンドを“ナポリタンズAOR”と紹介して演奏した「SWEET CANDY RAIN」は、AORの王様のボズ・スキャッグス的なアレンジで、彼らしい遊び心を発揮する。「HEARTS」では鳥をモチーフにしたアニメが、哀愁漂うロックを引き立てていた。

「みなさん、心の大掃除はいかがでしたか? 恨みや憎しみを来年に持ち越さないで、いい年を迎えましょう。そういうものはドラムの吉田の頬っぺたに詰め込んじゃいましょう」と、メンバー一人一人を笑いながら紹介する。吉井自身がいちばん楽しそうだ。きっと吉井の心の大掃除も完了したのだろう。
 「血潮」で場内の灯りが全部付き、「最後はリクエスト1位の曲。やっぱりカップリング曲でした」と笑って、ラストナンバーは「MY FOOLISH HEART」。YOSHII LOVINSONから吉井和哉へと名前を変えたシングル「BEAUTIFUL」のカップリングのこの曲を、最初に登場した3人も参加して歌い、オーディエンスの心を温めてくれた。
 歌い終わった吉井が、「有賀さん、いる?」とカメラマンの有賀幹夫さんを探す。すると有賀さんがステージ上に現われて、吉井のリクエストに応えて、メンバー全員とオーディエンスの“テンサウザンド(1万人)ショット”を撮ったところで、吉井&バンド&ファンのエネルギッシュな忘年会はお開きになったのだった。

【取材・文:平山 雄一】
【撮影:有賀幹夫】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 吉井和哉 THE YELLOW MONKEY

リリース情報

ヨジー・カズボーン~裏切リノ街~

ヨジー・カズボーン~裏切リノ街~

2015年12月09日

日本コロムビア

01. 「MR.CROWLEY ~OPENING~」 オジー・オズボーン(1980年)
02. 「HELL’S RIDER」 サブラベルズ (1983年)
03. 「青春時代」 森田公一とトップギャラン (1976年)
04. 「異邦人」 久保田早紀 (1979年)
05. 「赤頭巾ちゃん御用心」 レイジー (1978年)
06. 「ACTION! 100,000VOLT」 ACTION! (1984年)
07. 「Mr. サマータイム(UNE BELLE HISTOIRE)」 サーカス (1978年)
08. 「ガンダーラ」 ゴダイゴ (1978年)
09. 「長い夜」 松山千春 (1981年)
10. 「リンゴ追分」 美空ひばり (1952年)
11. 「MR.CROWLEY ~ENDING~」 オジー・オズボーン(1980年)

セットリスト

吉井和哉「Beginning & The End」
2015.12.28@日本武道館

  1. 恋の花
  2. PHOENIX
  3. I WANT YOU I NEED YOU
  4. 欲望
  5. SIDE BY SIDE
  6. CALL ME
  7. BLOWN UP CHILDREN
  8. 朝日楼 (朝日のあたる家)
  9. シュレッダー
  10. TALI
  11. 魔法使いジェニー
  12. MUSIC
  13. 点描のしくみ
  14. (Everybody is)Like a Starlight
  15. FLOWER
  16. 雨雲
アンコール
  1. トブヨウニ
  2. SWEET CANDY RAIN
  3. BLACK COCK’S HORSE
  4. ノーパン
  5. HEARTS
  6. FINAL COUNTDOWN
  7. 血潮
  8. MY FOOLISH HEART

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